小坂恭子の歌唱変遷|「ガラス細工」の強さから、「ストーリー」の柔らかさへ

小坂恭子『フレイバー』ジャケット(2005年CD掲載) シンガー
小坂恭子『フレイバー』ジャケット(2005年CD掲載)

小坂恭子を「想い出まくら」のしっとりした歌声で覚えていると、それより前の「ガラス細工」は意外に感じられるかもしれません。
両曲の歌唱を比較した記録では、初期の「ガラス細工」に、声の荒さや鋭さが見いだされています。
さらに1978年の「ストーリー」では、軽く柔らかな声への評価が現れます。
ここでは、この三曲を通して、1970年代の作品ごとに変わっていく声の表情をたどります。

想い出まくら 正規配信音源(1975年『恭子』)

1974年、デビュー作にあった鋭い声

小坂は1973年のポプコンで最優秀歌唱賞を受け、翌年には「恋のささやき」でグランプリを獲得しました。
その年に発表した最初のアルバムが『ガラス細工』です。
代表曲が生まれる前から、自分で作った歌を歌い、その歌唱が評価されていました。

「ガラス細工」を後の「想い出まくら」と比べた曲評では、声に荒さや鋭さがあると指摘されています。
ピアノと弦楽器による内省的な曲調でありながら、途中で弦の動きが対照的に変わる、ドラマのある録音です。
その大きく動く演奏の中で、歌声にも噛みつくような強さを感じた、という比較でした。

静かに思い返すような曲だから、声もいつも柔らかいとは限らない。
初期の小坂には、曲の陰影に、声の鋭さを重ねる表情もあったのです。

1975年、「想い出まくら」で広く知られた表情

三枚目のシングル「想い出まくら」がヒットすると、もの憂い恋の歌という印象が、小坂の名前と強く結びつきました。
ピアノに乗る歌に大人の女性のけだるさを感じる評があり、「ガラス細工」の鋭さとは違う表情が広く知られます。

小坂はこの歌について、友人の姿に自分の想像を重ね、誰かにそばにいてほしいという願いを詞にしたと説明しています。
本人の経験をそのまま告白した歌、という受け止め方とは隔たりがありました。
作った人物の思いを自分の声で歌い、その人物像まで聴き手に強く印象づけた代表曲だったのです。

この声の特徴は、小坂恭子の歌い方で詳しく扱っています。

1978年、「ストーリー」に見いだされた軽さ

『ウインカー』に収められた「ストーリー」では、もう一つの歌声の表情が記録されています。
J-Canuckの2021年の評は、この曲を穏やかなシティポップとして紹介し、小坂の声も、より軽く柔らかく感じられると述べています。

小坂恭子『ウインカー』(1978年発売)
小坂恭子『ウインカー』(1978年発売)。
画像出典:写真掲載元

サックスを交えた落ち着いた演奏の中で、声にも軽さが感じられる。
編曲を担当した井上鑑の音作りとともに、歌い手の表情にも目を向けた評です。
1974年の曲で取り上げられた、声の荒さと演奏の劇的な動きに対し、ここでは声と演奏がともにくつろいだ方向を向いています。

この三曲の違いは、年齢によって声が一方向に変わったという話ではありません。
「ガラス細工」の緊張を含む表情、「想い出まくら」のもの憂さ、「ストーリー」の軽さ。
曲や編曲が変わるたび、同じ歌手の声にも違う面が現れています。
代表曲の前後へ目を向けることで、しっとりした歌だけでは捉えきれない1970年代の小坂が見えてきます。

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