テディ・スウィムズは、「Lose Control」が大ヒットする前から、歌のうまさで知られていました。
シャナイア・トゥエインの「You’re Still the One」を歌えば、その曲を好きだった人が振り向く。
R&Bの名曲でも、カントリーの曲でも、テディの声を聴きたい人が増えていきました。
けれど、それは自作曲を聴いてもらえることと、同じではありませんでした。
本人は、自分の歌も、カバーしてきた名曲と同じくらい良くなければいけないと悩んでいたのです。
その声が、やがて「Lose Control」の主人公として聴かれるようになり、さらに幸せな恋も歌うようになる。
テディの歩みでは、声の力に、何を歌うかという自信が追いついていく過程が見えてきます。
2019年、ジャンルを決めずに歌ってみた
テディがYouTubeへカバーを投稿し始めたのは、2019年です。
その前から、複数のバンドで音楽を作り、メタルやソウルなどを歌っていました。
最初の「Rock with You」は、マイケル・ジャクソンへの思いを込めた、一度きりのつもりの投稿でした。
その反響から、カバーを続けるようになります。
2019年10月の「You’re Still the One」は、初期のテディを知る代表的な歌唱です。
もともとはシャナイア・トゥエインの曲ですが、テディにとって、カントリーだけを歌うと宣言するための選曲ではありませんでした。
ほかにもR&Bやポップスを取り上げ、違うジャンルの曲を、自分の声で歌っていました。
何を歌えば、自分の進む方向が見つかるのか。
いろいろ試すうちに分かったのは、聴き手が、ジャンルを一つに絞ることを必ずしも求めていないということでした。
曲が変わっても、テディに歌ってほしいと思う人がいる。
少なくとも、歌手としての声には、すでに人を惹きつけるものがありました。
ただ、名曲で注目された人には、その名曲を求められ続けるという難しさもあります。
自作曲を歌いたくても、客が待っているのはシャナイアの曲かもしれない。
マネージャーのルーク・コンウェイも、「カバーの人」という印象から抜け出すことが、初期の大きな課題だったと振り返っています。
2021年、うまく歌えても、自分の曲には迷う
2021年、テディはEP『Unlearning』を発表します。
カバーを投稿していた時期から、仲間と自分たちの曲を書き続けていました。
ようやく、その曲をまとまった作品として届ける段階になったのです。
ところが本人は、自作曲に満足しているかと聞かれて、すぐに胸を張れる状態ではありませんでした。
たとえば「Bed on Fire」は、制作中に20を超えるバージョンを試したといいます。
何度も聴き、直し、また聴いているうちに、公開する頃には考えすぎてしまう。
歌ができることと、完成した歌を好きでいられることの間には、まだ距離がありました。
それに、カバーで歌ってきたのは、「I Can’t Make You Love Me」のような、本人が最高だと思う曲ばかりです。
次に出す自作曲も、その隣に並ぶことになる。
声を褒められるほど、歌わせる曲の出来も問われるという、難しい場所に立っていました。
「Simple Things」で、自分の生活を歌った
同じ2021年の「Simple Things」では、テディ自身の暮らしが歌の中心になります。
この曲の背景には、故郷に残り、子供を育てている友人との会話がありました。
友人が、音楽を続けていたらどうなっただろうと言うと、テディのほうは、家庭を持つ人生を選んでいたらどうだっただろうと考える。
互いに、相手の人生にあるものが気になっていたのです。
若い頃は、大きな夢を持たず、地元で暮らす人たちを不思議に思っていた。
けれど遠くへ出かけるほど、故郷や昔からの友人が、自分にとって大切だと分かってきた。
「Simple Things」は、その気づきを歌にしています。
2021年のライブ・パフォーマンスにも、世の中へ大きく出ていきたい人が、身近な暮らしの価値を歌うという、この曲の視点が表れています。
テディは後に、この曲を、自分の人生に固有のことを初めて率直に書いた歌として挙げています。
あまりに個人的な話だと思っていたのに、それまで以上に、人に届いた。
有名な曲を歌うことで伝わっていた声が、自分の生活を話すことでも、聴き手とつながり始めました。
自作曲を育てる一方で、カバーも続けています。
2022年9月には、ニュージーランドでSix60の「Rivers」をアコースティック編成で歌いました。
他の歌手の曲を自分の声で歌う楽しみは、オリジナル作品が増えても残っています。

