「Beautiful Things」でベンソン・ブーンを知った人が、「Mystical Magical」を聴くと、少し驚くかもしれません。
前者では、大切なものを失わないよう、必死に高音を張り上げる。
後者では、軽い裏声を弾ませて、どこか不思議な恋の気分を歌います。
声が高いという共通点はあっても、その使い方はずいぶん違います。
**ベンソンは、悲しさを伝える柔らかい歌から、強く訴える歌へ進み、さらに高音で楽しませる歌へと表現を広げてきました。**
まだ短い活動期間にも、はっきりした転機があります。
歌えると分かっても、歌手になるとは決めていなかった
ベンソンが自分の歌声に気づいたのは、高校生の頃です。
学校のバンド演奏で、もともとはピアノを弾く予定でしたが、歌うはずだった人が出られなくなり、自分がマイクを持つことになりました。
それまでは、スポーツやアウトドアが好きな少年でした。
家では音楽が流れ、姉妹の練習後にピアノを弾くこともあったものの、幼い頃から歌手を目指してきた人ではありません。
歌えると分かってからも、すぐに将来が決まったわけではありませんでした。
2021年に出演した『American Idol』でも、勝ち進めそうになった頃に、自分がなぜここにいるのか分からなくなったと振り返っています。
歌が評価されることと、歌手として生きたいと思うことは、彼にとって別だったのです。
番組を離れたあと、イマジン・ドラゴンズのダン・レイノルズと曲を作る機会が訪れます。
その頃のベンソンは、まだ自分の音楽を書いたことがありませんでした。
ダンとピアノを囲み、歌を作り始めて、初めて音楽を仕事にしたいと思うようになります。
声を褒められたあとに、その声で何を歌いたいかを見つけていったのでした。
2021〜2022年、柔らかい声で痛みを伝える
2021年のデビュー曲「Ghost Town」は、ピアノを中心としたバラードです。
主人公は、相手が自分といるよりも、別の誰かといたほうが幸せなのではないかと考えています。
相手を引き止める一方の歌ではなく、自分と別れるほうがよいのかもしれないと歌うところに、苦さがあります。
この曲では、声を柔らかく置くことで、言いにくいことを打ち明けるような近さが生まれます。
後半に向けて歌が強くなっても、根底には、相手を思いながら自分を責めるような響きがある。
初期から高音は魅力でしたが、その高音が伝えていたのは、主に痛みやためらいでした。
2022年の「In the Stars」では、亡くなった曾祖母への思いを歌います。
けれど、最初の録音を聴いたベンソンは、音の仕上がりを気に入れず、曲そのものがよいのかも分からなくなったそうです。
母親に相談すると、あなたにとって大切な曲なのだから、自分が好きになれるよう作り直してはどうかと勧められました。
ベンソンは共同制作者とスタジオへ戻り、曲を仕上げます。
その結果、自分でも特に好きな一曲になりました。
静かに始まり、気持ちがあふれるにつれて声が大きくなる歌ですが、その感情が伝わる録音にするまでには、作り直す時間が必要だったのです。
ベンソンが、2024年になって初めて強い高音を使ったわけではありません。
小さな声から大きな声へ進む構成は、初期の作品にもありました。
違っていたのは、大きな声になったときの印象です。
初期の歌では、声の柔らかさや涙ぐむような情感が前に出る。
後の「Beautiful Things」では、そこへ、激しいギターに応える荒々しい力が加わっていきます。

2023年、悲しいバラードから少し外へ
その間に、2023年のEP『PULSE』があります。
「Sugar Sweet」など、リズムに乗って軽快に歌う曲を含んだ作品です。
ベンソンは、初期のバラードで見せた声の魅力を保ちながら、短い旋律を印象づけるポップソングにも取り組んでいました。
この時期、共同制作者のジャック・ラフランツとの仕事も重要になっていきます。
旋律はベンソンの中から次々に出てくる。
ジャックは、それを聴き、別の方向へ進むよう促す。
本人は、この作業によって、曲を書く力がついていると感じていました。
のちに「Beautiful Things」が大きく当たると、力強いバラードが彼の定番に見えます。
けれど、それより前から、本人は曲のリズムや雰囲気を変えて歌うことを試していたのです。

2024年、強く歌う声を、自分のものにしていく
「Beautiful Things」は、その中でも大きな変化でした。
