TRFのYU-KIさんには、「歌って踊れるボーカリスト」という説明だけでは収まらない面白さがあります。
もともと歌手を目指して本格的な訓練を積んだ人ではなく、ダンスコンテストをきっかけに、歌を聴かれる前から新ユニットのボーカルへ指名された人だからです。
しかも待っていたのは、歌いやすい入門曲ではありませんでした。
高いキー、速いテンポ、息を吸う隙間の少ない旋律、イントロなしで一声目から決めなければならない曲。
YU-KIさんの歌声は、理想の発声を教わって完成したというより、難題しかない現場で「この曲を成立させる声」を身につけた結果です。
あの高音がダンスサウンドを突き抜ける最大の理由は、単に声が高いからではありません。
迷う暇のない速さの中で、歌い出しの一音へ勢いと輪郭を同時に与えられることです。
歌を聴かれる前に、ボーカルへ決まっていた
YU-KIさんがTRFへ入った経緯は、一般的なボーカルオーディションとはかなり違います。
ダンスコンテストで声をかけられ、新しいユニットの説明を受けた時点で、本人の歌はまだ聴かれていませんでした。
デビュー前にボイストレーニングを受けた経験もなく、現場の専門用語さえ分からない状態です。
それでもリリースは先に決まり、曲を覚え、録音し、次の曲へ進む日々が始まりました。
これは「天才だから準備が不要だった」という美談ではありません。
分からないことをエンジニアへその場で聞き、モニターから自分の声がどう聞こえるかを確かめ、失敗のたびに方法を変えたと本人は振り返っています。
YU-KIさんの発声の土台は、最初から与えられた教科書ではなく、質問と失敗の蓄積でした。
その出発点を知ると、TRFの歌声に残る独特の即時性も理解しやすくなります。
丁寧に準備した声を楽曲へ当てはめるというより、鳴った音へ身体ごと反応し、その場で声を前へ放つ。
ダンサーとして培った瞬発力が、歌手経験の不足を別の形で補ったのです。
小室哲哉の高いキーは、相談して決めた高さではなかった
TRFの曲が高い理由を、YU-KIさんの得意音域に合わせた結果だと思うと順序が逆です。
当時は作曲段階で細かくキーを相談したわけではなく、高い設定の曲を全力で歌ったら、たまたま声が出たと本人が明かしています。
さらに旋律が人間の呼吸を待ってくれるとは限りません。
ブレスを入れる場所がなく、さすがに歌えない部分については、本人から伝えに行ったこともありました。
ここにYU-KIさんの高音の正体があります。
余裕たっぷりに上から眺める声ではなく、届くか分からない高さへ毎回踏み込み、曲の速度に置いていかれない声です。
だから爽快なのに、どこか切迫感が残ります。
高音の専門用語を一つだけ当てはめて、「地声だから強い」「ミックスボイスだから出る」と結論づけるのは難しいでしょう。
TRFの歌では、声区の名前よりも、最初の子音から拍へ乗り、短い時間で母音を前へ運ぶことのほうが重要です。
高さだけを切り出すと、あの推進力が消えてしまいます。

イントロのない一声目が、歌い方の輪郭を作った
『寒い夜だから…』や『survival dAnce ~no no cry more~』には、長い前奏を聞きながら呼吸や音程を整える猶予がありません。
曲が始まると同時に、正しい高さをつかみ、言葉へアタックをつけて歌い出す必要があります。
YU-KIさん自身も、イントロのない曲でどうキーを取るのかが大きなプレッシャーだったと語っています。
毎回、瞬発力で乗り越えるしかなかったのです。
その経験は、声の印象にも直結します。
語尾を長く飾る前に、まず一声目で曲の温度を決める。
『EZ DO DANCE』の明るさも、『寒い夜だから…』の寂しさも、冒頭の声が遅れれば別の曲に聞こえてしまいます。
YU-KIさんの声がシンセサイザーの密集した音に埋もれにくいのも、音量だけの問題ではありません。
声の輪郭が拍の前側にあり、日本語がリズムの一部として聞こえるからです。
