スティーヴン・タイラー(Aerosmith)の歌声の変遷|自分の甘い声を嫌った青年が、バラードと共演で聴かせた声

エアロスミスのスティーヴン・タイラーは、自分の声がロック向きではないと思っていた時期がありました。
理由は、声が弱かったからではありません。
本人には、自分の声が甘すぎるように聞こえていたのです。

あのざらついた声を知っていると、少し意外な話でしょう。
タイラーはデビュー作で、もっと荒々しい声に聞こえるよう歌い方を変えていたと振り返っています。
初期の声は、若かったから自然にああなった、だけでは説明できません。

その後のタイラーは、細かいリズムのロックだけでなく、大きなバラード、カントリーのソロ作品、若い歌手とのデュエットにも声を使っていきます。
**変わってきたのは声の年齢だけでなく、自分の声のどんな魅力を曲に使うかという選び方でした。**

1973年――「Dream On」にも、作った声が入っていた

1973年のデビューアルバム『Aerosmith』には、「Dream On」が収められています。
静かな始まりから少しずつ歌が大きくなり、終盤には高い声へ進む曲です。
のちのエアロスミスにつながる、抑えた歌と大きな歌の組み合わせは、すでにここにあります。

一方、その声の出し方について、タイラーは1997年の『Fresh Air』で、若いころは自分の声が甘く、天使のように聞こえたため、ロックのバンドには合わないと思っていたと話しています。
そこで、意識して荒い声を作っていた。
しかも本人は、「Dream On」でもその声で歌っていたと説明しています。

この話を知ると、初期の歌の聴き方が少し変わります。
本人にとって、甘い声はまだ堂々と前に出したい長所ではなかった。
大きな音のバンドを率いるなら、もっと荒々しく聞こえなければならないという意識があったのです。

ただ、「Dream On」は荒々しさだけの曲にはなりませんでした。
長く歌う旋律と終盤の高音によって、タイラーの声には、粗さだけでは収まらない広がりもあると分かります。
本人が好ましく思っていなかった声の性質まで、聴く側には魅力として届く。
そのずれが、このあとの歩みを面白くしています。

1974〜1975年――ほかの歌手のように歌うのをやめる

次のアルバム『Get Your Wings』では、プロデューサーのジャック・ダグラスが制作に加わります。
ダグラスは、最初のアルバムでタイラーが自分とは違う声を作っていたと捉え、もっと本人の声で歌うよう促したと振り返っています。

ここでいう「本人の声」は、ざらつきのない、きれいな声だけを指すのではありません。
ロック歌手らしく聞かせるために別の人物のような声を作ることと、自分が持つ粗さや高音を使って歌うことは、同じではないのです。

ダグラスと作った1975年の『Toys in the Attic』には、「Walk This Way」があります。
この曲では、タイラーの声が細かく言葉を刻み、ギターやドラムと一緒にリズムを作ります。
初期の声を別人のように聞かせる工夫から、タイラー自身の口の動きやリズム感が曲の特徴になる方向へ進んだ、と見ることができます。

「Walk This Way」の面白さは、高音に達する前の言葉の切り方にもあります。
歌とギターの間にどんなやり取りがあるのかは、スティーヴン・タイラーの歌い方で詳しく扱っています。

1996年のスティーヴン・タイラー
1996年のスティーヴン・タイラー。写真:John Mathew Smith & www.celebrity-photos.com / CC BY-SA 2.0

1998年――荒々しい歌手が、眠りたくないほどの愛情を歌う

1998年の映画『アルマゲドン』の主題歌「I Don’t Want to Miss a Thing」は、タイラーが持つ声の別の使い道を、広く印象づけた曲です。
それまでのエアロスミスにもバラードはありましたが、この曲を書いたのは、バンドのメンバーではなくダイアン・ウォーレンでした。

ウォーレンが考えたのは、大切な人と過ごす時間を少しも逃したくない、という歌です。
彼女は、セリーヌ・ディオンのような歌手が歌うことを想像していたと話しています。
やわらかな愛情を、大きな旋律で歌う曲だったわけです。

ところが、タイラーが歌うと、その言葉の印象が変わりました。
ウォーレンは、荒々しくたくましいロックスターがこの内容を歌うことで、曲に別の魅力が加わったと説明しています。

いつも強そうに見える人が、相手を失うことには弱い。
タイラーの声には、そのように受け取れる面白さがあります。
声の粗さを消して優しい歌に近づけるのでなく、粗さのある人が優しいことを言うから、言葉が強く残るのです。

