レディー・ガガの歩みを、派手なポップスターがジャズや映画を通じて歌手として認められていった話として眺めることはできます。
けれども、その見方だけでは、後年また電子音の中へ声を置き、叫び声まで加工する面白さを取りこぼします。
彼女は、生の歌声を聴かせるようになったあとも、声を作り込むポップスへ戻ってきました。
変わってきたのは、加工が多いか少ないかだけではありません。
声を曲のリズムに組み込むのか、共演者に応じて歌うのか、映画の人物として歌うのか。
2008年の「Just Dance」から2025年の『Mayhem』まで、その時期に声が担った役割をたどってみましょう。
2008年、「Just Dance」では声の繰り返しも踊るリズムになる
「Just Dance」は、ガガの歌声が世界へ広まるきっかけになった初期のヒット曲です。
電子的な伴奏と一緒に聴くと、声も曲の勢いにぴったり組み込まれています。
その仕上げを担当したロバート・オートンは、まず歌だけを聴き、歌詞、旋律、歌い方のリズムを確認していたと説明しています。
伴奏の上へ最後に歌を置くのではなく、歌を中心に曲の音を組み立てていたのです。
歌には、特定の言葉を少し遅れて繰り返すエフェクトも加えられています。
どの言葉を繰り返すか、どこから聞こえるかを変え、リズムと声の存在感を作っていました。
ここでの声は、長い旋律を聴かせるだけでなく、短い言葉が何度も耳に残る役割を担っています。
後年のジャズやバラードからガガを知った人には、この整えられたポップスの声が、少し遠く感じられるかもしれません。
けれども、当時の制作でも、歌の言葉やリズムは細かく扱われていました。
加工が多いから歌を軽く扱っている、という関係ではないのです。

2014年、トニー・ベネットとの歌では、その場の表情を聴かせる
『Cheek to Cheek』でガガがトニー・ベネットと歌ったのは、長く歌い継がれてきたジャズのスタンダードです。
新しい曲とイメージを次々に作るポップスターが、別の人も歌ってきた曲を、自分の声でどう聴かせるかに向き合いました。
ただ、本人にとってジャズは、このとき急に出会った音楽ではありません。
ポップス以前から歌っており、いずれアルバムを作りたいと思っていたと話しています。
ベネットが評価したのは、ガガが即興的に歌えることでした。
決まった旋律があっても、言葉の抑揚や歌い出す調子まで、毎回同じに固定する必要はありません。
その日の演奏や相手の歌を受けて、どんな表情をつけるかも歌い手の仕事になります。
2014年の「Anything Goes」のスタジオ映像では、二人で歌うガガの姿を見ることができます。
デュエット曲なので、ガガが歌う部分だけでなく、ベネットの声へ変わったときに曲の表情がどう変わるかにも耳を向けたくなります。
ガガはこのアルバムについて、聴き手に「歌っているのはガガだ」という先入観を持たず、まず音楽を聴いてほしかったと話していました。
電子的な仕掛けを前面へ出した初期のヒット曲とは、聴き手に注目してほしいところが変わっています。
この時期に突然歌が上手くなったというより、それまでのポップスでは見えにくかった歌い方が、一枚の作品の中心になったのでしょう。

2018年、「Shallow」では歌声が物語を進める
『アリー/スター誕生』の「Shallow」では、ガガは新人歌手アリーとして、ブラッドリー・クーパー演じるジャクソンの舞台へ立ちます。
歌を聴かせること自体が、彼女の才能を観客が知る場面になっています。
ジャズのデュエットに続いて別の相手と組んだだけでなく、声が映画の人物の人生を動かす役割を持ちました。
この映画では、撮影しながら実際に歌うことが重視されました。
画面の中で相手と向き合う姿と、そこから出る声を、一緒に演じるためです。
歌い上げる力が大きくても、聞こえてほしいのは、新たな舞台へ出てきたアリーの声です。
有名なガガ自身を知っている観客に、別の人物の歌として受け取ってもらう難しさもありました。
歌手役の「Shallow」と、プロの歌手ではない役を演じた『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』では、求められた歌い方も違います。
この二つの映画で声をどう使い分けたかは、レディー・ガガの歌い方で詳しく扱っています。
2024〜2025年、「Disease」では叫び声まで曲の材料にする
2024年に発表され、翌2025年の『Mayhem』に収められた「Disease」では、声が再び濃い電子音の中へ入っていきます。
ガガは制作を説明する中で、録音した声の響きを左右へ広げる加工を使い、伴奏と一体になる音を作ったと話しています。
さらに、歌詞を歌う声とは別に、叫びや息をのむような音も録りました。
プロデューサーのサーキットは、それらを取り出して曲の中へ配置しています。
歌手の仕事が、主旋律を歌うところだけで終わっていないのです。
言葉にならない短い声も、曲の緊張感やリズムを作る材料になる。
「Just Dance」で言葉を繰り返していた仕掛けを思い出すと、声を曲全体の音として扱う発想が、ここでも続いていると分かります。
ガガは『Mayhem』について、自分を一つの型へ収めず、いろいろな感情を曲にしたかったと話していました。
同じアルバムに「Disease」のような激しい曲と、ブルーノ・マーズとのバラード「Die With a Smile」があることも、その考えに重なります。
ジャズや映画を歌った経験があるからといって、常に端正な生歌だけを目標にする必要はありません。
何を表現したいかによって、加工した声も、二人で歌う声も選んでいます。
声をそのまま聴かせる力と、声を作る力が残った
「Just Dance」では、声の言葉や繰り返しをダンスのリズムへ組み込みました。
ベネットとのジャズでは、その場でつける表情を聴かせ、映画では人物の心情に合う声を探しました。
そして「Disease」では、叫び声まで録って曲の材料にしています。
一つの歌い方を覚えるたびに、前の歌い方を捨てて進んだわけではありません。
ガガの変遷を聴く面白さは、得意なことが一つずつ置き換わるのではなく、選べる表現が増えていくところにあります。
電子音の中でよく目立つ声、相手の歌に応じる声、人物の心情を伝える声。
新しい曲へ進むたびに、その中から何を使い、どんな声を加えたのかが、次の聴きどころになるのです。
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