ジョーイ・テンペスト(Europe)の歌い方|あの高音の歌手が、アドリブを減らした理由

歌の合間にも声を入れたくなる。
Europeのジョーイ・テンペストには、そんな時期がありました。
バンドのメンバーから控えるように言われ、自分でも、ただ空いている場所を埋めていたのだと気づいたといいます。

「The Final Countdown」で知られる華やかな高音は、彼の大きな魅力です。
けれど、歌えるところをすべて歌えば、その曲がよくなるとは限りません。
ジョーイの歌い方を考えるうえでは、声の高さとともに、何を伝えるためにその声を使うのかが大切になります。

声を足すほどよくなる、とは限らない

1988年の『Out of This World』を振り返った取材では、多くの曲が歌のフレーズから始まることも話題になりました。
同作の「Superstitious」は、あの頃のジョーイを知る代表曲の一つです。

2006年に本人が説明したのは、声を無理に押し出したり、ビブラートやアドリブを大げさに使ったりしない歌い方でした。
ビブラートは、伸ばした声の高さを揺らすこと。
アドリブは、決まった旋律に加えて差し込む歌のフレーズです。
どちらも歌を華やかにできますが、多ければ多いほどよいわけではありません。

この指摘から考えたいのは、声の良さと、声を入れる場所は別の問題だということです。
高音も、声の揺れも、歌の合間の一声も、目立つからこそ使いどころがある。
歌手が前に出る瞬間と、演奏に任せる瞬間を選ぶことで、一曲の中に違った強さを作れます。

2008年、ラクスエルヴ公演のジョーイ・テンペスト
2008年、ラクスエルヴ公演のジョーイ・テンペスト。写真:Original photography: Lill-Mari Andersen. Cropped by Stein-Vidar Andersen (Aphasia83) / CC BY 2.0

恋人への歌と思ったら、息子への歌だった

では、声を飾ることより先に、歌で何を伝えたいのでしょう。
2009年の『Last Look at Eden』にある「New Love in Town」は、その問いが具体的になる曲です。
題名からは新しい恋を思い浮かべますが、ジョーイがきっかけとして挙げたのは、息子の誕生でした。

歌の中の愛が、恋人に向けたものか、生まれてきた子供に向けたものか。
その背景を知るだけで、同じ歌声から受け取る気持ちも変わります。
ここで知りたくなるのは、いちばん高い音だけでなく、新しい家族を迎えた喜びを彼がどんな声で歌うのかです。

同じアルバムについて話す際、ジョーイは、英語での表現にも手応えを感じていました。
スウェーデンで育った頃は、英米のロックを聴いて言葉を覚えたため、ありきたりな表現に頼ることもあった。
国外での生活を重ね、英語の歌詞にユーモアや皮肉まで込められるようになったといいます。

きれいな旋律に英語を当てはめるだけではなく、歌いたいことを自分の言葉で書く。
高音の鮮やかさで知られる歌手が、父親としての喜びも歌うと知ると、声の表情に注目する理由が一つ増えます。

スタジオでも、舞台で歌うつもりで

言葉を大事にする歌い方は、おとなしく歌うことと同じではありません。
2015年の『War of Kings』では、プロデューサーのデイヴ・コブが、舞台に立っているつもりで歌うようジョーイに促しました。
そのうえで、特定のフレーズには別の歌い方を試してもらう。
歌全体の勢いと、一行ごとの表現を、両方見ていたのです。

ジョーイは、この録音でコブに引き出してもらった声を、かすれや温かみ、深みのあるものとして説明しています。
ただ荒く叫ぶのでも、一音ずつ整えることだけに集中するのでもない。
ライブの気持ちで歌いながら、曲に合う表情を探していく作業でした。

表題曲「War of Kings」では、ジョーイが旋律を歌っているうちに、子供の頃に読んだ小説『The Long Ships』を思い出しました。
北欧の王たちが争う物語です。
ギターのリフと歌の旋律が、その物語に合うと感じたことから歌詞が生まれていきました。

先ほどの「New Love in Town」は身近な家族の歌で、こちらは歴史を題材にした大きな物語です。
同じ声の持ち主でも、すべての曲に同じ感情を強く乗せる必要はありません。
旋律と言葉が示す場面に合わせて歌うから、温かさにも、力強さにも役割が生まれます。

2023年、Rock Meets Classicで歌うジョーイ・テンペスト
2023年、Rock Meets Classicで歌うジョーイ・テンペスト。写真:Sven Mandel / CC BY-SA 4.0

強く歌う曲のために、静かな時間も作る

こうした使い分けは、一曲の中だけで完結しません。
2013年のSweden Rockでは、「Drink and a Smile」と「Open Your Heart」をアコースティックの場面にまとめました。
大勢がロックを楽しみに来るフェスティバルで通用するか、バンドにも迷いがあったそうです。

結果についてジョーイが喜んだのは、演奏に強弱をつけられたことでした。
静かな場面のあとで、再びバンドが強く鳴り出す。
ずっと同じ勢いで歌い続けるのとは違う盛り上がりが、そこで作れます。

声の高いところだけを取り出せば、ジョーイは派手なロック歌手に見えるでしょう。
けれど、アドリブを控える判断や、曲ごとに歌う気持ちを変えること、ライブに静かな時間を作ることも、あの声を生かすための選択です。
歌の合間にもう一声を加えるか、演奏に任せるか。
それは声量の大小とは別の、歌手が選べる表現なのです。

若い頃の高音から、再結成後の声へどう変わっていったのかは、ジョーイ・テンペストの歌声の変遷でたどっています。
ここで押さえておきたいのは、出せる声を全部使うことより、その曲に必要な声を選ぶこと。
ジョーイの歌には、高音の力だけでなく、それをいつ聴かせるかという判断もあるのです。

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