「Livin’ on a Prayer」のサビは、歌詞を全部覚えていなくても、思わず声を合わせたくなるところがあります。
ジョン・ボン・ジョヴィが高い声で歌い上げると、一人の歌手の歌だったものが、大勢の掛け声のようになる。
それでも、この曲は最初から最後まで、同じ調子で聴き手をあおっているわけではありません。
歌の始まりにいるのは、暮らしに困っているトミーとジーナです。
ジョンは二人の生活を語り、励ましの言葉へ進み、やがて短い掛け声を含むサビへ飛び込みます。
細かな事情を伝える歌から、一緒に声を出せる歌へ。
この順序に注目すると、ジョンの高音が、人を驚かせるだけでなく、聴き手を歌に加えるためにも働いていることが見えてきます。
1986年の『Slippery When Wet』に収められた「Livin’ on a Prayer」では、終盤に同じサビをさらに高い調で歌います。
トミーとジーナの生活を知ってから、サビを迎える
トミーとジーナは、仕事やお金の問題を抱えながら、互いを頼りに生きている二人です。
ジョンの歌は、まずその事情を聴き手に伝えます。
共同作者のデズモンド・チャイルドは、ジョンが物語のある曲を書きたがっていたと振り返っています。
そこへチャイルド自身と、当時一緒に暮らしていた歌手マリア・ヴィダルの経験も持ち寄られました。
ジーナという名前は、彼女が飲食店で働いていたときの名前に由来するそうです。
曲の始まりでは、ジョンは登場人物の名前を呼び、生活の様子を言葉にしていきます。
ここで聴き手が受け取るのは、誰の、どんな話なのかという情報です。
サビのような長い掛け声に入る前に、励ましが必要な二人の姿を伝えています。
物語を語る部分に対して、サビでは短い掛け声を長く伸ばす旋律になります。
二人の境遇を聴いていた人も、そこで同じ旋律に加わることができる。
トミーとジーナという他人の話を聴いていたはずが、自分も誰かを励ます側に立っているように感じられるのです。
生活の苦しさを説明する部分があるから、そのあとの力強い声にも理由が生まれます。
ジョンがサビで勢いをつけると、二人が何もかも解決したというより、まだ大変でも一緒に進もうとしているように聞こえます。
力強いサビと、登場人物が置かれた暮らしの厳しさが、同じ曲の中にあるところが魅力です。

いまのサビは、最初のサビの「もう一つ先」に作られた
物語から大きな掛け声へ進む構成は、最初からそのまま出来上がっていたわけではありません。
現在はサビの手前にある、踏ん張ろうと励ます部分を、ジョンはサビとして気に入っていました。
チャイルドは、その先にもう一つサビを作るよう提案したと振り返っています。
ここで足されたのが、大きな掛け声から始まる、いまよく知られているサビです。
さらに、リッチー・サンボラがハーモニーを探して歌った旋律が、サビの主旋律に採り入れられたそうです。
主旋律に重ねる声を探していたら、ジョンが中心で歌う旋律のほうが変わったのでした。
この経緯を踏まえると、サビでジョンの声が目立つ理由にも、共同制作の面白さが見えてきます。
リッチーが試した旋律を脇役にせず、主役として歌うことにした。
何を主旋律として歌うかという選択も、あの歌唱を形作っています。
完成した曲は、二人を励ます部分に着いても、そこで盛り上がりを終えません。
その先に、さらに声を伸ばして歌えるサビが待っています。
ジョンは高い声を披露するだけでなく、曲が段階を追って盛り上がる構成の中で、その声を使っているのです。
最後のサビで、もう一度声が高くなる
いったん覚えたサビが、終盤でもう一段高くなる。
「Livin’ on a Prayer」の強烈さを決める仕掛けの一つが、この転調です。
転調とは、ここでは同じサビを、それまでより高い調で歌うことです。
ジョンは2024年、曲を書いた日に、この転調まで決まっていたかは確かではないと話しています。
練習や録音前の準備をするうちに加わったのではないか、という本人の記憶です。
若い自分なら賛成したはずだが、62歳の自分なら転調を止めたい、とも冗談を言っています。
聴く側には高揚するところでも、歌う本人には、そのぶん高い音が必要になります。
ジョンの冗談は、長く歌われる名曲を作った若者が、数十年後には自分でその高音を引き受け続ける、という話でもあります。
ただ、最後に初めて知らない旋律を歌うわけではありません。
聴き手は、それまでに同じサビを覚えています。
次に何を歌うかが分かったところで、声の高さが変わる。
だから終盤の高音には、新しい曲へ移った驚きではなく、よく知ったサビがさらに盛り上がる喜びがあります。
ジョンの声の勢いと、繰り返される旋律が、ここで一緒に働いています。
歌手には難しい高音でも、聴く側には参加する場所がはっきりしている。
「一緒に歌いたくなる曲」が、必ずしも「楽に歌える曲」と同じではないところも、この曲の面白さです。

高い声の前に、一緒に歌いたくなる理由がある
「Livin’ on a Prayer」でジョンが語るのは、うまくいかない生活の中にいる二人です。
その話を聴いたあとで大きなサビを迎えるから、力強い歌声が、二人を励ます声としても届きます。
最後には、覚えた旋律がさらに高くなり、聴き手もその盛り上がりに加われる。
物語を伝える歌い方と、声を伸ばして歌い上げる場面がつながっていることが、この歌唱の強さです。
一方、ジョンは後年、ヒット曲を静かな演奏で歌い直すことにも取り組みました。
「It’s My Life」を落ち着いたバラードへ変えた2003年の録音と、その後の歌の歩みは、ジョン・ボン・ジョヴィの歌声の変遷でたどっています。
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