神山智洋(WEST.)の歌い方|「きれいな声」だけでは収まらない、一人三役の歌い分け

ソロプロジェクトを始動した神山智洋 シンガー
ソロプロジェクトを始動した神山智洋。画像出典:Tomohiro Kamiyama公式サイト

神山智洋の声は、舞台の共演者から「化粧水ボイス」と呼ばれたことがあります。
すっと耳に入って、しみ渡るような声、という意味のたとえです。
ところが、2026年のソロ曲「No Filter」では、三人のラッパーが別々に作ったパートを、一人で歌い分けています。
柔らかな声の人、と思っていたら、その一言では説明できない歌が出てくるのです。

神山の歌い方の面白さは、同じ声をどの曲にも当てはめず、曲の中で何をするかによって、声の表情を変えることにあります。
三人分のラップを担うとき、舞台の人物として言葉を届けるとき、仲間の演奏に合わせて歌うとき。
その違いをたどると、「何でもできる人」という評判の中身が、少しずつ見えてきます。

「No Filter」は、三人分の個性を一人で引き受けた曲

「No Filter」は、ソロアルバム『INPUT⇄OUTPUT』に収められた、梅田サイファー提供の曲です。
神山がさまざまなラップに挑みたいと望んだため、制作陣はパートごとに担当を分け、互いのラップをすり合わせずに作りました。
作詞を担ったのは、テークエム、KOPERU、KennyDoesの三人です。

一つの歌い方へそろえた曲を渡すのではなく、それぞれの違いを残す。
神山は、その三人分を一人で引き受けることになりました。
テークエムも、この曲の聴きどころに、キャラクターの歌い分けを挙げています。

ここで注目したいのは、ラップの速さだけではありません。
言葉を次々と発音できることと、パートが替わったときに違う人物のような表情を出せることは、別の面白さです。
「今の部分も同じ人が歌っているのか」と感じたら、次のパートとの違いに耳を向けてみる。
一人の声を追っているうちに、複数人が登場する曲のように楽しめる。それが、この曲に用意された仕掛けです。

素直に届く声も、神山智洋の大事な持ち味

舞台「幽霊はここにいる」で深川啓介を演じる神山智洋
2022年、舞台「幽霊はここにいる」のフォトコールより。画像出典:TBS NEWS DIG

「No Filter」でさまざまな表情を演じる神山には、言葉を素直に届ける声の良さもあります。
その持ち味が評価されたのが、2022年の舞台『幽霊はここにいる』でした。
神山が演じたのは、幽霊を連れている不思議な男、深川啓介です。安部公房の戯曲をもとに、歌やコーラスも組み込まれた舞台でした。

演出の稲葉賀恵は、神山の声について、舞台上でうそを感じさせず、素直に入ってくると評価しています。
共演の八嶋智人たちが、声を化粧水にたとえたのも、この作品の取材会でした。
大きさや高さで圧倒する、という褒め方ではないところが印象的です。

幽霊の存在を語る人物の言葉が、客席へ自然に届く。
声そのものに抵抗なく耳を傾けられることが、不思議な物語へ入っていく助けになります。
「化粧水ボイス」という言葉は、この聞き心地をよく表しています。
役の言葉をすっと届けたい場面もあれば、ラップのパートごとに違う表情を見せたい場面もある。
神山の声には、そのどちらも聴きたくなる幅があります。

音をつかむのが得意でも、言葉は考え直す

これほど多くの表情を見せる神山にも、言葉をどう受け取るかで、考え直すことがあります。
2024年には、自分以外の人が作った曲を聴くと、歌詞より音に耳が向きやすいと話しています。
WEST.の曲でも、ほかのメンバーの説明を聞いて、歌の意味に気づくことがあるそうです。

