エイミー・ワインハウスの歌い方|歌うたびに変わる節回しが、言葉を生かす

2007年のユーロケエンヌでのエイミー・ワインハウス エイミー・ワインハウス
写真:Rama / CC BY-SA 2.0 fr

エイミー・ワインハウスは、同じ曲を何度録っても、まったく同じには歌わない人だったそうです。
デビュー作の録音を担当したゲイリー・ノーブルは、そのときの気持ちが違えば、歌も違っていたと振り返っています。

一度うまく歌えた形を、そのまま再現する。それも歌の技術ですが、エイミーの場合は、歌い直すたびに別の表情が出てきます。
太く少しかすれた声の印象に加えて、言葉を伸ばす長さや、短いフレーズの節回しが固定されない。その自由さが、何度も歌っている曲を、いま思ったことのように響かせるのです。

何度歌っても同じにならないから、一曲を通して録る

2003年のデビューアルバム『Frank』は、ジャズを土台にしながら、若いエイミー自身の恋愛や不満を歌った作品です。
「Stronger Than Me」も、頼りにしていた相手への不満を、遠慮なく伝える歌。古いジャズの雰囲気に、自分の生活から出てきた率直な言葉が重なっています。

ノーブルによると、このアルバムの歌は、細かな箇所だけを繰り返し録り直すよりも、一曲を通して歌ってもらう方法で残していきました。
エイミーは歌詞の紙を見ながら歌うのではなく、覚えている言葉を、そのときの感情で歌っていたといいます。

歌い出しから気持ちが高まり、ある言葉で声が強くなる。次の言葉では少し力を抜く。
そのような前後のつながりを生かすには、一部分だけを取り出すより、一曲の中で起きた流れごと録るほうが向いています。毎回違う歌になる人だからこそ、その違いが生まれる時間を途中で切らないのです。

次作『Back to Black』を手がけたマーク・ロンソンも、エイミーは歌うたびに少しずつ変える人だったと説明しています。
通して歌ったものを何度か録っておけば、それぞれ違う節回しが残る。そのため、複数の録音から、よい細部を選んで組み合わせられたそうです。

歌手が毎回同じ正解へ近づくというより、録るたびに選びたくなる表情が増えていく。エイミーの自由な歌い回しは、録音を作る側にとっても、大事な材料でした。

2004年のノース・シー・ジャズ・フェスティバルでのエイミー・ワインハウス
2004年のノース・シー・ジャズ・フェスティバルでのエイミー・ワインハウス。写真:tom.beetz / CC BY 2.0

昔のジャズを、そのまま再現したいわけではない

この自由な歌い方は、ジャズとの付き合い方にも表れています。
2004年のインタビューで、本人はジャズのスタンダード曲を歌うことは好きでも、昔の名盤の編曲を再現するつもりはないと話しています。自分は、自分の時代を生きている若い女性なのだという意識がありました。

尊敬する歌手がいても、その人と同じ人生を歌っているわけではない。
エイミーにとってジャズは、昔の歌手らしく振る舞うための衣装ではなく、自分の気持ちを自由に歌うための音楽だったのでしょう。

自作曲の歌い方についても、本人は、書いたときの気持ちを思い出しながら歌うと説明しています。
たとえば『Frank』の「You Sent Me Flying」は、恋愛のつらい記憶に戻る曲でした。本人にとっては歌うことで消耗する一方、よい意味もあるという。節回しの変化は、飾りを増やすことだけではなく、歌の感情をもう一度たどる中で生まれていたのです。

2006年の『Back to Black』では、伴奏に1960年代のソウルやガールズグループの色が濃くなります。
しかし、ロンソンに曲を聴かせるときの出発点は、エイミーとギターだけの簡素な演奏でした。そこへバンドや弦楽器が加わっても、歌の中心にあるのは、自分の言葉で気持ちを伝える声です。

「Love Is a Losing Game」のような静かな曲では、大きな声で圧倒する場面を待つより、一つの言葉をどこまで引くか、次の言葉へどんな間で進むかに耳を向けたくなります。
曲が古い時代を思わせても、歌っている人の気持ちまで、過去の歌手の借り物になるわけではありません。

憧れのトニー・ベネットと、同じ場所で歌う

自分の歌を自由に歌えるエイミーでも、憧れの歌手を前にすると緊張しました。
2011年、トニー・ベネットとの「Body and Soul」の録音です。長く歌い継がれてきたジャズの曲を、大ベテランと二人で歌う機会でした。

録音を担当したデイ・ベネットによると、伴奏は先に録ってあり、トニーとエイミーは、その演奏を流しながら同じ部屋で歌いました。
その場で相手の歌を聴き、自分の番に歌い始める録音でした。

初めは緊張していたエイミーがほぐれたのは、トニーから、彼女の歌がジャズ歌手のダイナ・ワシントンを思い出させると言われてからだったそうです。
尊敬する相手に、自分の歌のよさを認めてもらえた。その後は、のびのびと歌えるようになったと、デイは振り返っています。

二人は数回歌い、その中から選んだ部分をつないで、完成した歌声が作られました。
完成した録音には、一緒に歌う中で生まれた複数の表情が残っています。

エイミーの歌は、一人で節回しを変える面白さだけではありません。
隣にいる歌手を聴きながら、自分の声で応じる。古いスタンダード曲でも、二人がその場で歌ったものになるところに、この共演の魅力があります。

きれいに再現するより、もう一度その気持ちで歌う

エイミーの歌い方で惹かれるのは、特徴のある声に加えて、同じ言葉を毎回同じ形へ閉じ込めないところです。
自作曲では、歌を書いたときの気持ちに戻る。共演では、目の前にいる相手の歌を受けて、自分も歌う。そのたびに生まれる違いが、一曲の表情を豊かにしていました。

『Frank』の率直な歌でも、『Back to Black』のソウルでも、「Body and Soul」のデュエットでも、エイミーは曲の中でいま何かを感じている人として響きます。
声の太さやかすれだけでなく、伸ばした言葉の終わりや、次の一言を歌い出す間まで追っていくと、同じメロディーを歌うことにも、こんなに違う言い方があるのだと感じられます。

今入れる? 近くで入りやすい飲食店がわかる混雑予報マップ

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました