ビージーズのバリー・ギブといえば、「Stayin’ Alive」などで響く高い裏声が浮かびます。
あの声は、歌詞を歌っているときだけに使われているのでしょうか。
1976年の「You Should Be Dancing」には、少し意外な録音の話が残っています。
バリーは、トランペットのフレーズにも裏声で重なって歌っていました。
主旋律を聴かせる歌手が、伴奏の響きにも加わっていたのです。
この話から見ると、あの高い声の印象も変わってきます。
歌詞を届ける声、楽器の音を豊かにする声、何度も重ねて和音を作る声。
バリーは裏声の使い道を広げながら、ビージーズの音楽を作っていました。
トランペットのフレーズにも、バリーがいる
「You Should Be Dancing」は、タイトルのとおり、踊りへ誘う曲です。
高い声と演奏の勢いが結びついたこの曲について、バリーは、マイアミで身近にあったラテンのリズムなどを試していたと振り返っています。
細部を直しながら録音を進め、曲を完成させました。
その細部の一つが、トランペットのフレーズと一緒に歌う裏声です。
楽器が前へ出る場面にも声を重ねることで、楽器だけで演奏したときとは違う響きが加わります。
歌手が言葉を歌うのを休んでいても、録音の中では、まだ歌声が鳴っていることになるのです。
バリーは「Jive Talkin’」でも、楽器のフレーズを一緒に歌っていたと説明しています。
何か変わった音を加えられないかと試し、合うものを残していったのでした。
裏声と聞くと、地声では届きにくい高音を出すための声を想像しやすいかもしれません。
バリーの場合は、その高い響きを、楽器と混ぜる材料にもしています。
「You Should Be Dancing」の声を、歌詞を歌う部分だけで追わず、楽器のフレーズにも注意して聴きたくなる話です。
楽器に演奏してほしいことを、まず歌って伝える
バリーが声で楽器のフレーズをなぞっていたことは、曲を作るときの方法ともつながります。
彼は管楽器や弦楽器に演奏してほしい旋律を、自分で歌って伝えていました。
一緒に制作したアルビー・ガルテンは、バリーとカセットの前で案を歌い合い、それを自分が楽譜にしていたと振り返っています。
録音エンジニアのジョン・マーチャントも、バリーが楽器の案を歌い、それを他の人が譜面にして演奏する方法を説明しています。
旋律を歌えば、どの音へ上がるかに加えて、どれくらい長く伸ばすか、どこで勢いをつけるかも伝えられます。
バリーの声は、伴奏を考える段階から役に立っていたのです。
その意味で、「You Should Be Dancing」で楽器と一緒に歌う裏声は、声で編曲を考える方法の延長とも捉えられます。
声で思いついたフレーズを楽器に渡すこともあれば、その楽器に声を重ねて残すこともある。
歌手の仕事と編曲の仕事が、バリーの声を通してつながっています。

一人の声を重ねて、大きな和音にする
声を楽器のように使う工夫は、踊れる曲に限りません。
1978年に発表されたバラード「Too Much Heaven」では、バリー自身の声を何度も録音して、厚い響きを作りました。
ガルテンによると、バリーの録音は18トラック。
三つの和声のパートを、それぞれ高い音域と低い音域で歌い、さらに三回ずつ重ねたものです。
それに、兄弟三人で歌った録音も加わっています。
人数が増えて聞こえる音を、一人が何度も歌って作る。
このとき大切なのは、音程だけでなく、歌い始める位置や息を吸う場所もそろえることです。
少しずつ違えば、声が厚くなると同時に、言葉やリズムもぼやけてしまいます。
制作した人たちが驚いていたのは、バリーが先に録った歌を聴きながら合わせなくても、タイミングをそろえられたことでした。
繰り返し歌っても、音を出すタイミングや長さがそろう。その確かさが、豊かな重ね声を支えていたのです。
「You Should Be Dancing」では楽器と同じフレーズを歌い、「Too Much Heaven」では自分の声を重ねて和音を作る。
どちらも、主旋律以外にも声を使って、曲全体の響きを作る工夫です。
三人で歌うときは、呼吸も合わせていた
ビージーズの声には、バリー一人の重ね録りとは別の、兄弟で歌う響きもあります。
バリー、ロビン、モーリスは、一つのマイクを囲んで一緒に歌う録音をしていました。
バリーは、互いの目を見て、呼吸を感じながら歌っていたと話しています。
三人の声を混ぜた状態で録音すれば、後から一人の声だけを大きくしたり、小さくしたりするのは難しい。
そのため、自分が気持ちよく歌うことと、三人で良い響きになることを、その場で合わせる必要がありました。
バリーの高音がよく目立つ曲でも、周りには、他の声と混ざるために歌った部分があります。
一人の歌い手として前へ出ることと、和音の一部として声を合わせることを、同じ録音の中で引き受けているのです。
この録音方法には、昔から一緒に歌ってきた兄弟の経験も表れています。
相手がいつ息を吸って次を歌うのかを見ながら、自分も歌う。
あの高音の周りには、そうした細かなやり取りがあります。

あの声は、歌のどこで鳴っているのか
「You Should Be Dancing」の裏声は、聴き手を踊りへ誘う主旋律であり、トランペットのフレーズに重なる音でもあります。
バリーの歌い方を知る面白さは、高い声が出ることに加えて、その声を曲のどこで使うかにあります。
声で楽器の旋律を考え、演奏に重ね、自分自身や兄弟の声と和音を作る。
そうしてできた録音では、歌と伴奏をはっきり分けて聴こうとしても、両方に同じ人の声が混ざっているのです。
その使い方も、長い活動の中で変わっていきました。
後年には裏声を主旋律で使う場面を減らし、昔の曲を新しい共演相手と歌い直しています。
1968年の「Words」から、その歌い直しまでの歩みは、バリー・ギブの歌声の変遷でたどっています。
次に「You Should Be Dancing」を聴くときは、目立つ高い歌声のほかに、楽器のフレーズにも耳を向けてみたくなります。
歌手が休んだと思った場所にも、バリーは声で加わっているかもしれません。
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