細かなフェイクを見せるより先に、言葉を音楽の勢いへ変えることができます。
「歌いながら踊る」より、歌とダンスを同じ速度で判断する
TRFでは、ボーカル、DJ、ダンサーが別々の専門性を持っています。
YU-KIさんが全曲でダンサー陣と同じ運動量をこなす、という意味ではありません。
重要なのは、ステージ全体がダンスの速度で進む中、歌だけが安全な場所へ下がらないことです。
次の振り付け、客席の反応、モニターの聞こえ方、ブレス、高音の入口を同時に判断する必要があります。
歌手経験がなかったYU-KIさんが現場で身につけたのは、理想的な一音を静止して作る技術より、条件が変わっても曲を止めない判断力でした。
これは、ライブの調子に波が見えやすい理由とも表裏一体です。
録音の一部分だけを比べれば、評価が割れることがあります。
一方でTRFのライブは、歌、ダンス、DJ、客席が同じ瞬間に熱を上げて完成するものです。
YU-KIさんの歌唱は、声だけを無菌室へ取り出すより、その大きな流れの中で強みが見えます。
高音で息が続かない原因を考える時にも、息を大量に吸うことだけが答えではありません。
どの言葉までを一息で運び、どこで次の一音へ身体を切り替えるかという判断が、速い曲ほど重要になります。
現在のYU-KIは、昔の高さを無理に保存しようとしていない
TRFの代表曲は、本人が認めるほどキーが高く、テンポも速い曲ばかりです。
年齢とともに声が低くなる変化についても、YU-KIさんは隠していません。
変えられないものへ抗うより、今ある声を大切にし、今歌える歌を格好つけずに歌うという考えを示しています。
30周年作品で過去曲を選び直した際も、単なる人気順ではありませんでした。
若い頃には歌いこなせていない感覚があった曲を、現在なら違う感情で歌えると考え、リアレンジと再録音へ進んでいます。
つまり現在のYU-KIさんは、1990年代の鋭い声を冷凍保存しているのではありません。
厚みを増した現在の声、低くなった部分、ファルセットの表現を含めて、TRFをもう一度作り直しています。

武道館直前の不調が見せた、力を抜くという新しい強さ
30周年の日本武道館公演を迎える4〜5日前、YU-KIさんは突然声が割れ、ファルセットも出にくい状態になりました。
本番まで歌わず、治療と休養へ集中しています。
当日は、バラードで予定していたファルセットが使えない場合、地声へ切り替える案まで考えていました。
しかし実際には当初の表現で歌うことができ、本人も驚くほど声が伸びました。
興味深いのは、不調を押し返そうと気負わなかったことです。
客席が静かに耳を傾ける空気の中で、落ち着いてゆったり歌えたことが、結果的に良い方向へ働きました。
若い頃のYU-KIさんは、出るか分からない高音へ全力で飛び込むことでTRFを作りました。
現在は、出ない可能性も受け入れ、声を休ませ、必要なら別の方法を選びながらステージへ立っています。
これは勢いを失ったのではなく、勢いしかなかった出発点に、選択肢が加わった変化です。
YU-KIの高音は、失敗を隠さず前へ進む声
YU-KIさんの高音を支えているのは、最初から完成していた発声法ではありません。
歌を聴かれる前の抜てき、ボイトレ未経験、高いキー、ブレスの少ない旋律、イントロのない歌い出しという難題を、一つずつ現場で解いた経験です。
そのため、歌声には教科書通りの余裕だけでなく、飛び込む瞬間の緊張も残ります。
それがTRFのダンスサウンドへ人間らしい切迫感を与え、ただ明るいだけではない高揚を作りました。
30年後の現在は、若い頃と同じ高さを競うのではなく、厚みを増した声とファルセットを選び直しています。
YU-KIさんの強さは、声が変わらないことではありません。
変わる声を認めながら、曲が始まった瞬間には迷わず前へ出られることです。
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