フィリップ・ベイリー(Earth, Wind & Fire)の歌い方|「Reasons」の裏声は、なぜ甘いだけで終わらないのか

ステージで歌うフィリップ・ベイリー シンガー
Craig ONeal / CC BY 2.0

アース・ウインド&ファイアーの「Reasons」では、フィリップ・ベイリーの高い声が、一曲の主旋律を歌い切ります。
サビの最後に少しだけ添える裏声とは、使い方が違います。
甘く伸ばす声も、強く感情を押し出す声も、その高い響きの中にあるのです。

ところが本人は、自分の自然な声をバリトン、つまり男性の低めの声だと説明しています。
低い声の歌手が、なぜバンドを代表する高音の持ち主になったのでしょうか。
そこには、バンドを率いたモーリス・ホワイトとの分担、そして裏声のまま歌の強弱をつけられることが関わっています。

1975年のアルバム『That’s the Way of the World』に収められた「Reasons」は、その裏声をじっくり味わえるバラードです。

低い声も歌えるのに、裏声で覚えられた

フィリップは子どものころから、高い声の歌手をまねしていました。
その一方で、もともとの低い声で歌うことも学んでいます。
高音のイメージだけで聴いていると意外ですが、本人にとって、低い声は後から付け足した別の芸ではありません。

アース・ウインド&ファイアーでは、モーリスが低いパートを歌い、フィリップが高い声を受け持ちました。
フィリップによれば、この分担には、二人の声をそれぞれの特徴として覚えてもらう狙いがありました。
モーリスが歌う音域を、フィリップが歌えなかったわけではないのです。

同じバンドに二人のリードシンガーがいる。
しかも、二人とも低い声を出せる。
そこで似た歌い方を並べるより、声の違いが分かる組み合わせを作ったと考えると、フィリップの高音の役割が見えてきます。
あの裏声は、個人の特徴であると同時に、バンドの音を作るための選択でもありました。

1982年、ロッテルダム公演でのモーリス・ホワイトとフィリップ・ベイリー
1982年、ロッテルダム公演でのモーリス・ホワイトとフィリップ・ベイリー。写真:Chris Hakkens / CC BY-SA 2.0

モーリスが驚いたのは、高さと強さだった

では、フィリップの裏声の何が、モーリスを引きつけたのでしょうか。

最初のリハーサルを振り返ったモーリスは、フィリップが高く、しかも強く歌えることに驚いています。
甘い裏声の歌手は、当時のソウルにもいました。
その中でフィリップの声には、ざらついた力強さもあった。
高い声で叫ぶように歌っても、声を制御できていた、とモーリスは評しています。

この「甘さ」と「強さ」を、どちらも裏声で表せることが大切です。
モーリスの説明からは、柔らかく歌う場面から、叫ぶほど強く歌う場面まで、裏声で表せる歌手だったことが分かります。
フィリップは、高い響きのまま歌の勢いを変えられる。
だから裏声を、一曲の主役として使えるのです。

モーリスはさらに、コーラスグループではなく、楽器を演奏するバンドの中にこの声が入ることにも価値を感じていました。
フィリップの声は、甘いハーモニーを加えるだけでなく、演奏の中で強く存在を示せる声だったのでしょう。

「Reasons」は、裏声で歌い続ける曲

「Reasons」をフィリップの代表曲として聴くなら、いちばん高い音だけを探すより、歌い出しから主旋律を追うほうが、彼の特徴をつかみやすくなります。
この曲では、裏声そのものが歌詞を語り、旋律をつなぎ、気持ちを高めていきます。

高音は、曲の最後にたどり着く到達点とは限りません。
フィリップにとっては、その高さの中に、抑えて歌うところも、強く訴えるところもある。
モーリスが語った「甘いけれど力強い」という評価を思い出すと、同じ裏声でどれだけ表情が変わるかが、この曲の聴きどころになります。

ライブでは、「Reasons」や「Devotion」での即興的な歌も、彼の大きな見せ場になってきました。
録音どおりの音を再現するだけでなく、旋律を変えたり、歌を伸ばしたりできる曲として育ってきたのです。
フィリップの高音が強く記憶に残るのは、声の高さに加えて、その声で長く聴かせる場面を持っているからでもあります。

本人は、同じ曲を何度歌っても、目の前の観客は毎晩違うと話しています。
曲が同じでも、歌う人と聴く人が作る時間は毎回変わる。
その日の「Reasons」がどんな盛り上がり方をするのかまで楽しみにできるのは、こうした歌い方だからでしょう。

2024年、アース・ウインド&ファイアーの公演
2024年、アース・ウインド&ファイアーの公演。写真:Jonathan Schilling / CC BY-SA 4.0

相手も裏声なら、別の組み合わせが生まれる

モーリスとの高低の対比がよく知られている一方で、フィリップは、同じように裏声を使う歌手とも共演しています。
2019年のソロ作品『Love Will Find a Way』に入った「We’re a Winner」では、ビラルが加わりました。

この曲は、カーティス・メイフィールドがインプレッションズで歌った作品のカバーです。
フィリップがビラルに魅力を感じたのは、声を楽器のように使い、音域の中を自由に探っていく歌い方でした。
二人の裏声は互いによく合うはずだと考え、録音データを送って歌を加えてもらっています。

ここでは、片方が低く、もう片方が高く歌うことだけが、共演の理由ではありません。
近い高さの声でも、歌い回しが違えば、一緒に歌う面白さが生まれる。
モーリスとの歌で生かしたのは、高い声と低い声の違いでした。
ビラルとの歌では、二人とも高い声を使いながら、それぞれの歌い回しを聴かせます。
声の高さだけで共演相手を選んでいないことが分かる組み合わせです。

ソロで共演相手や歌う曲を変えていった歩みは、フィリップ・ベイリーの歌声の変遷で、「Easy Lover」からジャズ作品までたどっています。

高い声の中に、歌の起伏がある

フィリップ・ベイリーの裏声は、柔らかい声を添えるためだけのものではありません。
「Reasons」では主旋律を歌い切り、ライブでは旋律を変えて聴かせ、モーリスとの歌では低い声との違いをはっきり示してきました。

その土台にあるのが、モーリスを驚かせた、甘さと力強さを兼ねた裏声です。
高い音を出した瞬間だけでなく、その前後でどう歌の勢いを変えているか。
「Reasons」をもう一度聴くときは、そこまで追ってみると、フィリップの声が一曲を任される理由がよく分かります。

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