2023年、この曲には、自分の声がふさわしい
2023年のアルバム『I’ve Tried Everything but Therapy(Part 1)』で、本人の手応えは変わります。
自分の声が、これらの曲に合っている。
言いたかったことを、この言い方で歌えるのは自分なのだと、感じられるようになったといいます。
「Lose Control」の太くうねるサビは、その象徴でした。
長い時間をかけて試してきたさまざまな音楽が、苦しい恋愛関係を歌う一曲にまとまる。
声を大きく響かせる力が、主人公の切迫した訴えと結びつきました。
強い声で弱さを歌う仕組みや、サビの細かな節回しは、テディ・スウィムズの歌い方で詳しく扱っています。
ここで、急に優れた声を手に入れたわけではありません。
本人は、長く練習し、声でできることを増やしてきたと説明しています。
変わったのは、その技術を使って、言いたいことを歌えているという実感でした。
名曲の良さを伝える声に、自分の歌だからこその説得力が加わったのです。

2025年、同じ声で、愛される喜びも歌う
2025年の『I’ve Tried Everything but Therapy(Part 2)』では、苦しい関係から離れたあとの気持ちも歌われます。
前作のように失恋を引きずる曲がある一方で、愛されることを喜ぶ曲も増えました。
大きな歌声を、傷ついた気持ち以外にも使える作品になっています。
ギヴィオンと歌った「Are You Even Real」は、その違いが分かりやすい曲です。
テディが説明したのは、こんなに素晴らしい相手に愛されてよいのだろうか、本当に起きていることなのかと思うほどの幸せでした。
「Lose Control」では、相手がいないと崩れてしまうと訴えていた人が、ここでは目の前の愛情に驚いている。
どちらも相手を強く求める歌ですが、歌声に託す気持ちが変わっています。
この共演は、テディの曲を聴いたギヴィオンが、頭から離れないと連絡してきたことから進みました。
テディは、まだ歌を入れていない節を送ります。
ギヴィオンがその節を歌い、愛される喜びを二人で歌うデュエットになりました。
同じアルバムの「Northern Lights」では、終わった恋の良かった時間を振り返ります。
声の力強さを残しながら、別れの記憶を、温かさもあるものとして歌う。
テディの大きな声が、悲しみを激しくするだけでなく、過去を大切に思う気持ちにも似合うことが見えてきます。
傷ついた歌を、ずっと傷ついたまま歌わなくてもいい
新しい恋や生活が始まっても、「Lose Control」を歌う機会は続きます。
そこで必要になるのは、今の自分とは違う時期の感情を、歌の間だけ思い出すことでした。
テディは、歌うことには演じる面もあり、歌が終われば、その感情から戻ってこられると話しています。
苦しい歌を歌うたびに、生活そのものを苦しかった頃へ戻す必要はないのです。
2026年7月にも、本人は「Lose Control」を、人生を変えてくれた、特別な曲だと語っていました。
一方で、次の作品では、ソウルを残しながら、ファンクやグランジ、ロックの影響も広げたいと話しています。
大ヒットした一つの歌い方に、自分を閉じ込めようとはしていません。
今度は、テディの歌がカバーされる
初期のテディは、愛されている曲に、自分の声を重ねて知られるようになりました。
そのあと、自作曲の出来に悩み、個人的な暮らしを歌い、やがて自分の声が最もふさわしいと思える曲に出会います。
さらに、その声で、傷ついた恋と、愛される喜びの両方を歌うようになりました。
「Lose Control」の成功を振り返ったマネージャーが驚いていたのは、今度は別の歌手たちが、この曲をカバーして、自分を知ってもらおうとしていることでした。
名曲を歌っていたテディの曲が、誰かにとって、歌いたい一曲になった。
その変化こそ、自分の歌を聴かせるようになった彼の歩みを、よく表しています。
こちらの記事もおすすめ






コメント