ロニー・ジェイムス・ディオの若い頃を知ろうとしてElfを聴くと、後のメタルとは違う音楽に出会います。
ピアノが大きな役割を持ち、ブルースやソウルに近い歌い回しを生かせるバンドでした。
1972年のアルバム『Elf』に収められた「Never More」も、その時期の歌です。
ディオは後年、Elfとその後の歌の違いを、声そのものよりも、歌う音楽の違いから説明しています。
では、ピアノのあるロックからRainbow、そしてBlack Sabbathへ進んだとき、歌には何が起きたのでしょうか。
1970年代から1980年までの録音と当事者の話を通して、よく知られたディオの歌い方が形になる過程を見ていきます。
Elfでは、ピアノの演奏が歌のための余地を作っていた
後のディオを知っていると、Elfの歌を「まだメタルの声になりきっていない頃」と捉えたくなるかもしれません。
しかし本人の説明では、違っていたのは、声を使うための場所でした。
Elfでは、ミッキー・リー・ソウルのピアノが演奏の中心にありました。
ディオは、この編成には歌の表情をつけられる余地が多く、ブルースやソウルに近い歌い方ができたと振り返っています。
後の重い音楽では、楽器の音が密になり、同じように歌い回す余地は少なくなったというのです。
ここでいう余地は、歌手の出番が多いか少ないかという話ではありません。
伴奏が進む中で、歌の細かな表情をどれだけ生かせるかという違いです。
同じ歌手でも、ピアノが動く曲と、重いギターの音が続く曲とでは、似合う歌い回しが変わります。
ディオ自身は、Elf時代の柔らかさを失ったことを惜しんでいたわけではありません。
重い音楽の力強さを好み、その方向へ進みたかったと話しています。
若い頃の声が自然に硬くなったというより、本人が選ぶ音楽とともに、歌で強調するものが変わっていったのです。
Rainbowでは、歌の中に大きな物語を作るようになる
1975年、リッチー・ブラックモアと作った最初のRainbowのアルバムには、ディオ以外にもElfのメンバーが参加しました。
バンド名が変わった瞬間に、歌も演奏もすべて切り替わったわけではありません。
ディオも、最初のアルバムにはElfから続く部分が大きかったと振り返っています。
そのアルバムの「Catch the Rainbow」は、初期Rainbowのゆったりした曲です。
後の速いメタル曲だけでディオを知った人には、このような旋律を歌う役割も、Rainbowの出発点にあったことが分かります。
ブラックモアがディオに感じていた魅力も、重いロックの声一つではありませんでした。
彼は、高い声で古いヨーロッパの音楽を思わせる歌も歌えることに可能性を見いだしていました。
高い声が、曲を激しくするためだけでなく、時代や場所を想像させる旋律にも使える。
二人の組み合わせには、そうした広がりがありました。
翌1976年の『Rising』では、演奏陣も替わり、ディオが物語を歌う方向がさらに明確になります。
「Stargazer」のように、架空の世界の人物を通して、現実にも通じる苦しみや欲望を扱うようになりました。
声の力を増すだけでなく、声で表す人物や状況が大きく変わった時期です。
物語の語り手が誰なのかを知ると、「Stargazer」の強い声の聴き方も変わります。
その歌詞と声の関係は、ロニー・ジェイムス・ディオの歌い方で詳しく扱っています。
Black Sabbathでは、歌の旋律がギターの可能性も変えた
1980年の『Heaven and Hell』では、ディオはBlack Sabbathの歌手になっています。
オジー・オズボーンの後を引き継ぐ立場でしたが、前任者の声を再現することが、彼の仕事ではありませんでした。
ギタリストのトニー・アイオミは、ディオが入ったことで、ギターのリフやコードに対して歌を違う形で重ねられるようになったと説明しています。
リフとは、曲の印象を作る短い反復フレーズのことです。
歌がギターと同じ動きをなぞるだけでなく、その上を別の旋律として進める。
アイオミには、それが曲作りの新しい可能性に感じられたのでした。
『Heaven and Hell』の「Children of the Sea」は、二人が一緒に曲を作り始めた頃からの重要な曲です。
2021年に音を整え直した再発版でも、歌っているのは1980年のアルバムのディオです。
二人の関係は、アイオミが完成させた曲をディオが歌う、という一方通行には収まりませんでした。
ディオが旋律を歌うと、アイオミには、その先でギターをどう進めればよいかが見えてくる。
「Lonely Is the Word」を作ったときの話にも、歌から次の展開が生まれる様子が残っています。
ギターから歌が生まれ、その歌を聴いて、ギターがさらに進む。
ディオの歌の旋律は、重い伴奏の上に乗るだけでなく、バンドが次の展開を考える手がかりにもなっていました。

「メタルの声」になるまでに、歌う音楽と役割が変わった
Elf、Rainbow、Black Sabbathを順にたどると、ディオの変化を、声がだんだん太くなったという説明だけでは捉えきれません。
Elfではブルースやソウルの歌い回しを生かし、Rainbowでは物語の登場人物を演じ、Black Sabbathではギターと別の旋律を作ることで、曲の展開にも関わっていきます。
もちろん、バンドが替わるたびに、それまでの歌い方を捨てたということではありません。
最初のRainbowにはElfのメンバーがいて、ディオの柔らかな歌も残っています。
重い音楽へ進んでも、静かな声から大きな声へ変わる構成を使い続けました。
新しい曲に必要な表現を加えながら、それまでの声の使い道も選び直していたのです。

この時期の録音は、別々の曲、別々のバンドによるものです。
だからこそ、歌手一人の成長だけではなく、周りの音楽が変わると声の働きも変わる、ということがよく分かります。
Elfの「Never More」を、後のディオへ向かう途中の作品としてだけ聴く必要はありません。
そこには、そのバンドだからこそできた歌い方がある。
その歌手がRainbowの物語を歌い、Black Sabbathのギターに新しい旋律を合わせたと考えると、ディオの歩みは「強い声を完成させた話」よりも、ずっと豊かに見えてきます。
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