これは、歌える曲の多さだけを見ていると、少し意外な本音です。
音程やリズムをつかむことと、言葉の奥にある事情を読むことは、同じではなかったのです。

その年の主演ドラマ『白暮のクロニクル』では、言葉を細かく考える作業に向き合いました。
神山が演じた雪村魁は、他人への期待を失っている人物です。
相手を「君」と呼ぶか、「お前」と呼ぶかにも、その距離感が表れます。
今の二人の関係なら、どちらの呼び方をするだろうか。神山は、監督と相談しながら、台本の言葉を詰めていきました。

これは芝居での経験ですが、歌い手としての神山を考えるうえでも興味深い話です。
声色を変えられることだけで、表現の仕事が終わるわけではない。
誰の言葉として、どんな気持ちで声にするのかは、改めて考える必要があるのです。
何でも軽々とこなして見える人にも、自分だけでは気づかなかった意味を、他人と探す時間があります。

歌い方は、一緒に鳴る音に応じても変わる

ギターを手にした神山智洋
2024年のインタビューより、ギターを手にした神山智洋。画像出典:FenderNews

歌の表情は、本人の声だけで決まるものでもありません。
WEST.には、メンバーが楽器を持って演奏する場面があります。
2024年のツアーの「あじわい」では、神山が旋律を弾くリードギター、濵田崇裕が伴奏のギターを担いました。
二人が役割を分けることで、歌を支える伴奏にも広がりが生まれます。

ギターを演奏しながら歌うには、指の動きと歌のタイミングを、同時に扱わなければなりません。
神山も、そのためには、できるまで反復するしかないと話しています。
待ち時間のある仕事場へギターを持ち込み、練習することもあるそうです。
滑らかに見える演奏と歌は、そうした練習を積み重ねて準備されています。

そして、練習した通りに一人で完結するわけでもありません。
2024年に収録した生バンドとのオリジナルライブについて、神山は、演奏に反応して歌ったり、逆に歌に合わせて演奏してもらったりする瞬間があったと振り返っています。
「証拠」では、七人が輪になって向かい合い、普段のライブとは違う熱量を感じたといいます。

「No Filter」のように、あらかじめ違う表情を作り分ける歌もある。
生演奏では、ほかの人が出した音を受けて、その場で歌の表情が変わることもある。
神山自身の話からは、この二つの楽しさが見えてきます。声を追いながら、その直前に伴奏がどう動いたかも聴いてみたくなる話です。

「Tokyo」では、自分の経験をまっすぐ歌う

2026年9月に始まった初のソロツアーでも、神山はラップ、弾き語り、バンド演奏を行き来しました。
「No Filter」を歌う一方で、アコースティックギターとともに、かつてのソロ曲「虹色の歌」も披露しています。
さらに「Tokyo」ではエレキギターを手に、優しくまっすぐな歌声を届けました。

「Tokyo」は、本人の上京を題材にした曲です。
慣れない場所で暮らす人も自分の経験を重ねられるよう、神山は言葉をシンプルにしたと説明しています。
複雑なことをできる歌手が、いつも複雑な歌を選ぶわけではない。
ラップで何人もの表情を演じることも、自分の出来事を飾らずに歌うことも、同じソロ活動の中にあります。

共演した八嶋智人たちが感じた、素直に届く声。
そして、三人の作り手の個性を歌い分ける声。
どちらかだけを神山智洋らしさと決めるより、その振れ幅を楽しむほうが、彼の歌を面白く聴けるはずです。

声の良さを、一つの使い方に決めない

神山智洋の歌を「きれいな声」「器用な歌手」と褒めることはできます。
ただ、その言葉だけでは、三人分のラップを引き受ける大胆さも、言葉の意味を人と相談する姿も、ギターを持ち歩いて練習する地道さも見えてきません。

「No Filter」では、パートごとに変わる声の表情を。
「あじわい」では、歌とギター、それを支える仲間の音を。
「Tokyo」では、自分の経験をまっすぐ届ける声を。
神山の歌を追う面白さは、一つの得意な歌い方を確認するたびに、次の曲でまた違う使い方に出会えるところにあります。

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