2024年、ミュージカル『プロデューサーズ』に挑んだ濵田崇裕は、歌を覚える方法から学び直していた。
それまでは耳で聴いて音を覚えていたが、今度は楽譜を見て、休符の位置も考えなければならない。
歌唱力を評価されてきた人にも、初めての現場では新しい難しさがあった。
WEST.の中では声色を変え、歌喜劇では共演者と音を合わせ、ミュージカルでは譜面に沿って歌を組み立てる。
濵田の歩みをたどると、歌う場が増えるたびに、すでにできることと新しく覚えることを確かめてきた姿が見えてくる。
やさしいひと 公式音源(2021年)
2018年、覚えた音を一緒に歌う難しさを知る
2016年に初演された『歌喜劇/市場三郎~温泉宿の恋』に続き、2018年には『市場三郎~グアムの恋』で主演を務めた。
このシリーズでは、伴奏に乗せて歌うだけでなく、出演者のアカペラで情景や心情を表していく。
続編の演出では、濵田に前作にはなかった歌の課題が用意された。
演出家の河原雅彦は、ミュージカル女優を迎え、芝居と歌のどちらの稽古をしているのか分からなくなるほど練習したと振り返っている。
濵田自身も、頭の中に音を入れるために繰り返し聴き続けたという。
続編への出演は、慣れた役をそのまま再現する機会ではなかった。
河原によれば、客席からは気軽に笑える場面にも、演じる側には高度な歌の作業があった。
難しかったのは、覚えた音を一人で歌えることと、全員で合わせられることが同じではなかった点だ。
自分では覚えたつもりでも、共演者と歌うと違って聞こえる。
そこで必要になったのが、相手の声を聴きながら、一緒に成立する音を探す練習だった。
共演した大和田美帆も、アカペラに慣れるまで時間がかかり、自宅でも歌っていたと話している。
大和田が楽屋で歌うと、別の楽屋から濵田の歌が聞こえ、さりげなく皆が声を合わせることもあったという。
稽古場だけでなく、楽屋で聞こえる歌も、共演者と音を重ねる機会になっていた。

画像出典:写真掲載元
翌2019年、グループ内での歌の役割を語った際にも、濵田は神山智洋と自分には声を変える役割があると話していた。
神山とハモると、細かく言葉を交わさなくても歌で分かり合える感覚があるという。
グループの歌でも、自分の声を出すことと、相手に合う声色を選ぶことが、濵田にとって大切な役割だった。
同じ取材では、神山には負けたくないという思いも明かしている。
競い合う相手であると同時に、一緒に歌うとしっくりくる相手でもあった。
濵田が語るグループでの役割には、自分の歌を磨くことと、他の声に重なって一曲を支えることの両方がある。
2022年の歌唱評が示す、声の柔らかさと表情
2022年の「Mixed Juice」では、冒頭の濵田の声が歌唱の聴きどころとして取り上げられた。
音楽ライターの北村由起は、伸びやかで柔らかい声を濵田の持ち味に挙げながら、この曲の歌い出しではソウルフルなボーカルを聴かせていると評している。
Mixed Juice MV・YouTube版(2022年)
北村は、ソロパートでのフェイクに加え、歌う相手に応じてハモリを変えられることも評価していた。
2019年に本人が語った、声色を変えて曲を支える役割が、歌唱評の中でも持ち味として捉えられている。
自分の歌い出しで印象を残すことと、誰かと重なって歌を支えることの、どちらでも存在感を示していた。
2024年、耳で覚える方法に楽譜を加える
『プロデューサーズ』で濵田が演じたのは、プロデューサーのマックス・ビアリストックだった。
本格的なミュージカルは初めてで、歌稽古が始まった頃はメロディーを覚えることに精いっぱいだったという。
2024年9月に掲載された取材では、まだ練習した曲も数曲で、手応えを語る段階にないと明かしていた。
ミュージカルで主演を務めてよいのだろうかと感じるほど、不安も大きかった。
一方で、最初からできる人はいないと考え、稽古が進めば楽しみも増すだろうと話している。
以前から音を耳で聴いて覚えていた濵田にとって、楽譜を見ながら進める稽古は新しい経験だった。
歌う音だけを覚えるのではなく、どこで歌を休むのかも確認する。
慣れた方法だけで進められないことに苦戦し、家でも曲を繰り返し聴いていた。
耳で覚える方法を続けながら、声を出さない時間も、歌の一部として確認していったのである。
プロデューサーズ 舞台版プロモーション映像(2024年)
それでも、音を正しく追うことだけを目標にはしていなかった。
本人は、歌で気持ちを伝えることに意味があると考え、その部分まで届けたいと話している。
音を覚える作業と、その音で人物の気持ちを表す作業を、同時に進めようとしていたのだ。

