末吉秀太の歌い方|囁き、裏声、速い言葉で変わる声の距離

2020年の作品参加発表時に公開された末吉秀太の写真 シンガー
2020年の作品参加発表時に公開された末吉秀太の写真

末吉秀太の歌を知る入り口が「HACK」だった人と、バラードだった人では、声の印象が違うかもしれません。
彼の歌を捉える手がかりは、声を大きく出す場面だけでなく、軽くする場面や、言葉を短く動かす場面にもあります。
同じ人の声なのに、なぜこんなに表情が変わるのでしょうか。

2018年のスタジオ音源

「My First Love」と「秒針 Re:time」で、裏声が担うもの

2018年の日本武道館公演で歌った「My First Love」は、ファルセットを知る例になります。
ピアノに合わせ、階段に腰掛けて歌う場面で、裏声の柔らかな表情が前に出ていました。
激しく踊っていた時間から、歌声へ耳を寄せる時間へ。
声の質感を変えることが、公演の空気を変えることにもつながっています。

その直前には、aikoの「カブトムシ」をカバーしています。
冒頭を伴奏なしで歌い始め、改めてピアノが入る構成でした。
音の支えが少ないところに、まず一人の声を置く。
華やかなダンスからバラードへ移る際、声だけに注意が向く場面を作っていたことも見逃せません。

ファルセットは、一般に裏声と呼ばれる歌声です。
高い音を出せたかどうかだけに注目すると、曲の中でその声を選ぶ意味を見落としてしまいます。
同じ高音でも、強く訴える感じと、柔らかく気持ちを置く感じでは、聴き手が受け取る印象は異なります。

同じ武道館公演の「秒針 Re:time」では、終わりにファルセットを使ったフェイクも聴かせていました。
フェイクとは、旋律に音の動きを加える歌い回しです。
歌詞を歌い切った後にも、音の動きで感情を残せる。
裏声が曲の柔らかさを作る場合と、終わりの余韻を広げる場合を分けて考えると、高音の見え方が変わります。

「体温」では、張らない声が近さを作る

2019年の幕張メッセ公演では、「体温」を囁くような声で歌っています。
電子的なバラードの伴奏の中に、その声を置くことで、強く呼びかける歌とは違う浮遊感が生まれていました。
大きな会場であっても、歌の表情まで大きく押し出す必要はないのです。

その公演の「エルモ」では、軽快なリズムに対して、切なさを含んだ歌と滑らかなフェイクを重ねました。
また「愛色に染めた」では、別れを経験する人物の気持ちを、声と動きの両方で表しています。
伴奏が軽快だから歌も明るくする、という一対一の対応にはなっていません。

「愛色に染めた」で見せたのは、目を閉じ、マイクスタンドを握って歌う姿でした。
動き続ける歌手という印象があっても、歌の感情を届けるために、その場にとどまる時間を作れる。

ここで見るべきなのは、「息を混ぜれば切なくなる」という決まりではありません。
伴奏の性格と、歌う人物の気持ちをどう組み合わせるかです。
囁くような声も、音を滑らかに動かす歌い回しも、違う場面では別の働きをします。

2019年、幕張メッセでの末吉秀太
2019年、幕張メッセでの末吉秀太。
画像出典:画像掲載元

「HACK」の速い言葉と、「Over “Quartzer”」の節回し

「HACK」では、ユーモアのある言葉を早口で続けていく歌唱が前に出ます。
一つの母音を長く聴かせるバラードとは違い、次々に出てくる言葉そのものが勢いを作ります。

同じ言葉や旋律を繰り返す作りも、この曲の覚えやすさにつながっています。
長く伸びる一声を待つより、短いまとまりが戻ってくる感覚を楽しむ曲です。
歌を体の動きと結びつけやすいことが、ライブで一緒に踊る楽しさにもつながります。

一方、ISSAと共演した「Over “Quartzer”」では、二人の歌い回しの違いが手がかりになります。
まっすぐに進むISSAの歌に対し、末吉の歌は独特の節回しで推進力を作ります。
サビで声が重なるときにも、単独で歌うときの個性があるからこそ、組み合わせの面白さが生まれるのです。

なお、この曲の録音は二人別々に行われました。
その場で歌い合って生まれた掛け合いと想像するより、別に録った声がどう組み合わされたかに耳を向けると、歌の作りを捉えやすくなります。

また、2026年9月の「With Me」では、英語詞を歌いながらフェイクや高音も取り入れています。
速く言葉を動かす歌に加え、旋律を伸びやかに展開する歌も、同じステージの中に置ける。
リズムの得意な歌手という印象を、さらに広げてくれる曲です。

甘い声も、作品の中で役を持つ

声の甘さがはっきり役割を持った例が、『おそ松さん』第3期のエンディング曲「Max Charm Faces ~彼女は最高♡♡!!!!!!~」です。
末吉のボーカルには、相手を受け止める王子様のイメージが託され、周囲にはトト子やにゃーの掛け合い、六つ子の合いの手が加わりました。

にぎやかな曲だからといって、全員が同じ強さで押し出す構成ではありません。
甘い主役の歌があることで、その周りの騒がしさも際立ちます。
本人は録音で難しさを感じたと話しつつ、声優たちとの共演を楽しんだと振り返っています。

対照的なのが、ソロ初期の「to.ri.ca.go」です。
2017年のステージでは、挑発するような歌と、甘い誘いを感じさせる表情が同居していました。
甘さを優しさだけに使わず、相手を引き込む表現にも使える。
声の色気を一種類に決めつけないことが、曲を聴き分ける手がかりになります。

「灯蛾」は、静かな歌のまま終わらない

2026年9月の公演で歌った「灯蛾」は、一曲の中の変化を考える例です。
しっとりと歌うところから、終盤の熱を帯びた伴奏に合わせ、感情を大きく放つ歌唱へ進んでいました。
バラードという分類だけでは、この曲で声が動く方向を説明し切れません。

2026年9月の公演。撮影:木村直軌
2026年9月の公演。
撮影:木村直軌。
画像出典:画像掲載元

2024年の公演では、「灯蛾」に続く「Buster Call」でメガホンへ持ち替える演出もありました。
ここでは、聞こえてくる声の違いに、歌い手の表現だけでなく、声を届ける道具も関わります。
強い音が聞こえたからといって、すべてを喉の力の変化として捉えるわけにはいきません。

「体温」の囁きに近い声、裏声で広げる余韻、速い言葉で作る勢い、終盤で放つ強い感情。
それぞれを別の得意技として数えるより、聴き手との距離をどう変えるかと考えると、末吉の歌が一つにつながります。

本人は以前から、人前に立つ仕事だからこそ、相手の立場で考えるよう心がけていると話していました。
自分の信念を保ちながら、直球だけでなく変化球も試したいという姿勢です。
曲ごとに違う表情を見せる歌は、その考え方ともよく重なります。

末吉秀太らしさは、いつも同じ声を出すことより、聴き手を近づけたり、舞台の熱へ引き込んだりする、その選び方に表れています。
声が変わる瞬間に注目すると、ダンスの華やかさの奥にある、歌そのものの細かな演出も見えてきます。

歌う役割がどのように広がってきたかは、末吉秀太の歌唱変遷でたどっています。

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