加山雄三は2021年、半世紀前の自分の歌声に、新しく録った声を重ねた。
翌年には高音の出しづらさを語り、コンサート活動を終えている。
昔の声とよく合うことと、舞台で納得のいく歌を続けられることは、本人にとって別の問題だった。
仲間との録音、若い自分との共演、最後のホール公演をたどると、残った声の個性と、変えていった歌の届け方が見えてくる。
「紅いバラの花」|ドリーミュージック公式・公開動画
2020年、仲間と歌いながら録音の方法を変える
「Forever with you~永遠の愛の歌~」は、加山雄三&The Rock Chippersとして発表した曲だ。
2010年にザ・ヤンチャーズとして集まった森山良子、谷村新司、南こうせつ、さだまさし、THE ALFEEとの再共演で、2019年の先行配信を経て、2020年にCDが発売された。
さだが詞を、高見沢俊彦が曲と編曲を担当している。
加山が曲に感じたのは、自分をよく理解してくれている優しさだった。
みんなで歌える旋律や、それぞれの声が重なったハーモニーも喜んでいる。
一人で歌い切る作品とは異なり、長く付き合ってきた歌手たちの個性を持ち寄る録音になった。
制作時間が限られていたため、自分の歌は8小節ずつ録ったという。
加山にとっては初めての方法だったが、つないだ歌を聴いて納得し、完成を認めた。
一方、英語の「with you」が不自然に聞こえる点は高見沢と相談し、自然に発音できるよう、音符への言葉の割り振りを直している。
録り方を変えても、言葉をどう旋律に乗せるかには自分の意見を通した。
「Forever with you~永遠の愛の歌~」|2019年先行配信・Universal公式音源
2021年、昔の自分と一緒に歌う
「紅いバラの花」は、自宅の倉庫で見つかった1960年代の未発表デモ音源から生まれた。
2020年の療養を経て、退院後の加山が自ら制作の指揮を執り、当時の歌声を生かしながら新しいボーカルを録音した。
若い頃の歌を改めて聴くと、本人も自分の声なのかと驚くほど、今とよく似ていたという。
Aメロは若い頃の声、Bメロは現在の声。
戻ってきたAメロでは、若い声に現在の加山がハーモニーを添える。
新たなバンドアレンジの中で、二つの時代の歌を交互に聴き、最後には重なった声を聴ける作りになっている。

画像出典:写真掲載元
本人はこの録音について、昔と今で声の質があまり違わず、重ねてもよく合ったと話している。
古い音源には、再会を歌う言葉もあった。
客席の反応を受けながら歌う時間を大切にし、ファンの前へ戻ろうとしていた加山には、今の状況にふさわしい曲と感じられた。
若い自分から届いた贈り物のように受け止め、84歳の誕生日となる2021年4月11日に発表している。
ここで選んだのは、若い声を消さずに現在の声を加える方法だった。
仲間と声を重ねた前年の作品に続き、今度は過去の自分との組み合わせで、新しい歌を作ったことになる。
2022年、高音と歌い続ける負担の変化
その翌年、加山はコンサート活動からの引退を決めた。
2022年末に放送された取材では、85歳を迎えた頃から思うように高音が出なくなったと説明している。
以前は歌うほど声の調子が上がったのに、今は歌い続けるほど声が荒れると感じるようになったという。
努力を重ねても、自分の望む声に届かないという実感があった。
2021年に語った声の質の話と、2022年に語った高音や持続の話は、見ている部分が違う。
自分らしい声の色が残っていても、かつてと同じように歌い続けられるとは限らない。
納得できる声で舞台を務められるか。
まだ歌えるうちに退こうという判断には、その本人にしか分からない手応えも関わっていた。
最後のホール公演でも、声の魅力は届いていた
2022年9月9日、東京国際フォーラムで「加山雄三ラストショー」が開かれた。
最後のホールコンサートとなったこの公演に、バックボーカルとして参加したのがMarin’coだ。
コロナ禍でリハーサルの時間は少なかったが、演奏が始まると、それぞれの音が一つにまとまることに驚いたという。
その中で聴いた加山の声について、伸びやかなロングトーン、張りのある高音、包み込むような低音を挙げている。
歌い手自身が感じていた難しさが、そのまま共演者の評価になったわけではない。
加山が舞台を退くと決めた時期にも、声の長さ、高低の響き、演奏の中での存在感は、すぐそばで歌う人を強く引きつけていた。
客席では、メッセージボードやペンライトを手にしたファンが、一曲ずつ大切に聴いていたとも振り返っている。
本人が再び味わいたいと話していた、聴き手と同じ場所で歌う時間。
その時間が最後のホール公演にもあり、共演者の記憶に残った。
「加山雄三ラストショー」|ドリーミュージック公式・公演ダイジェスト(2022年公演)
コンサート引退後も、作り、歌う仕事は続く
コンサート活動を終える決断と、作品を作ることは別だった。
2022年8月には、岩谷時子の詞に自身が曲を付けた「海が男にしてくれた」を配信。
同年11月のラストショーのCDにも、公演のライブ音源とともに、このスタジオ録音が収められた。
「海が男にしてくれた」|ドリーミュージック公式・MV
そして2025年7月には、SHOCK EYE、PES、ISEKI、RYO、キヨサク、OTAと「風の寄る辺 ~Single Up~」を発表している。
海を愛する歌手たちから声がかかり、加山の語る自由への思いをもとに作られた曲だ。
共演者がそれぞれ担当部分を作詞作曲し、加山はサビを作曲して、歌唱にも参加した。

画像出典:HELLY HANSEN/PR TIMES
本人は、コンサートから引退しても新しいものを作るのは楽しく、若い世代と歌えたことが嬉しかったと語っている。
2022年の決断は、曲作りや新たな録音まで終えるという意味ではなかった。
長時間の舞台を続ける難しさを認めながら、仲間と作品を完成させる喜びは、その後にも残っていた。
「風の寄る辺 ~Single Up~」|2025年・公式MV
若い声と今の声を重ね、舞台で歌い続ける負担を自分の言葉で説明し、引退後には新たな仲間と録音する。
この時期の加山の変遷には、声に残ったものを確かめながら、そのときにできる音楽活動を選んでいく姿がある。
厚みのある声や母音の表情については、加山雄三の歌い方で紹介している。







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