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口がうまく回らないフレーズについては、大声で歌うのではなく、日頃から口癖のように繰り返して慣らそうとしていた。
譜面の理解だけでなく、実際に言葉を口にする感覚にも向き合う。
この時の歌づくりには、耳、楽譜、言葉の動かし方を確かめる複数の作業があった。
以前は、他のメンバーがメイクルームで突然せりふや歌を口にする姿に驚いていたという。
ところが自分も舞台へ入ると、気づけば同じように歌っていた。
決められた稽古時間の外にもフレーズを持ち出し、日常の中で口になじませるようになっていたのだ。
開幕を前にした会見では、稽古を楽しく過ごし、不安はないと話している。
また、長く一緒に活動してきた神山との間には、二人だから成立した歌の場面や、自然と動きがそろうところがあったと振り返った。
新しい譜面や言葉に向き合う一方で、相手を知っていることは、この舞台でも支えになっていた。
公開ゲネプロを取材したYurikaは、第二幕後半のソロ「BETRAYED」を、アドリブも交えて歌い上げる場面として紹介した。
歌手として声を聴かせることと、マックスという人物を演じることが、同じソロの中にある。
稽古で願っていた、音を追う先に気持ちを届ける歌は、舞台の芝居とつながっていた。
2025年、楽譜のない歌喜劇で歌い出しを合わせる
2025年には、シリーズ第3弾『歌喜劇/~蘇る市場三郎 冥土の恋~』で再び市場三郎を演じた。
ミュージカルを経験した後でも、アカペラには別の難しさがあった。
この作品の台本には楽譜がなく、歌う箇所に音符の印が付いている。
濵田は本読みで想像したメロディーを歌い、共演者と相談しながら音階を合わせていくと説明している。
声を持ち寄って、場面に合う歌を作っていた。
出演者が担うのは、人物の歌だけではない。
波の音などの効果音も声で表し、場面そのものを作る。
歌うよう指示された箇所で、まず自分が思い描く旋律を出し、演出家や共演者と相談するため、楽譜から覚え始めた前年の舞台とは、歌を作る順序も違っていた。
歌喜劇/~蘇る市場三郎 冥土の恋~ 舞台ダイジェスト(2025年)
本人が特に緊張すると話したのは、歌い出す瞬間だった。
伴奏の助けがない中で、全員が頭の中の音を合わせてハモらなければならない。
稽古では手をつなぎ、発声や歌の練習も重ねていたという。
2018年には、覚えた音を皆で歌うと違って聞こえる難しさを話していた。
2025年の説明では、その共同作業が、歌い出す前に頭の中の音を共有するところから必要だと分かる。
ミュージカルを経験し、同じシリーズへ戻ってきても、共演者と一緒に作るアカペラの難しさは残っていた。
さらに、舞台にはわざと音を外し、素人のように歌う場面もあると明かしている。
全員で音を合わせる技術を使いながら、場面によっては、あえて整わない歌も演じる。
滑らかに歌えることに加え、その人物と場面にふさわしい歌を選ぶことが、歌喜劇では求められていた。
濵田の歌の歩みには、歌い慣れた方法を持ちながら、新しい条件で歌を作り直す経験が積み重なっている。
声を変えること、言葉を口になじませること、相手と一緒に歌い出すこと。
歌唱力への評価だけでは見えにくい、その具体的な作業を知ると、濵田が一人でもグループでも歌を担う姿をより深く捉えられる。
声の響きやハモリの特徴は、濵田崇裕の歌い方で詳しく扱っています。

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