CHISAさんは、30年後にXGを振り返った人へ何を覚えていてほしいかと聞かれ、「自分の声」を挙げています。
ダンスでも外見でもなく、時間がたっても他人と取り替えられない声を残したいという答えでした。
その言葉を知ると、CHISAさんの高音が単に上まで届く声ではない理由が見えてきます。
強く歌う場面でも、言葉の表情やR&Bの細かな揺れを消さず、声を一色にしないことが大きな特徴です。
結論から言えば、中心にあるのは高音の高さよりも感情の解像度です。
本人が「最も大切」と考える感情を先に置き、音量、息、語尾、フェイクを後から選ぶため、英語の曲でも言葉が置き去りになりません。
『Nobody Love』は、声量より先に人物を見せた
2022年の『Nobody Love』は、デビュー直後のCHISAさんが一人で歌ったR&Bカバーです。
XG全員のパフォーマンスから離れ、声だけで一曲を成立させる企画だったため、後に本人が語る「声は自分の最大の武器」という考えを早い段階で形にしています。
複数の歌唱解説では、明るさのある声、芯を残した高音、細かな音の動きに対応する柔軟さが共通して挙げられています。
一方で、声域や声区の呼び方は分析ごとに異なり、「ここからすべてミックスボイス」と一線を引けるほど単純ではありません。
初心者にも分かりやすく言えば、大きな一音で圧倒するより、同じフレーズの中で声の温度を何度も変えられる歌い方です。
まっすぐ当てる音、少し息を含ませる音、細く曲がる語尾が短い間隔で入れ替わるため、旋律そのものが会話のように動きます。
R&Bの高音は「伸ばす」より、言葉の中を動く
日本語の高音曲では、サビの母音を長く伸ばし、声量を保つことが目立ちやすいです。
CHISAさんが得意とするR&Bでは、同じ高音でも、子音の位置、拍より少し前後する言葉、短い装飾音が表情を作ります。
そのため、高音だけを太く再現しようとすると、むしろ本人らしさから離れます。
音程へ到着した瞬間より、そこへ入る前の言葉と、音を離す時の余韻までが一つのフレーズだからです。

『Peaches』ではJURIAさんと同じ曲を歌っていますが、二人を同じ声へそろえてはいません。
声質の違いを残したまま受け渡すことで、原曲の柔らかさとXG VOX独自の会話感が両立します。
幾田りらさんの透明な高音も、音量だけで押さず、言葉の細部を残す点では比較しやすい歌声です。
ただし、幾田りらさんが日本語の輪郭を自然に保つ方向へ進むのに対し、CHISAさんは英語のリズムとR&Bの装飾を声の中心へ置きます。
英語で歌う難しさを、発音の正しさだけにしなかった
XGは日本で育ったメンバーが韓国を拠点に活動し、英語を中心に歌ってきました。
CHISAさん自身も、日本語のように自然には扱えない言語で、同じ感情をどう届けるかが難しかったと話しています。
ここで重要なのは、英語らしく聞かせることだけを目標にしなかった点です。
発音が整っても、子音を強くしすぎれば旋律が途切れ、音を滑らかにしすぎれば言葉の意味がぼやけます。
CHISAさんの歌唱では、英語のアクセントをリズムへ置きながら、母音の長さを曲の感情に合わせて変える考え方が見えます。
これは生まれつき英語が得意だったという話ではなく、約5年の練習生期間に言葉と歌を同時に身につけた結果です。
英語の歌詞で高音が出にくい理由を考える時も、発音を一語ずつ正しくするだけでは足りません。
言葉を拍のどこへ置き、どの母音で高音を保つかまで結び付ける必要があります。
『In The Rain』では、歌う人から旋律を作る人へ進んだ
2024年のミニアルバム『AWE』に収録された『In The Rain』では、CHISAさんが制作へ以前より深く関わりました。
プロデューサーと一緒に旋律やアドリブを考え、自分の声にどの動きが似合うかを、完成後に歌うだけでなく制作段階から選んでいます。
この経験は、フェイクの多さを技巧の見せ場にしない理由ともつながります。
細かな音の動きは、歌えるから加える飾りではなく、曲の感情を次へ運ぶために置かれています。

『Losing You』のような三人の歌唱では、自分だけを大きく見せるより、前の声が残した空気を受け取り、次へ渡す役割が必要です。
CHISAさんの強さは、ソロで前へ出られることと、複数人の中で声のサイズを変えられることが同居している点にあります。
2026年の『THE CORE – 核』では、XGそのものがジャンルを横断する作品を掲げました。
一曲ごとに音楽の時代や手触りが変わっても、CHISAさんは大声という一つの目印に頼らず、感情の方向から声色を選べます。
ここで声色を変えるとは、別人の声を無理に作ることではありません。
同じ声のまま、言葉を近く置くのか、遠くへ放つのか、語尾を残すのか、短く切るのかを選び直すことです。
本人が表現には限界がないと話すのも、持っている声を捨てて何者にでもなるという意味ではないでしょう。
自分だけの音色を核にしたまま、経験した感情の数だけ使い道を増やせるという考えです。
「最強の武器」は、毎日同じ状態で使えるように守っている
本人は声を最大の武器と呼ぶ一方で、特別な裏技を語ってはいません。
水分を取り、日々ウォームアップを行い、その日の状態を整えるという地味な習慣を重視しています。
これは、強い高音を出せる人ほど喉を酷使してよいという考えの反対です。
表現の幅を広げるには、強い音だけでなく、小さい音や柔らかい語尾も選べる状態を残さなければなりません。
越智志帆さんの太い高音と比べても、参考にすべきなのは声量の数字ではなく、必要な瞬間まで力を使い切らない考え方です。
CHISAさんのような高音を目指して、喉を押す、無理に声を歪ませる、息が足りないままフェイクを詰め込む方法は避けてください。
痛み、強いかすれ、普段より低い話し声が続くなら、その日は歌唱を止めるべきです。
不調が長引く場合は、発声練習で慣らそうとせず、耳鼻咽喉科などへ相談する必要があります。
CHISAの歌を聴く時は、最高音より「感情の切り替わり」を追う
歌唱力を確かめようとすると、多くの人は一番高い音や一番大きな声を待ちます。
しかしCHISAさんの個性は、その前後で声がどう小さくなり、どの言葉から熱を上げ直すかに強く現れます。
『Nobody Love』では一人の声が何色に変わるか、『Peaches』では別の声をどう受け取るか、『In The Rain』では旋律とアドリブが感情をどう進めるかに注目すると、同じ「上手い」が別の意味に見えてきます。
高音へ到達する能力ではなく、曲の中で必要な自分へ何度も変われる能力が見えるからです。
まとめ
CHISAさんの歌い方は、明るく強い高音だけで説明できません。
感情を最初に決め、英語のリズム、R&Bの細かな音、息や語尾をその感情へ合わせて選ぶため、強く歌っても言葉が消えません。
『Nobody Love』で声そのものを前へ出し、『Peaches』『Losing You』では他の声と関係を作り、『In The Rain』では旋律やアドリブの制作にも踏み込みました。
声を「最大の武器」と呼べるのは、高い音が出るからだけでなく、その武器の使い方まで自分で考えてきたからです。
30年後に覚えていてほしいという願いは、すでに歌い方の設計になっています。
一音の強さではなく、感情が変わるたびに声の姿も変わることこそ、CHISAさんのR&B高音が長く耳へ残る理由です。






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