田村芽実の歌唱変遷|発声の戸惑いから、ソロで自分の表現を選ぶまで

2019年『Sprout』インタビュー時の田村芽実 シンガー
2019年『Sprout』インタビュー時の田村芽実

田村芽実の歌をたどると、ミュージカルとアイドルの両方を経験したことが、声の出し方を考えるきっかけになっているとわかります。
幼い頃から舞台で歌っていた彼女は、スマイレージに入ったとき、慣れ親しんだ発声やリズムの感覚がそのままでは通用しないことに戸惑いました。
その後、アンジュルムを卒業して舞台に戻り、ソロ歌手としても作品を発表するようになります。
そこで新たに向き合ったのが、役として求められる表現と、自分の歌として選びたい表現の違いでした。

ソロデビュー曲「輝いて ~My dream goes on~」は、ミュージカルとポップスの融合を掲げた一曲です。
この曲を発表するまでに、彼女は異なる場で歌うための発声を学び直し、歌を通して何を伝えるのかを考えるようになっていました。
その道筋を、本人が歌唱について語った2015年から2020年の取材を中心にたどります。

子役時代からグループへ、声を届ける感覚とリズムを学び直す

2011年にスマイレージとしてデビューする前から、田村はミュージカルの舞台に立っていました。
2015年の取材では、小学2年生までスクールに通い、小学3年生から子役として舞台に出演していたと振り返っています。
2009年のミュージカル「しゅごキャラ!」で、後に同じグループで活動するメンバーと共演したことが、オーディションに参加する動機にもなりました。
舞台で歌っていた時間は、アイドルとして活動を始めるきっかけにもつながっていたのです。

それでも、加入直後は発声の違いに戸惑ったといいます。
彼女が当時説明したミュージカルの発声は、遠くまで声を響かせるために、頭のてっぺんから声を出すようなイメージでした。
一方、グループで教わったのは、顔の手前へ声を向ける感覚です。
ボイストレーナーから指摘を受け、それまでの歌い方を覚えたまま、新しい出し方に慣れる必要がありました。

頭のてっぺん、顔の手前という言葉は、彼女が発声を説明するために使ったイメージです。
舞台で身につけた感覚と、グループで求められた感覚の違いを、彼女自身がはっきり意識していたことが伝わります。

学び直したのは発声だけではありませんでした。
つんく♂からは、ミュージカルで身につけた感覚をいったん忘れるように言われ、ビートを細かく刻む歌に慣れない点も指摘されたそうです。
音を伸ばして届けることに加え、リズムの刻み方を歌に入れることが、加入後の課題になっていました。

2015年、アンジュルム在籍時の田村芽実
2015年、アンジュルム在籍時の田村芽実。
画像出典:写真掲載元

一方で、幼い頃の経験が新しい歌い方を支える場面もありました。
スクールでは、声が伝わる場所を子どもにもわかるように表した、複数の声のイメージを教わっていたといいます。
2015年の田村は、鼻とおでこの間へ抜けるような感覚を基本にしながら、かっこいい曲では胸のあたりから伝わるように歌うと説明しています。
曲に合わせて声の印象を変える発想は、グループ時代にもすでにあったのです。

先に持っていた発声のイメージを、新しく教わったリズムや歌い方に合わせて使う。
グループへの加入は、幼い頃から身につけた感覚を、別の場で歌うために学び直す経験になっていました。

2017年、歌を届ける準備と、歌で伝えることを見直す

2016年にアンジュルムを卒業した後、田村は歌やダンスのレッスンに通っています。
2017年の取材では、仕事が決まらない時期にも実力をつけようとしていたことと、その後の歌唱の変化を語りました。

そのひとつが、舞台に立つ前の声の準備です。
背中が固まっていると声の通りが悪くなると感じるようになり、舞台前に入念にほぐすようになったといいます。
足元や全身にも意識を向けるようになったことを、アイドル時代から変わった点として挙げていました。
ここで語られているのは、彼女自身が歌う中で気づいた身体の感覚です。

自分の声が一瞬ざらつくような状態も、ステージ上でわかるようになったそうです。
その瞬間を避けたいという思いから、日々の過ごし方も規則的になっていきました。
以前より声の状態を意識しながら歌うようになったことが、本人の言葉から見えてきます。

同年5月に主演した「minako‐太陽になった歌姫」では、本田美奈子.を演じました。
当初は、尊敬している人として舞台に立つことへのプレッシャーがあったといいます。
しかし稽古を重ねるうちに、本田が大切にしていたものを自分も大切にしたいと考えるようになりました。
そこから、それぞれの歌で何を伝えようとしていたのか、歌の本質を考え始めたと語っています。

