レディー・ガガの歌い方|「Shallow」で歌い上げる声を、別の役では抑える理由

「Shallow」で大きく歌い上げるレディー・ガガを見たあとに、彼女が映画で「上手に歌いすぎないこと」を求められたと聞くと、少し意外です。
声を自在に扱える歌手なら、その長所を存分に使えばよさそうにも思えます。
ところが、歌っている人物が変わると、魅力的なビブラートさえ、その人物には似合わないことがあります。

ガガの歌い方を考えるうえで面白いのは、この声の選び方です。
力強く歌うことも、声の揺れを抑えることも、その曲の中で生きている人物を伝えるために使う。
2018年の映画『アリー/スター誕生』の「Shallow」から、その理由をたどってみましょう。

「Shallow」は、まだ知られていない才能を聴かせる場面

『アリー/スター誕生』でガガが演じるアリーは、歌と曲作りの才能を持ちながら、まだ広く知られていない女性です。
彼女を見いだすのが、ブラッドリー・クーパー演じる人気歌手のジャクソン。
「Shallow」は、彼の大きなステージにアリーが招かれ、自分の歌を観客へ聴かせる場面の曲です。

この前提を知ると、ガガの声が大きく響くことにも、物語上の意味が生まれます。
映画の観客にとっては、それまで限られた場所で歌っていた人の才能を、多くの人が知る瞬間です。
アリーの歌を信じたジャクソンが、なぜ彼女を舞台へ招いたのかも、その声で納得できます。

すでに大スターであるガガが、いつものように観客を圧倒しているだけでは、この場面は成立しません。
物語の中では、アリーが初めてこの大きな場所へ踏み出しています。
その人のためらいや決意も思い浮かべながら聴くと、力強い高音は、歌唱力の見せ場であると同時に、人生が動き始める場面の声になります。

歌う場面も、相手と一緒に演じる

『アリー/スター誕生』では、ガガの希望で、撮影の場で実際に歌う方法が採られました。
すでに出来上がった歌に口を合わせるのではなく、歌うことを、その場の演技の一部にしたのです。
彼女自身も、観客にガガとは別の人物としてアリーを感じてほしかったと説明しています。

歌いながら相手の顔を見ること、隣に立つ人との距離、観客のいる場所へ出ること。
歌だけを録るときとは違う出来事が、撮影中には同時に起こります。
「Shallow」を二人の関係が変わる場面として見るなら、声と表情を別々に完成させるより、その場で一緒に生まれることに意味があります。

ただし、現場で歌えば、それだけで心情まで伝わるわけではありません。
大きな声で歌えるガガが、誰の気持ちを歌っているのかを見失わないことが大切です。
アリーの才能が見える一方で、彼女がこの舞台へ出るまでにはためらいがあった。
その両方があるから、後半の力強い声が物語の続きを語るのです。

2015年、ロンドンでトニー・ベネットと共演するレディー・ガガ
2015年、ロンドンでトニー・ベネットと共演するレディー・ガガ。写真:marcen27 / CC BY 2.0

歌手ではない役には、完成された歌声が合わない

2024年の『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』では、ガガはリーを演じました。
ここでは「Shallow」と同じように、すばらしい歌手が誕生する瞬間を見せたいわけではありません。
ガガは、リーも相手のアーサーもプロの歌手ではなく、そのように聞こえるべきでもないと話しています。
会話の途中で歌い始める二人が、その人物のままでいられる声が必要でした。

共演したホアキン・フェニックスは、ガガにビブラートなしで歌うよう頼んだと振り返っています。
ビブラートは、伸ばした声の高さが細かく揺れる表現です。
彼にとって、ガガのビブラートは美しすぎました。
その得意な表現から離れたことで、リーの声が見つかったというのです。

ここは、単に歌を下手にすれば役になるという話ではありません。
よく整った声を聴けば、観客は熟練した歌手の技術を感じます。
しかし、この場面で伝えたいのは、舞台慣れした歌手の余裕ではなく、目の前の相手に何かを言おうとしている人物の心情です。
美しい声の揺れを抑えることが、その人物から歌手ガガの得意技を取り除く方法になりました。

「Shallow」では、歌い上げる声がアリーの才能を伝えます。
リーの歌では、同じように歌い上げると、観客がリーよりも歌手ガガを意識してしまう場合がある。
映画の中で誰が何のために歌っているのかによって、必要な声が変わるのです。

ジャズでは、一つの言葉をどう歌うかに集中する

役を演じる映画から離れても、ガガはいつも同じ方法で歌を聴かせているわけではありません。
トニー・ベネットとジャズを歌うとき、彼女は振り付けや決まった動きに気を取られず、声の抑揚へ集中したいと話していました。
一つの言葉をどう強め、どんな表情で歌うかを、その場の歌に合わせて考えるためです。

ベネットも、ガガの即興的な歌い方を高く評価していました。
覚えた旋律を再現するだけでなく、一緒に演奏している人の音を聴きながら、歌に表情をつけられる。
ガガのジャズには、そうした共演者と音楽を作る楽しさがあります。

映画では人物の心情、ジャズでは言葉の抑揚や共演者とのやり取り。
大きな声を出せることは、どちらでも役立つ力ですが、その力をいつ、どう使うかまでが歌い方です。
ガガの場合、曲によって声が違って聞こえること自体が、何を伝えようとしているかを知る手がかりになります。

2022年、ロンドン公演で歌うレディー・ガガ
2022年、ロンドン公演で歌うレディー・ガガ。写真:Raph_PH / CC BY 2.0

電子音の中で歌う初期のポップスから、ジャズ、映画、再びダンスポップへ進んだ歩みは、レディー・ガガの歌声の変遷でたどっています。
加工した声も含め、彼女がどんな歌声を作品に選んできたかを読むと、映画での使い分けも活動全体の中に位置づけられます。

どこまで出せるかに加えて、なぜその声で歌うのか

「Shallow」の高音を聴くとき、ガガの声の力に驚くのは自然なことです。
そこにアリーの背景を重ねると、声が大きくなる場面は、才能を人前へ出す決意としても見えてきます。
一方でリーのような役では、得意なビブラートを抑えることが、その人物を伝える助けになります。

ガガの歌い方の面白さは、強い声や美しい声を持っていることに加えて、それを使う場面を選べるところにあります。
歌い上げる声にも、あえて整えすぎない声にも、歌の中で必要とされる理由がある。
その理由が分かると、曲ごとに違うガガの声から、彼女がどんな人物や気持ちを伝えようとしているのかまで聴き取りたくなります。

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