ジャスティン・ティンバーレイクの歌い方|「SexyBack」で、得意の裏声を聴かせなかった理由

2014年8月、グダニスク公演でのジャスティン・ティンバーレイク シンガー
Jakub Janecki / CC BY-SA 4.0

ジャスティン・ティンバーレイクといえば、滑らかに伸びる高い裏声を思い浮かべる人も多いでしょう。
ところが、代表曲「SexyBack」の声はざらついていて、短い言葉で強く迫ってきます。
あのきれいな声を持っているのに、なぜこんな歌い方をしたのでしょうか。

この曲で彼が目指したのは、美しい旋律を歌い上げることよりも、声の調子とリズムで強気な人物を演じることでした。
2006年の『FutureSex/LoveSounds』に収められた「SexyBack」には、得意な声をいつも同じようには使わない、彼の歌作りが表れています。

本人は、歌うよりも「音程をつけて話す」感覚だった

「SexyBack」では、言葉の最後を長く伸ばして余韻を楽しませる場面より、短い一言を置いて、次の一言へ進む場面が目立ちます。
相手を誘う歌なのに、気持ちを丁寧に説明して頼み込むような歌い方ではありません。
言い切る声と繰り返しが、ためらいのない態度を作っています。

本人も、この曲では歌うというより、音程をつけて話している感覚だと説明しています。
刺激になったのは、デヴィッド・ボウイの「Rebel Rebel」でした。
ボウイの歌から受け取った、旋律の美しさだけに頼らず、リズムと声の調子で自分を表す感覚を、自分のダンス曲でも試したのです。

そう考えると、歌い上げない部分を「物足りない」と捉える必要はなくなります。
ここで長い高音をたっぷり聴かせれば、聴く人の関心は、その声の美しさへ向かうでしょう。
短く言い切るからこそ、歌の中の人物の押しの強さが伝わってきます。

声に、わざとざらつきを加えた

あのざらつきは、喉の使い方だけでできているわけではありません。
録音を担当したジミー・ダグラスは、ジャスティン本人から、声にもっと極端な変化が欲しいと求められたことを振り返っています。
そこで声を歪ませる加工を試すと、本人はすぐに気に入りました。

通常なら、録音した声をきれいに整えることが仕上げだと思うかもしれません。
ところがこの曲では、きれいなままでは足りなかった。
滑らかな歌声を前面に出すより、少し乱暴に迫ってくる音のほうが、短く言い切る歌に合っていたのです。

ジャスティンは、この時期の音楽で一つの人物像を演じていたとも話しています。
曲の自信満々な態度を本人の性格と受け取られると、役を演じたつもりだったと説明することもありました。
「SexyBack」の声は、上手に歌える自分を示すための声というより、この曲の人物をはっきり感じさせるための声です。

2007年、ロンドンの映画プレミアでのジャスティン・ティンバーレイク
2007年、ロンドンの映画プレミアでのジャスティン・ティンバーレイク。写真:Gary King / CC BY 3.0

「My Love」では、忙しい伴奏につられて急がない

同じアルバムの「My Love」では、印象が変わります。
細かい音を繰り返すシンセサイザーの上に、柔らかい裏声の旋律が伸びていきます。
「SexyBack」の短い言葉が前へ出てくる感じに対し、こちらは歌の長い線をたどりたくなる曲です。

共同制作者のティンバランドが驚いたのも、その組み合わせでした。
動きの多い伴奏に対して、ジャスティンはゆっくり歌ったと振り返っています。
伴奏の細かさに合わせて歌まで細かく刻む、という選び方ではなかったのです。

ここでいう「ゆっくり」は、曲のテンポを落としたという意味ではありません。
楽器が次々と音を鳴らす間、歌は一つの音や言葉に時間をかけるということです。
伴奏は忙しく動いているのに、歌い手は落ち着いて相手へ語りかけている。
その速さの違いが、裏声の滑らかさをいっそう感じさせます。

高い声は、ただ目立つために置かれているのではありません。
「My Love」では、細かい伴奏の中で旋律を長く聴かせる役目があります。
「SexyBack」で声を短く切ることも、ここで声を伸ばすことも、周りの音とどう組み合わせるかという判断なのです。

一人の歌だけで、曲を完成させようとしない

「SexyBack」には、ジャスティンの言葉にティンバランドが応じる箇所があります。
ジャスティンが一言を出し、別の声が返す。
その短いやり取りまで含めて、繰り返すリズムができています。

二人が制作を振り返った会話でも、ジャスティンが歌い始める位置と、ティンバランドの返事が自然に決まったことが語られています。
ジャスティンがどう歌うかと、ティンバランドがどう応じるかが、互いに関わりながら決まっています。
ジャスティンが言葉を止めた瞬間にも、次の声からの返事を待つ楽しさがあります。

だから「SexyBack」でジャスティンの歌声だけを抜き出し、どれほど高く、どれほど長く歌えるかを比べても、この曲の魅力はつかみにくいはずです。
どこで言葉を切るか。次の声が来るまで、どれだけ間を空けるか。
そうした聴き方をすると、短い言葉の繰り返しにも細かな動きが見えてきます。

ハーモニーを歌っていたNSYNC時代から、こうした歌作りを広げていく過程は、ジャスティン・ティンバーレイクの歌声の変遷でたどっています。

2014年8月、V Festivalでのジャスティン・ティンバーレイク
2014年8月、V Festivalでのジャスティン・ティンバーレイク。写真:Drew de F Fawkes / CC BY 2.0

裏声を使わないことも、あの裏声を持つ歌手の表現になる

「SexyBack」と「My Love」は、どちらもジャスティン・ティンバーレイクの代表曲です。
一方では声を歪ませて短く言い切り、もう一方では高い声を滑らかに伸ばす。
この違いを作っているのは、それぞれの曲で何を聴かせたいかという判断です。

「SexyBack」で得意の裏声を前面に出さなかったのは、声の美しさをじっくり味わう歌にしたかったわけではないからです。
短い言葉、強い調子、歪んだ音、別の声からの返事で、人を踊りに誘う態度を作った。
その歌い方を知ってから「My Love」へ戻ると、今度はあの柔らかな裏声にも、曲に合わせて選び取った意味が感じられます。

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