カレン・カーペンターの初期の声が好きでも、本人が同じ録音に満足していたとは限りません。
リチャードによれば、カレンは若いころのハスキーな声より、その後に成熟した自分の声を好んでいました。
そして実際に、発表済みの曲の歌を録り直しています。
その一曲が「Merry Christmas Darling」です。
1970年に発表した歌を、1978年のクリスマス・アルバムへ入れる際、カレンは新しいリード・ボーカルを録音しました。
同じ旋律へ戻るという選択から、彼女が自分の歌に何を求めていたのかを考えてみます。
1970年のシングル版は、カレンが20歳のころの歌です。
初めから、自分の声を気に入っていたわけではない
カレンの音楽活動は、歌手になることだけを目指して始まったものではありません。
高校で夢中になったのはドラムでした。
1965年に兄たちと組んだトリオも、主に楽器の演奏を聴かせるグループで、カレンが歌うのは時折のことでした。
リチャードの回想では、当時の彼女の歌声はまだ発達する途中にあり、本人もその音をあまり気に入っていませんでした。
翌1966年には声が育ち、ジョー・オズボーンの自宅スタジオで歌を録音する機会を得ます。
そこで歌声を認められ、最初のシングルにつながりました。
のちの代表曲からカレンを知ると、最初から自分の声に確信を持っていたようにも思えます。
しかし、本人が歌に満足していない時期にも、兄や録音を聴いた人は、その可能性を見つけていました。
周囲が魅力を感じる声と、自分で出したい声は、初めから同じだったわけではないのです。
1978年、今の声で「Merry Christmas Darling」を
「Merry Christmas Darling」は、ヒットしたあとに急いで用意された曲ではありません。
1966年、大学の合唱指導者だったフランク・プーラーが昔書いた歌詞に、リチャードが曲をつけました。
二人はクリスマスの催しで歌い、1970年にレコードとして発表しています。
歌い手にとっても、長く付き合ってきた曲でした。
その曲を1978年の『Christmas Portrait』に収める際、カレンは歌い直しを希望します。
リチャードは、21歳ごろまでのカレンの声には、その後よりハスキーな響きがあったと説明しています。
カレンは、成熟したあとの自分の声のほうを好んでいました。
録り直しは、昔の曲を今の自分の声で歌いたいという、本人の希望だったのです。
こちらは、1978年に録り直した歌を使った『Christmas Portrait』の音源です。
曲名に「Remix」とありますが、1970年版の声の聞こえ方を調整しただけの音源ではありません。
同じ曲を、カレンがもう一度歌っています。
二つの歌を比べるなら、まず歌い出しと、長く伸ばす言葉に注目すると、本人が選び直した声を考えやすくなります。
どちらを好むかは、カレンと同じ答えにならなくてもよいと思います。
初期の少しかすれた響きに魅力を感じる人にとっても、本人が別の声を望んだことは、最初の録音の価値を消す話ではありません。
同じ歌手の声を、聴き手と歌い手が違う理由で気に入ることがあるのです。

カレンの歌い直しは、この曲だけではありませんでした。
「Top of the World」でも、もっとよく歌えると感じてリード・ボーカルを録り直しています。
すでに発表された歌であっても、本人にとっては、次に歌う自分が目指す完成形があったのでしょう。
1979年からのソロ録音では、曲の世界も変えた
次の挑戦では、過去の曲へ戻るのではなく、新しい制作相手と曲を作っていきました。
リチャードが活動を休んだ1979年、カレンはフィル・ラモーンとソロ・アルバムの録音を始めます。
ラモーンは、Carpentersとは違うスタイルの曲を意識して選び、カレンの声を新しい音楽の中で生かそうとしていました。
この時期の歌の一つが「If I Had You」です。
ソロ・アルバムは当時の発売が見送られ、まとまった形で世に出たのは1996年でした。
発売年は1990年代でも、聴こえてくるのは1979年から1980年初めにかけて取り組んだ録音です。
「Merry Christmas Darling」の歌い直しでは、慣れた曲を今の声で歌うことができました。
ソロ制作では、似合う曲を選び続けてきた兄とは別の人と、自分の声の使い道を探しています。
声質が変わったかどうかだけでは捉えきれない、歌手としての選択の変化です。
ラモーンは、1996年の発売に際して、カレンが確認したミックスをそのまま使ったと説明しています。
ミックスとは、録音した声や楽器の音量、聞こえ方などを整える工程です。
長い時間がたってからの発売でも、そのバランスまで含めて本人が確認した形で聴けることには意味があります。
初期の名唱のあとにも、歌いたい声があった
カレンの歌声の変遷には、初期の声が成熟したという変化と、成熟した声を本人がどう使いたかったかという選択があります。
「Merry Christmas Darling」の録り直しは、その二つを結びつける具体的な出来事です。
さらにソロ制作では、Carpentersで築いた歌の印象から、曲の選び方そのものを広げようとしていました。
低い声を生かす旋律や、言葉を滑らかに歌う力については、カレン・カーペンターの歌い方で詳しく扱っています。
そうした持ち味がありながら、本人には歌い直したい曲も、別の相手と作りたい音楽もあった。
名曲として親しまれている録音を、カレン自身の探求の途中にあった歌として捉えると、二つの「Merry Christmas Darling」を聴く楽しみも増してきます。
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