デビュー時に甘すぎると思っていた声も、ロックの歌手として育ててきた荒々しさも、ここでは邪魔になりません。
大きな旋律を歌えることと、きれいに整いすぎないことが、同じラブソングの魅力になっています。

2015〜2016年――ナッシュビルで、別の作曲家の歌を選ぶ

2015年には、ソロ曲「Love Is Your Name」が発表されました。
翌2016年のアルバム『We’re All Somebody From Somewhere』につながる曲です。
エアロスミスとは別のソロ活動として、タイラーはカントリー音楽の街ナッシュビルで制作に取り組みました。

カントリーと聞くと、ハードロック歌手が急に別の人になろうとしたようにも見えます。
しかし、タイラーが2016年のGRAMMY.comの取材で話しているのは、新しい相手と曲を作りたいという気持ちです。
幼いころからエヴァリー・ブラザーズなどに親しんでおり、歌のハーモニーも遠い世界のものではありませんでした。

「Love Is Your Name」を書いたのは、リンジー・リーとエリック・パスレイです。
タイラーは、ナッシュビルのブルーバード・カフェでリーがこの曲を歌うのを聴き、のちに音源を聴き直したときにも歌いたいと思ったと振り返っています。
自分でリフを作って歌を乗せる場合とは、曲との出会い方から違います。

この曲では、弦を弾く細かな音やコーラスに囲まれて、タイラーが大きな旋律を歌います。
周りの音は軽やかでも、主役の声まで薄くなるわけではありません。
長く伸ばす声と、その中に残るざらつきが、いつものタイラーだと感じさせます。

「Walk This Way」では、短く切る言葉がギターのリズムに加わっていました。
こちらでは、細かな動きのある伴奏の上で、旋律を大きく歌う声が目立ちます。
同じように勢いのある声でも、周りの演奏と何を分担するかが変わったのです。

2018年8月、ロンドンのソロ公演で歌うスティーヴン・タイラー
2018年8月、ロンドンのソロ公演で歌うスティーヴン・タイラー。写真:Raph_PH / CC BY 2.0

2025年――一人で前に立つ声を、二人のハーモニーにする

2025年、エアロスミスはイギリスの歌手ヤングブラッドとEP『One More Time』を発表します。
先行曲の「My Only Angel」は、タイラーとヤングブラッドの声を重ねたハーモニーから始まります。
バンドの演奏が大きくなる前に、まず二人の声の組み合わせを聴かせる作りです。

ソロの歌手が交代で一節ずつ歌えば、それぞれの声を比較しやすくなります。
一方、声を重ねて歌う部分では、二人が一緒に作る響きが曲の印象を決めます。
「My Only Angel」は、タイラーの声を単独で目立たせるだけでなく、その声がほかの歌手と混ざったときの魅力も使っています。

EPには二人が歌う新曲に加え、「Back in the Saddle」の2025年版も収められました。
新しい相手と新曲を作り、昔の代表曲にも一緒に向き合う。
タイラーの歩みが、過去の自分を再現することだけで続いているわけではないと分かる作品です。

2026年――新しいミックスで戻ってきた、1973年の声

新しい共演に続いて、タイラーたちはデビュー時の録音にも向き合います。
2026年、デビュー作『Aerosmith』が『Legendary Edition』として再登場しました。
タイラーとペリーも関わり、当時の録音を使って、声と楽器の音のバランスなどを新しく組み直しています。

ここで聞こえるのは、2026年に歌い直した声ではなく、1973年に録った声です。
歌声の印象は、歌手の歌い方だけでなく、周りの音との関係でも変わります。
新しい共演作では現在の歌を、デビュー作の新しいミックスでは若いころの歌を聴ける。
長く続けてきた歌手だからこそ、同じ時期に発表された作品でも、半世紀以上離れた声に出会えるのです。

甘い声も荒い声も、使い道が増えてきた

タイラーの変遷を振り返ると、単に荒い声が滑らかになった、あるいは高音が変わった、という一本道にはなりません。
初期には、甘すぎると感じた自分の声を隠そうとしていました。
その後は、自分のリズム感を生かしたロックを歌い、荒々しい印象のままラブソングの弱さや切実さも歌っています。

ソロでは新しい作曲家の旋律を選び、近年の共演では、別の歌手と声を重ねる面白さを加えました。
声の持ち味を全部変えるより、持っている声をどんな曲や相手に使うかを変えてきたのです。

若いタイラーがロックには甘すぎると思った声は、長い歩みの中で、欠点として隠しておく必要がなくなりました。
大きなバラードにも、軽やかな伴奏にも、二人で歌うハーモニーにも使える。
タイラーの声の魅力は、本人が最初に考えていたロック歌手の姿より、ずっと広いところまで届いています。

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