「Lovin’ You」のミニー・リパートンといえば、笛のように澄んだ超高音を思い浮かべる人が多いでしょう。
けれど、驚くのは声の高さだけではありません。
彼女はその高い声で言葉を歌い、柔らかな歌声へすぐに戻ることもできました。
高音を、歌の途中で気持ちを強めるために使える歌手だったのです。
1975年のテレビ番組『The Midnight Special』での「Lovin’ You」には、その歌い方が表れています。
長く伸ばす高音だけでなく、歌詞を歌っている途中で声が跳び上がるところにも、注目してみてください。
歌詞の途中で、声の高さが変わる
ミニーの超高音を説明するときに、よく使われる言葉が「ホイッスル・ボイス」です。
笛を意味する名前のとおり、鋭く澄んだ響きを持つ、とても高い声を指します。
「Lovin’ You」の、歌詞を離れて声を伸ばす部分を思い出すと、分かりやすいかもしれません。
ところが、このテレビ歌唱では、それとは違う使い方もしています。
歌詞の「more than」という短い言葉を、高い声で歌うのです。
声が高くなっても、何の言葉を歌っているのかが分かり、そのあとも歌詞の流れが続いていきます。
ここで面白いのは、高い音を出す場面と、言葉を伝える場面が、別々になっていないことです。
歌詞の途中で声を変えられるから、その短い言葉を特別に際立たせられる。
同じ旋律を繰り返す中にも、声の変化によって、気持ちがふっと高まる瞬間を作れます。
声が高くなっても言葉が残り、柔らかい声へ戻っても歌の流れが続く。
その行き来まで含めて、一つのフレーズとして歌っています。
高音を出せることに加えて、どの言葉でその声を使うかを選べることが、ミニーの強みでした。
ギターと鍵盤で、柔らかい声も聴かせる
「Lovin’ You」のスタジオ録音では、声の華やかさに対して、伴奏はとても簡素です。
1974年のアルバム『Perfect Angel』を作ったときも、最初からその形に決まっていたわけではありませんでした。
夫で共作者のリチャード・ルドルフによれば、録音では三、四通りのやり方を試したそうです。
そこで共同プロデューサーのスティーヴィー・ワンダーが提案したのは、最初のデモを聴き直すことでした。
ルドルフのギターとミニーの歌による、簡素な録音です。
スティーヴィーは、その形でやろうと決めました。
ルドルフがギターを録り、スティーヴィーがエレクトリック・ピアノを重ねる。
ベースやドラムを足さずに作った伴奏には、ミニーの歌を覆うほどの音はありません。
高音へ上がる前の声も、言葉を歌うときの小さな表情も、歌の大切な部分として聴かせることができます。
このアルバムでルドルフが目指したのは、聴き手がミニーを身近に感じられる録音でした。
何通りも試して、最初のデモのよさへ戻ったという話は、その考えをよく表しています。
伴奏の音を絞ることで、普段の柔らかい歌声と、澄んだ高音の響きの差も、聴き取りやすくなります。
「Inside My Love」では、長く伸ばす声にも役割がある
言葉を高い声で歌う技術とともに、長く伸ばす高音も、ミニーの大きな持ち味でした。
1975年の「Inside My Love」は、その長い声を聴きたくなる曲です。
『Adventures in Paradise』に収められ、ミニー、ルドルフ、リオン・ウェアが共作しています。
この曲は、相手ともっと深く結ばれたいという歌です。
身体的な親密さを思わせる表現がある一方で、ルドルフは、感情の結びつきも含めて書いたと説明しています。
歌詞の意味を狭く受け取ったラジオ局から、放送を見送られたこともありました。
きれいな声の歌だから、内容まで無難だとは限らなかったのです。
曲の後半では、ミニーの高い声が長く続きます。
ルドルフは、ライブで彼女がその音を保つと、観客が驚いていたと振り返っています。
歌詞で相手への思いを伝えてきたあとに、この長い声が来る。
その順番を考えると、高音が続く時間を、相手を求める気持ちが強まった場面として受け取れます。
「Lovin’ You」の短い言葉を際立たせる高音と、「Inside My Love」の長く保つ高音。
短く跳び上がれば一語が際立ち、長く伸ばせばその場面の感情を持続させられる。
ミニーは、高音の長さも歌の表情を作るために使っていました。

本人は、声の繊細さも聴いてほしかった
周囲がその音域に驚く一方で、ミニー自身は、声の珍しさに話が集中することを気にしていました。
1976年には、以前から声が楽器のようだと言われ、管楽器のパートを歌わせようとされてきたと振り返っています。
音を自在に扱えるだけでなく、自分には繊細に表現できる声もある、と伝えていました。
楽器のように響く声を持っていることと、歌い手として何を伝えたいかは、別の問題です。
「Lovin’ You」で言葉の途中に高音を入れたり、「Inside My Love」で思いを長い声に託したりする歌を知ると、彼女の言いたかったことも分かりやすくなります。
高さや長さの驚きが、そのまま歌の表情を作る力にもなっていたのです。
ミニーの超高音は、曲の途中で鳴る美しい音であると同時に、言葉を強調し、気持ちを伝えるための声でした。
次に「Lovin’ You」を聴くときは、いちばん高い音を待つだけでなく、その前後をどう歌っているかにも耳を向けてみてください。
特別な高音と、身近に感じられる柔らかい声が、一つの歌の中でつながっていることが、この曲の魅力なのだと思います。
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