ブライアン・アダムスがテイラー・スウィフトと「Summer of ’69」を歌ったとき、主旋律を担当したのはテイラーでした。
自分の代表曲なのに、ブライアンは主旋律とは別の高さの音を重ねる、ハーモニーを歌っています。しかも本人は、その組み合わせをとても気に入っていました。
ブライアンといえば、ざらつきのあるハスキーな声です。しかし、歌い方の面白さは、その声でいつも主役を張ることだけにあるわけではありません。
共演者が歌いやすい旋律を考え、自分は脇で声を重ね、ときには観客も歌に加わる。あの声を誰かと組み合わせるときに、ブライアンが何をしているのかを見ていきましょう。
自分の声が特別だとは、思っていなかった
本人は若い頃、自分に特別な声があるとは気付いていませんでした。
友人たちと録音しようとした際、誰も歌おうとしなかったので、自分が引き受けたと振り返っています。歌い終わった後には、友人たちの間に驚いたような沈黙があったそうです。
その後、ブライアンは歌う仕事を探し、スタジオでの仕事も経験していきます。
歌手を目指した理由には、ギタリストより歌える人のほうが少なく、仕事につながるのではないか、という現実的な考えもありました。あの声は、実際に歌う仕事の中で磨かれていったのです。

大成功した後も、本人の自己評価は意外に控えめです。
優れた歌手やギタリストだと思ってきたわけではなく、自分が覚えられ、歌える曲を作ってきた、と話しています。「Summer of ’69」についても、大勢の人が歌えることに価値を見いだしていました。
声はひときわ個性的でも、歌は聴く人から遠ざけない。この二つが、ブライアンの音楽では結び付いています。
歌を中心にして、ギターの弾き方を決める
ブライアンは、自分のギターについて、歌の伴奏をするのが得意なのだと説明しています。
技巧を次々に見せることより、声に合わせて演奏することが得意なのです。ギターの上に歌を無理に押し込むのではなく、自分が歌える形で曲を組み立てています。
『Reckless』の曲作りでも、実際に歌いながら旋律を探していました。
多くの曲はギターを弾きながら生まれ、「Heaven」では共同作者のジム・ヴァランスがピアノを弾き、ブライアンが歌っています。完成した伴奏を渡されて声を乗せるだけではなく、歌と演奏のやり取りから曲ができていたのです。
この作り方を知ると、あのハスキーな声を、曲に最後に加える飾りとは考えにくくなります。
どんな言葉や旋律なら自分が歌えるのか。どんな伴奏なら、その歌を支えられるのか。ブライアンの曲は、声を使いながら形を決めていくところから始まっています。
ティナ・ターナーには、自分と違う旋律を提案した
ただし、自分の声に合う歌が、そのまま共演者にも合うとは限りません。
ティナ・ターナーと録音した「It’s Only Love」では、その違いがはっきりしました。
曲はもともとブライアンが歌う高さで作られていました。ティナが同じ旋律を歌ってもうまくいかず、ブライアンは、彼女の声を思い浮かべながら別の歌い方を歌って示したといいます。
憧れの歌手との録音でも、相手に合わないと感じた部分は変える必要がありました。
ティナはその提案を受け、自分の歌にしていきました。
二人が同じ旋律を同じように歌うより、それぞれの声に合う歌い方を考える。その工夫を経てできた曲を、二人は1985年のバーミンガム公演でも一緒に歌っています。
二人とも強い印象を残す声の持ち主です。だからこそ、どちらが大きな声を出すかだけで捉えると、録音時の工夫を見落としてしまいます。
誰が、どの旋律を歌うのか。ブライアンは、歌い手に合わせてそこから考えていました。
自分の代表曲で、ハーモニーを歌う楽しさ
テイラー・スウィフトとの「Summer of ’69」では、ブライアン自身が別の役割に回りました。
テイラーが主旋律を歌い、本人がハーモニーを添えたのです。
ブライアンによれば、元の録音にもハーモニーは入っているものの、その大切さには気付かれにくいといいます。
多くの人にとって「Summer of ’69」は、ブライアンが前面で歌う曲でしょう。ところが本人は、テイラーを支える側を歌ったことを、とても楽しい経験として振り返っています。

自分の声が目立つ場所だけが、歌の聴きどころなのではありません。
主旋律の後ろで何を歌えば、二人の歌がよくなるのか。自分の代表曲を別の位置から歌えるところにも、ブライアンの歌手としての楽しみがあります。
同じ個性的な声でも、主旋律を歌う場合と、別の旋律を添える場合では、曲の中で果たす役割が変わります。ブライアンは、自分の声で相手の歌を支えることも楽しんでいるのです。
一人の声から、大勢の歌へ
観客と歌うときには、相手がさらに増えます。
ブライアンは、自分が書いている間は自分の曲でも、世に出した後は聴く人たちと共有する音楽になる、と話しています。コンサートでは、同じ曲にそれぞれの思い出を持つ人が集まります。
その場には、本人の声を聴く楽しさに加えて、観客も一緒に歌う楽しさがあります。
ティナには彼女に合う旋律を考え、テイラーとはハーモニーを歌い、ライブでは客席の声も加わる。ブライアンの歌には、自分以外の歌い手が入る場所があります。
声とギターだけに近い編成で、そのやり取りをさらに学んだ過程は、ブライアン・アダムスの歌声の変遷でたどっています。
「Summer of ’69」では、本人が主旋律を歌えばブライアンの代表曲になり、ハーモニーに回ればテイラーの歌を支え、客席が加われば大合唱になります。
あのハスキーボイスは、ただ前へ出て目立つための声ではありません。同じ曲の中で役割を変え、別の人の歌も引き立てられる。そこに、ブライアンの歌い手としての幅があります。
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