テディ・スウィムズの歌い方|大きな声で、弱さを歌える理由

2023年のテディ・スウィムズ シンガー
Warner Records / CC BY 4.0

「Lose Control」でテディ・スウィムズが歌っているのは、一人では自分を保てなくなるほど、誰かを求める気持ちです。
声には太さも、ざらつきも、押し寄せるような勢いもある。
それでも、歌の主人公が強い人だとは思えません。
あれだけ声を張っているのに、相手にすがっていることが伝わってきます。

テディの歌い方を知る手がかりは、強い声に、どんな気持ちを託しているかにあります。
強く歌う場面で弱さをさらけ出し、声を小さくすると、さらに近くで話しているような親密さが生まれる。
2023年の「Lose Control」のライブ歌唱から、力強さと優しさが同居する理由を見ていきましょう。

力のある声で歌う、力を失った人

「Lose Control」は、離れてしまった相手を思うだけの恋愛の歌ではありません。
相手がそばにいないと、生活も気持ちも崩れてしまう。
良くない関係だと気づきながら、抜け出すことができない人の歌です。
一緒にいたいという願いに、切迫した依存が混じっています。

この前提を知ると、サビの強い歌声にも違う意味が出てきます。
誰かを圧倒したり、自分の強さを誇ったりするための声ではなく、崩れていく自分を相手に分かってほしいと訴える声なのです。
テディの声には大きな力があるのに、その力を使って歌っている言葉は、助けを求めています。

共同制作者のミッキー・エッコも、当時のテディが抱えていた出来事や感情が、歌声に表れていると振り返っています。
制作の場では、個人的な経験を仲間たちに話し、互いの気持ちを知ったうえで曲を書いていました。
あの声の激しさは、当時の本人が抱えていた切迫感ともつながっています。

サビの言葉を、一音で終わらせない

「Lose Control」のサビでは、タイトルの言葉が長く伸び、その途中で音の高さが細かく動きます。
歌の言葉を一つずつ素早く進めるのではなく、一つの言葉の中に、いくつもの音を含ませる歌い方です。
そのためサビを聴くと、歌詞の意味と一緒に、声がうねりながら続いていくこと自体も記憶に残ります。

この見せ場は、制作中から意識されていました。
共同制作者のジュリアン・ブネッタが求めたのは、聴いた人が、テディの歌の力に驚く瞬間です。
彼は、声で奏でる印象的なフレーズが必要だと考えました。
曲のゆったりしたテンポにも、そのフレーズを十分に歌える余地がありました。

ただし、速く音を動かせることと、それが曲の中で必要なことは別です。
この曲では、気持ちを制御できないと訴える言葉が、すぐには終わらず、声の中で長く揺れ続ける。
うまさに驚いたあと、その執拗さが、相手から離れられない主人公の姿とも重なってきます。

2023年9月、Roundhead Studiosで「Lose Control」を歌うテディ・スウィムズ
2023年9月、Roundhead Studiosで「Lose Control」を歌うテディ・スウィムズ。映像:Warner Music New Zealand / CC BY 3.0

叫んだあとに、優しさを残す

テディが歌手として強く憧れた一人が、オーティス・レディングです。
彼が特に惹かれたのは、叫ぶような強い声から、すっと小さな声へ移る歌い方でした。
「Mr. Pitiful」などで、切迫した響きが、そのまま柔らかな響きへ変わっていく。
テディは、叫びながら、どうすればあれほど優しさを伝えられるのかと考えたといいます。

大きな声を出す方法だけを学ぼうとしたのではありません。
強く歌ったあと、どこで力を引き、どんな気持ちを残すかまで聴いていたのです。
ずっと強い声で歌うのと、途中で声量を落として歌うのとでは、聴き手に伝わる印象も違います。
そこに小さな声が入ると、堂々とした人の胸の内を、ふと近くで聞かせてもらうような瞬間が生まれます。

本人は、細かく音を動かす技巧が、曲の感情を邪魔してしまう場合もあると話しています。
だから、テディの歌では、よく伸びる高音や派手な節回しだけを追うと、大切なところを聞き逃します。
その前後で、どのくらい声を引くか。
そこまで含めて、一つの訴えになっています。

メタルの声も、泣けるバラードも好きだった

強い声で歌うことは、テディが親しんできたメタルでも、大切な表現でした。
本人は2025年にも、歌手である前に、叫ぶような声で歌うスクリーマーだったと語り、最も居心地がよいジャンルとしてメタルを挙げていました。
大きな声で思いきり歌うことは、今も本人にとって遠い過去の趣味ではないのです。

一方で、2021年の時点で、テディは静かなバラードだけを期待される歌手にはなりたくないとも話しています。
聴き手に泣いてもらいたい日もあれば、笑ったり、踊ったりしてもらいたい日もある。
本人が気分によって、泣ける歌と盛り上がれる歌を聴き分けるように、自分の音楽にも、その両方を持たせたかったのです。

こうした考えから見ると、テディの強い声を、怒りや悲しみ専用の声として受け取る必要はありません。
同じ勢いが、ある曲では切実な頼みになり、別の曲では、体を動かしたくなる楽しさにもなる。
声の迫力を保ちながら、曲のリズムと、そこで歌う気持ちを変えられるのが、テディの歌の面白さです。

インタビューで話すテディ・スウィムズ
インタビューで話すテディ・スウィムズ。映像:Warner Music New Zealand / CC BY 3.0

「Funeral」では、悲しい気持ちのまま踊れる

その考えがよく分かる曲が、2024年に発表された「Funeral」です。
葬式を意味する題名ですが、テディがこの曲について強調したのは、楽しく、明るく、踊りたくなる音楽であることでした。
そして、その下には悲しさもあると説明しています。
喜びがありながら、胸が痛む音楽を作ることが好きなのだそうです。

「Lose Control」では、長いサビが切実な気持ちを引き伸ばしていました。
「Funeral」では、同じ歌手の声を、前へ進むリズムと一緒に味わうことになります。
悲しい歌だから、伴奏も歌い方もすべて沈んでいなければならない、という決まりはありません。
テディは、悲しみを歌う場面にも、体が動く楽しさを残しています。

当時、本人は、昔のソウルやモータウンの感触を、今の音楽として形にする方向が見えてきたと話していました。
いろいろなジャンルを歌える声が、自作曲の中でどうまとまっていったかは、テディ・スウィムズの歌声の変遷でたどっています。

声の強さが、気持ちの強さとは限らない

テディ・スウィムズの歌声は、強く響くからこそ、そこでさらけ出される弱さが印象に残ります。
「Lose Control」のサビで、堂々と歌える人が、堂々としていられない気持ちを歌う。
長くうねるサビには、願いを言い終えても、まだ相手に訴えていたいような切実さがある。
さらに本人がオーティスから学んだ、強い声のあとに優しさを残す歌い方を思うと、大声の前後にも耳が向きます。

あの歌の魅力を、太い声や高音の一言で片づけるのは惜しい。
声が最も強くなったところで、歌の主人公は何を求めているのか。
その先で声が柔らかくなると、同じ言葉がどう聞こえるのか。
そこまで聴くと、テディの迫力が、なぜ威圧感よりも親密さにつながるのかが分かってきます。

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