加藤和樹の発声は、曲の気持ちをどう伝えるかという選択と結びついています。
「春恋」ではファルセットを使い、言葉の詰まった曲では発音を明確にし、「RISKY」では短い息の音も録音に取り入れました。
さらに「雷鳴」では、声に混ぜる息の量まで考えています。
本人が説明した具体例から、声と呼吸の使い方を見ていきます。
「春恋」|気持ちがあふれる物語に、ファルセットを使う
2016年の「春恋」は、CHIHIROが詞を手がけた曲です。
加藤にとって、女性が書いた女性目線の歌を歌うのは初めてだったといいます。
その人物から徐々にあふれてくる気持ちを表現したいと考えていました。
そのために、ファルセットを使うなど、物語に沿った歌い方を意識したそうです。
失恋から一歩を踏み出す歌の中で、気持ちの動きを表すために選ばれています。
声区の選択が、歌詞の人物の心の動きとつながっているのです。

撮影:大槻志穂/出典:Deview。
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自分自身も昔の恋を思い出しながら歌ったと、本人は話しています。
声の出し方を変えることと、その気持ちを自分の中で感じること。
この曲では、両方を意識しながら歌唱を作っていました。
言葉の頭と終わり|音に負けない発音を作る
加藤和樹は、ライブでは伴奏に負けないよう、一言ずつはっきり歌うことを心がけていると説明しています。
その具体例が「欲情-libido-」です。
自分で書いた歌詞の頭文字をあいうえお順にする遊びも入れ、言葉の始まりがわかる作りにしたといいます。
言葉の詰まった曲だからこそ、明確に発音することで、自分でも歌っている内容を捉えられると話しています。
言葉をはっきり出す感覚には、芝居の経験も関わっています。
台詞では、言葉の頭と終わりをきちんと発声しなければ、何を伝えたいか分からなくなると、演出家から指摘されることがあったそうです。
その経験を踏まえ、発音や発声の立ち上がりを明確にする必要を感じていました。
本人には、話すときに早口になり、言葉の力が散ってしまうと感じた経験もありました。
歌でも台詞でも、一つの言葉をどう始め、どう終えるかを意識する理由があったのです。
「RISKY」|短い息の音も、歌の中へ取り入れる
2020年の「RISKY」では、ディレクターの提案で、加藤和樹が発声練習に使っていたドッグブレスを録音に取り入れました。
本人が説明しているのは、短い間に息を吸って吐く動作です。
歌う前に行っていた呼吸の動きが、ここでは録音に残す音として使われました。
この曲の制作では、歌の勢いと気持ちのつながりを大切にし、何度か通して歌って、良いテイクを選んだそうです。
息の音を加えたことも、その録音の中で行った表現の工夫でした。
この曲で加藤が思い浮かべたのは、夜の世界で浮き沈みを経験するホストでした。
華やかさだけでなく、そこから落ち、再び立ち上がる人物として歌を捉えています。
通して歌ったのは、そうした人物の気持ちをひと続きに保ち、勢いを録音へ残すためでした。
一方、同じ『Addicted BOX』に収めた「君ニ唄エバ」では、自分の甘酸っぱい恋愛の経験を思い出したと話しています。
曲が変われば、歌う人物も、思い出す気持ちも変わる。
発声の工夫は、そのイメージを声にする作業の中で選ばれています。

写真出典:CDJournal。
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「雷鳴」|声に混ぜる息の量と、相手との距離を考える
2026年の『SMASH BOX』に収められた「雷鳴」は、藤田麻衣子が詞と曲を手がけています。
加藤は制作にあたり、藤田の歌をあらためて聴き込みました。
本人が特に考えたと話すのは、声にどれくらい息を混ぜ、どんな距離感で歌えば曲の世界を表せるか、という点です。
この感覚を養ったのは、声優としてマイクの前に立つ経験でした。
息を混ぜる量や声の大きさを少し変えると、それが録られた音にはっきり表れる。
その違いを知ったことが、歌でも声の成分を意識することにつながったと説明しています。
「RISKY」で短い呼吸を音として加えたのに対し、ここでは歌声そのものに息をどのくらい含めるかが表現の焦点になっています。
加藤は、具体的な女性を思い浮かべるより、『イケメン戦国』の世界に自分が入ったつもりで歌ったそうです。
役を演じるときに触れてきた物語を、自分自身の歌として受け取り直していました。
声の大きさや息の量と、どんな場所でどんな気持ちを伝えるかが、結びついていることが分かります。
録音では、雨や雷の効果音の種類や強さも、加藤が候補から選んでいます。
歌の中の場面は、息を含む声と、その周りに置かれた音の両方で作られています。
声だけで情景のすべてを表そうとする必要はない、という聴き方もできる曲です。
encoreの取材では、感情を優先し、心の中から静かに声が出てくるように歌ったとも話しています。
ただし、曲の最後まで同じ抑え方を続けるわけではありません。
後半には気持ちがあふれ、曲の盛り上がりに身を任せたそうです。
息の混ざった声を選ぶことと、そこから感情が大きく動くことが、一曲の中でつながっています。
「Freesia」|声を広げるときにも、届ける相手がいる
同じアルバムの「Freesia」では、加藤は、主人公が両手を広げて人々を誘うような姿をイメージしました。
自分の歌としては、ファンに向けて、一緒に行こうと呼びかける気持ちだったと説明しています。
「雷鳴」の静かな心情とは異なり、いつもより広い世界を思い描いて歌った曲です。
ここでも、声の大きさだけを先に決めているのではありません。
誰に何を伝える曲かを捉え、その場面に合う声を探しています。
本人は、ミュージカルの経験がなければ「Freesia」はもっと単調な歌になっていたと思う、とも語りました。
人物の気持ちを声へ移す経験が、ソロ曲の表情にもつながっています。
加藤は2025年の取材で、自分の曲にも深めの声を使って表情を付けると説明しています。
舞台の曲にもロックに近い歌があり、そこで使う表現を自分の音楽へ持ち帰ることもできる。
曲ごとに声を選べるようになったことで、ピアノやギター一本のライブにも表現の場が広がったと話していました。
加藤和樹の歌い方では、声区、発音、呼吸が、曲に必要な表現と結びついています。
気持ちの変化にはファルセット、詰まった歌詞には明確な発音、録音の表現には短い息の音。
本人が語る選択をたどると、声の強さだけでなく、声や言葉をどう出すかにも歌唱の工夫があることが分かります。
舞台と音楽での発声を使い分けてきた過程は、加藤和樹の歌唱変遷でたどっています。







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