ベンソン自身が、それまでとは違う声の部分を使った曲だと話しています。
録音では勢いを優先して歌ったため、あとから、無理なく高音を出せるよう訓練する必要もありました。
声の迫力が先に曲の中で見つかり、その歌い方を扱えるよう、本人が追いかけていく。
完成した録音だけを聴いていると見えにくい、そういう試行錯誤もあったのです。
この曲の強い声は、怒りや勝利を歌うものではありません。
幸せを失いたくないという不安を、ほとんど叫ぶように伝えます。
静かな前半からサビへの変化については、ベンソン・ブーンの歌い方で、曲が生まれた経緯と合わせて扱っています。
同年のアルバム『Fireworks & Rollerblades』には、「Slow It Down」も収められました。
こちらは穏やかな始まりから、次第に演奏も歌も勢いを増していく曲です。
「ゆっくり」と呼びかけているのに、歌声にはだんだん勢いがつく。落ち着きたいのに落ち着けない人の焦りが、その変化に表れます。
ベンソンは、この曲について、せっかちになりやすい自分と、今この瞬間を大切にしたい気持ちを語っています。
この曲でも、強い声は、落ち着いていたいという願いと一緒にあります。
穏やかな歌い出しと高音の迫力の差を、気持ちの揺れとして聞かせています。
2025年、裏声が遊び始める
2025年の『American Heart』では、ベンソンの高音に、違う表情が現れます。
特に分かりやすいのが、「Mystical Magical」です。
この曲の制作は、思うように進まない数日を経て、もう一度楽しんで作ろうとしたところから動き出しました。
ベースのフレーズはできていても、サビがなかなか決まらなかった。
そこでベンソンが、ピアノの高い音を短く弾むように弾くと、歌の方向も見えてきます。
録音で歌ううちに、ベンソンの歌い方は、ますます遊び心のあるものになりました。
エヴァン・ブレアも、それに応じて伴奏を作っていきます。
「Beautiful Things」では歪んだギターが強い声を引き出しましたが、今回は、跳ねるピアノと歌が、軽やかな曲を作ったのです。
高音を使っていても、相手にしがみつくような切迫感はありません。
声を軽くして弾ませることで、恋に浮かれた気分や、少し大げさな楽しさが生まれます。
前のヒット曲よりさらに強く叫ぶ、という方法で次の曲を作ったわけではなかったのです。
同じアルバムの「Sorry I’m Here for Someone Else」も、もともとは悲しいピアノ曲として始まりました。
それを、勢いのあるシンセサイザーの曲へ変えています。
元恋人に偶然会うという気まずい場面を、沈んだ声だけで歌う必要はない。
明るい伴奏の中に戸惑いを残す歌も、ベンソンの表現に加わりました。
2026年、大きな舞台で、一人で歌う場所も作る
2026年の〈Wanted Man Tour〉では、ベンソンは、力強い歌も軽い裏声も使う大きなショーを行っています。
その中には、伴奏や演出を減らした場面もありました。
7月24日のシカゴ近郊の公演では、当時未発表だった「Traveler」を、別の小さなステージで一人で演奏しています。
こうしたステージでは、いくつもの歌い方に触れられます。
「Beautiful Things」の迫力を楽しみにする人もいれば、「Mystical Magical」の軽さが好きな人もいる。
大きな演奏を離れ、一人で歌うときの近さに惹かれることもあるでしょう。
ベンソン自身も、2025年の時点で、今の自分の音楽が10年後も同じとは思っていないと話していました。
今の音楽を好きだと思いながらも、これからも同じ曲調だけを歌い続けるとは決めていないのです。
悲しさも、怖さも、楽しさも歌える高音へ
初期の「Ghost Town」や「In the Stars」では、柔らかい声と高音が、別れの痛みを伝えていました。
「Beautiful Things」では、大切なものを失う怖さが、激しい歌声になります。
「Mystical Magical」では、その高音を軽く弾ませて、恋の楽しさを歌います。
高い声を、いつも同じ気持ちのために使っているわけではありません。
曲を一緒に作る人や伴奏が変わるたびに、ベンソンは、別の歌い方を試してきました。
**強く歌う場面が増えたことと同じくらい、強く押し出さずに高音を楽しませるようになったことも、彼の大切な変化です。**
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