2025年、テディ・スウィムズは「Lose Control」と「The Door」を公演で歌う時間について、意外なことを話しました。
苦しい恋愛の中から生まれた歌なのに、客席では何千人もの人が一緒に歌い、踊っている。
本人には、その場が過去の痛みを祝うように感じられるというのです。
「Lose Control」を発表した2023年には、相手から離れられず、自分を見失う感覚を歌っていました。
歌詞が明るく書き換わったわけではありません。
では、同じ歌を歌い続けながら、何が変わったのでしょうか。
2019年のカバー、初めて自分の暮らしを歌った作品、そして二つのアルバムをたどると、声の強さ以上に、その声で誰の気持ちをどう届けるかが変わってきたことが見えてきます。
2019年――名曲のカバーで集まった人へ、自分の歌を届けるには
カバー動画を始める前から、テディにはバンドで歌い、曲を書く経験がありました。
高校ではミュージカルに関わり、友人とアコースティックギターで曲を作り、その後は複数のバンドを掛け持ちしています。
だから2019年の課題は、初めて人前で歌うことよりも、いろいろな音楽を歌ってきた自分を、一人の歌手としてどう知ってもらうかにありました。
初めて投稿したカバーは、マイケル・ジャクソンの「Rock with You」でした。
当初は一度きりのつもりでしたが、反響を受けて、シャナイア・トゥエインの「You’re Still the One」やR&Bの曲など、ジャンルをまたいで歌うようになります。
テディ自身は、どの音楽が自分に合うのかを探すために、さまざまなカバーを試したと振り返っています。
一つのジャンルに絞らなくても、テディに歌ってほしいと思う人がいた。
それは発見であると同時に、次の難しさの始まりでもありました。
マネージャーのルーク・コンウェイは、名曲のカバーで有名になれば、本人の曲よりカバーを求められるのではないかと恐れていたと話します。
実際、当時からオリジナル曲を書いていたのに、聴き手に伝わるのはまず「他人の名曲を歌う声」でした。
2021年――歌えるのに、自作曲には胸を張れなかった
EP『Unlearning』へ向かう制作でも、テディは自分の曲を簡単には好きになれませんでした。
「Bed on Fire」は音作りを20通り以上試し、発表する頃には何度も聴き過ぎて考え込んでいたといいます。
自分がカバーしてきたのは、本人が最高だと思う曲ばかり。
次はその隣へ自作曲を置くことになるのです。
そこから一歩進んだのが、同じ年の「Simple Things」でした。
故郷で家庭を持つ友人は、音楽を続けていたらどうなったかと考え、旅を続けるテディは、自分に家庭があったらどうだったかと考える。
互いに、自分が選ばなかった人生を見ていた会話が、身近な人や暮らしを大切に思う歌になりました。
テディは後に、この曲では初めて自分の人生に固有のことを率直に書いたと語っています。
個人的過ぎると思っていた言葉が、それまでの作品以上に人へ届いた。
名曲の気持ちを自分の声で伝える歌手が、自分の経験を歌にしても聴き手に届くと知った転機でした。
その手応えは、数字だけで得たものでもありません。
2023年の取材で、テディは、公演ごとの交流でファンから、自分の歌が生活にどう関わったかを聞いていると話しています。
自分だけの話だと思っていた曲に、聴き手も自分の経験を重ねていた。
その反応が、もう少し率直に歌ってよいと思える場所を作っていました。
オリジナル曲が増えてからも、カバーをやめたわけではありません。
2022年にはニュージーランドでSix60の「Rivers」を歌っています。
違うジャンルの歌を歌える声を残したまま、自分の話も作品にしていきました。

