Bialystocksの甫木元空は、2025年の二人編成ツアーを経て、引き算をしながら冷静に歌えるようになってきたと話しています。
それ以前には、何十回も歌って録音し、自分の声に合う言葉の響きを探してきました。
歌声を作品へ残すことから始まり、相方のメロディに言葉を乗せ、客席の反応にも目を向けて歌い方を考えるようになる。
録音とライブで、甫木元が歌との距離を変えていった過程をたどります。
歌手になる前に、映像の中へ歌声を残した
甫木元は、もともと人前で歌うつもりがなかったといいます。
2025年の取材では、音楽の成績が特別によかったわけでもなく、カラオケで歌っても、大きな反応があるわけではなかったと振り返っています。
曲を作り始めたのは、高校生の後半でした。
授業でビートルズの「Hey Jude」をギターで弾くことをきっかけにコードを覚え、誰に聴かせるともなく曲を作るようになったそうです。
多摩美術大学の卒業制作では、自分で作った映像に曲を乗せています。
そこで人に聴いてもらった経験が、2016年の映画「はるねこ」で、曲を作り歌ってみることにつながりました。
青山真治監督からも、記録に残してみてはどうかという後押しがありました。
歌手としての大きな宣言に先立って、まず、自分の作品の中に声を残す機会があったのです。

画像出典:画像掲載元
「I Don’t Have a Pen」で、言葉を声にして探す
Bialystocksでは、相方で鍵盤を担当する菊池剛の曲を歌うことが、新しい経験になります。
2020年末に発表され、翌2021年の1stアルバム『ビアリストックス』にも収録された「I Don’t Have a Pen」が、その例です。
2022年の取材で菊池は、最初にラップのようなイメージが浮かび、それを甫木元の歌うメロディへ変えていったと説明しています。
甫木元にとっても、他人が英語で歌ったメロディに日本語を乗せるのは、初めてのことでした。
デモの英語が持つ語感を、日本語へ置き換えると、思うように収まらない。
意味と音の間で、試行錯誤していたのです。
そこでこの曲では、文章として歌詞を考え続けるより、まず何十回も歌い、録音しました。
自然に出てきた言葉を組み合わせ、音として変えたくない部分は残す。
サビも、菊池のデモから引き継いだといいます。
重視したのは、その言葉が耳に残るかどうかでした。
歌は、決まった文章を最後に読み上げる工程だけではありません。
この曲では、声にしてみる作業そのものが、言葉を見つける方法になっていました。
知り合いの子供が、サビ前の部分をよく歌っていると聞いたことも、甫木元にはうれしい反応だったそうです。
「I Don't Have a Pen」のMV(2021年公開)。
言葉が音にはまる面白さを、聴き手も受け取っていた
この曲について、2023年に感想を書いたカシマモエのnoteは、節をつけて歌う箇所と、淡々と語るような箇所の違いに注目しています。
さらに、流れるような歌い方の中で、言葉が音にぴたりとはまる気持ちよさも挙げていました。
この感想で語られているのは、出来上がった歌の中で、言葉の表情や流れが変わる楽しさです。
何度も声にして探した響きが、歌を聴く楽しさとして届いていたことがうかがえます。
2025年の二人編成ツアーで、力を引く感覚をつかむ
歌い方を見直す、もう一つの機会になったのが、「二人編成ツアー 2025」でした。
ピアノとボーカルで全国19カ所、全32公演を回り、甫木元にとっては1日に2公演を行うことも初めてでした。
翌2026年の公式インタビューでは、自分を楽器と考えて、どう調整するかを見つめ直したと話しています。
会場ごとの個性や、客席が少し離れたように感じる瞬間にも、柔軟に目を向けられるようになったそうです。
歌では、自分を大きく見せようと力任せに歌い上げるところから、力を引き、冷静に歌える方向へ変わってきたといいます。
会場の大小によって特別なことをするより、その曲に適したことを選ぶ。
毎回リセットされていたようなライブの経験を、次へ積み重ねられるようになったという実感でした。

画像出典:音楽ナタリー
「灯台」の高音を、ピアノと一緒に作る
「灯台」は、2022年の『Quicksand』にも収録された曲です。
「灯台」のスタジオ録音を使ったMV(2022年公開)。
この曲を二人で演奏した、2025年10月5日の上田映劇・昼公演について、emuのnoteに感想が残っています。
東京公演に比べ、曲順やテンポの緩急、軽めのアレンジが印象に残ったとしています。
同じツアーでも、会場で受け取る表情が変わっていました。
「灯台」では、甫木元の歌い出しにピアノの音が重なり、曲が姿を現すように感じたと書いています。
終盤の高音でも、伸びる歌声をピアノが支えているようで、二人で作り上げていると受け止めていました。
高い声の見せ場にも、相手の音とのやり取りがあります。
菊池も公式インタビューで、二人編成では歌の変化を意識し、よい瞬間が自然に生まれる流れを作ろうとしたと説明しています。
歌い手の引き算と、伴奏者の働きかけが、同じ舞台の中で動いていたのです。
声を録音して言葉を探すことと、その場で相手の音や客席を感じて歌うこと。
甫木元の歩みには、声を出すたびに、歌を作り直していく姿があります。
力を引くようになったという変化にも、曲と周囲の音を受け止める経験が重なっていました。
「言伝」で軽い声を作った録音や、「Over Now」でのタイミングの工夫は、甫木元空(Bialystocks)の歌い方で取り上げています。

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