「minako‐太陽になった歌姫」――2017年5月17日の公開稽古から

声を出す前の準備と、声に乗せて伝えたいもの。
卒業後の田村は、この両方を見直していました。
歌うときに何へ意識を向けるかが変わった時期だったといえます。

2018年から2019年、役を演じる歌から、自分の表現を選ぶ歌へ

2018年9月、田村は「輝いて ~My dream goes on~」でソロデビューします。
音楽ライターの川倉由起子は同年、この曲のダイナミックな歌声や細やかな表現を、アイドル時代との違いとして挙げています。
これは評者が捉えた声の印象ですが、ソロの歌で彼女の表現の広がりが注目されていたことがわかります。

そして2019年のミニアルバム「Sprout」では、自分の作品をどう歌うかが、本人にとって具体的な課題になりました。
曲を集める段階から希望する作家を伝え、曲順や全体の構成にも関わった作品です。
自分はどんな歌を歌いたいのかを考え、多彩な曲を一枚に収めることから制作が始まっていました。
その過程をよく示しているのが、末満健一が作詞し、和田俊輔が作曲した「無形有形」です。
曲中のセリフを録音するときには、末満がブースの中まで入り、演出家と役者のような形で指導をしたといいます。

田村にとって、末満の舞台で役を演じるときは、彼の頭の中にある世界をどう体現するかが大切でした。
しかし「無形有形」は、ソロ歌手である自分の作品です。
歌詞から受け取ったイメージに応えながら、自分がその歌で表現したいことも見失わずにいたい。
このふたつのバランスや方向性を決めることが難しかったと、彼女は説明しています。

2019年、ソロ作品について語る田村芽実
2019年、ソロ作品について語る田村芽実。
画像出典:写真掲載元

そこで田村は、自分はこうしたい、あるいはそれはやりたくないと、作り手に希望を伝えました。
以前は相手の作品の世界に入る立場で受け入れてきたことにも、今回は自分の作品だからこそ意思を示したのです。
本人はこのやり取りを、作詞家とアーティストとしてものをつくる関係になれたこととして、うれしく振り返っています。

セリフを含む表現を演出してもらいながら、自分が選ぶ表現も残す。
「無形有形」では、その歌の表現を誰が選ぶのかという点で、彼女自身の立ち位置が変わっていました。

田村は同じ取材で、ミュージカルとポップスでは発声も、表現を組み立てる方法も違うと話しています。
また、ソロの一曲で歌詞の本質を考えた経験から、舞台でも作品全体の本質を考えるようになったといいます。
舞台とソロの経験は、互いの歌い方を考える材料になっていたのです。

2020年、「無花果」で異なる曲を自分の歌としてつなぐ

2020年4月のファーストフルアルバム「無花果」では、もうひとつの課題が生まれます。
ソロデビュー曲から新曲まで、約2年間の歌を一枚に収める中で、歌い方の異なる曲にどう統一感を持たせるか、スタッフと話し合ったといいます。
田村は、曲のほうへ自分を合わせるだけでなく、自分の側へ曲を引き寄せるイメージで録音したと説明しています。
いろいろな歌を歌えることに加えて、それらが一人の歌手の作品としてつながることを考えた制作でした。

その中で「いちじく」は、明るい曲調と寂しさのある歌詞が同居する曲になりました。
本人は、この組み合わせを、子どもから大人になる時期の揺れに重ねています。
一方、歌いやすそうに聞こえるサビも、実際の録音では音を捉えるのに苦労したそうです。
軽やかな曲を歌う場合にも、自分の心情をどう重ねるかと、旋律をどう歌いこなすかの両方に向き合っていました。

松井五郎が作詞した「誓約」などでは、また別の難しさがありました。
当時21歳の自分には大人びた内容を、借り物の感情にせず、どう解釈して歌うかという悩みです。
相談すると、背伸びしているところもよいと受け止めてもらい、自分なりに歌った解釈が作詞家の想定と違っていても、そのずれを面白がってもらえたといいます。
作り手の期待に正確に応えることだけが、録音の目標ではなくなっていました。
自分の年齢や受け止め方を含めて歌にすることも、ソロ歌手としての表現になっていたのです。

グループ加入時には、新しく求められる発声とリズムに慣れることが課題でした。
卒業後には、声の状態を意識して準備し、歌で伝えるものを考えるようになります。
そしてソロ作品では、作り手と話し合い、自分が選ぶ表現を一曲の中へ持ち込むようになりました。
幼い頃に身につけた声の使い分けは、異なる場所で歌う経験を通して、自分の作品をつくるためにも生かされてきたのです。

柔らかな高音やビブラート、地声とファルセットの使い分けについては、田村芽実の歌い方で詳しく見ていきます。

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