Warner Music New Zealandの映像からの静止画。
Commonsでのライセンス表記:CC BY 3.0
2023年――「Lose Control」で、自分の声が曲にふさわしいと思えた
アルバム『I’ve Tried Everything but Therapy(Part 1)』について、テディは、それまでと違って自分の声が曲に収まっていると感じ、言いたいことを自分の言い方で歌えていると語りました。
歌唱技術を急に手に入れたという話ではありません。
声を鍛えてきた一方で、その声を好きになれない部分もあった人が、ようやく自分の作品を誇れるようになったのです。
「Lose Control」を作る際、共同制作者のジュリアン・ブネッタは、テディの歌唱力を一度で印象づける節回しが必要だと考えました。
ミドルテンポの伴奏には、長く歌える場所がありました。
同時に、制作に参加したミッキー・エッコは、テディが自身のつらい経験を仲間に話し、その感情が歌にも表れていたと振り返ります。
技を見せるために感情を後から貼ったのではなく、歌えることと、どうしても歌いたいことが同じ曲に集まりました。
サビの強い声と弱さが同居する理由や、言葉を長くうねらせる歌い方は、テディ・スウィムズの歌い方で詳しく扱っています。
変遷で重要なのは、これまでカバーで示してきた力を、自分の出来事を歌う声として引き受けられたことです。
同じアルバムの「The Door」では、傷つく関係から出ていく側の言葉も歌いました。
「Lose Control」の主人公が相手を失う恐れに縛られているとすれば、こちらはそこから離れる選択です。

Warner Music New Zealandの映像からの静止画。
Commonsでのライセンス表記:CC BY 3.0
2025年――新しい恋を歌い、苦しかった歌も手放さない
続く『I’ve Tried Everything but Therapy(Part 2)』では、良い関係の中にいる今から曲を書きたいとテディは話しました。
ただし、幸せな歌に不安がまったくないわけではありません。
愛されることを、まだ少しずつ受け入れている人の気持ちも残したいというのです。
ギヴィオンと歌う「Are You Even Real」は、その揺れがよく分かる曲です。
今度の主人公は、相手がいないと崩れてしまうのではなく、こんな愛情を自分が受け取ってよいのかと驚いています。
強い感情を歌うことは変わらなくても、その中身が、失う恐れから新しい愛情を信じたい気持ちへ移りました。
この曲では、歌う相手の選び方にも具体的なやり取りがあります。
テディによると、曲を聴いたギヴィオンから、頭から離れないと連絡があり、参加できるよう歌の一節を空けた音源を送ったそうです。
自分の声を聴いてもらうところから始まった作品に、別の歌手が歌う余地を作る。
自分の経験を歌えるようになった先で、その曲を他の声とも分け合っています。
それでも公演から「Lose Control」が消えたわけではありません。
2025年の本人は、つらかった頃の感情へ歌の間だけ戻り、歌い終えたらそこから離れられると説明しています。
客席も一緒に歌うようになり、本人にとって「Lose Control」や「The Door」は、あの時期をただ繰り返す歌ではなくなりました。
痛みを抱えたまま作った歌を、今は客席と分かち合う時間にもできるのです。
2026年――「完璧な男」になれない自分も歌にする
2026年9月の新曲「Perfect Man」では、パートナーや父親として、何もかもできる人間でいなければと自分を追い込む気持ちを歌いました。
テディはこの曲を「自分を許すこと」についての歌だと説明しています。
弱さを隠す代わりに、それを話せるようになってほしいとも語りました。
「Lose Control」では、相手から離れられない自分を歌った。
次の作品では、新しい愛情を受け取る戸惑いを歌った。
そして今は、愛する人を前にした自分の不完全さまで歌にしています。
昔の痛みをなかったことにするのではなく、その先にいる自分にも新しい言葉を向けられるようになったのです。
初めは、誰かの名曲を歌うことで人を集めたテディ。
その後、自作曲が届くか悩み、自分の暮らしと失恋を歌い、愛される喜びも、自分を許す難しさも歌うようになりました。
マネージャーは「Lose Control」の成功後、この曲を別の歌手たちがカバーするようになったことに驚いています。
人の歌で見つかった声が、自分の経験を歌う声になり、その歌がまた誰かの声へ渡っていく。
客席で起きる合唱は、その変化がテディ一人の中だけで終わらなかったことを物語っています。

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