中西アルノの歌声はどう変わった?「First Love」の苦しさから、自分の声で交わす歌へ

2024年のReal Soundの本人取材に登場した中西アルノ(撮影:梁瀬玉実) シンガー
2024年のReal Soundの本人取材に登場した中西アルノ(撮影:梁瀬玉実)

乃木坂46の中西アルノは、歌唱力に注目されてきた一方で、自分では見返せないほど悔いの残る歌も経験しています。
2022年、番組で初めてソロで歌った「First Love」では、低い声と高い声を出すことに意識を取られ、曲を理解する余裕がなかったと話しました。
そこから、バンドや共演者と歌を作り、聴き手へ言葉を届けたいと考えるまでに、何が変わったのでしょうか。

井上和・中西アルノ「君の名は希望」THE FIRST TAKE(2025年)。

2022年、「First Love」で音を出すことに追われた

2022年に5期生として乃木坂46へ加入した中西は、『新・乃木坂スター誕生!』で、さまざまな歌手の曲に挑んでいきます。
宇多田ヒカルの「First Love」について、本人はentaxの取材で、広い音域への対応に精一杯で、楽曲を理解するところまで意識が向いていなかったと話しました。

その曲を再び歌ったのが、同年12月の横浜公演です。
以前の出来が心に残り、歌う前は強い不安を感じていました。
ところが、公演を見たボイストレーニングの先生から、心に響いたと涙ながらに言ってもらえたことが、本人にとって大きな救いになります。

2022年の「新・乃木坂スター誕生!LIVE」取材記事に掲載された中西アルノ
2022年の「新・乃木坂スター誕生!LIVE」取材記事に掲載された中西アルノ。
画像出典:画像掲載元

先生や客席の反応を受けて、本人は、上手に歌えたかどうかを超えて、音楽の良さを感じたと話しました。
自分の中の出来栄えを気にする時間に、聴く人へ届いたという手応えが加わったのです。
「First Love」の初期の番組歌唱は、「新・乃木坂スター誕生!」第1巻に収録されています。

この時、次の公演へ向けて挙げた課題は、客席の顔を見ることでした。
それまでは歌に集中するために照明のほうを見ていたものの、自分の歌を聴くファンの表情も見たいと思うようになったといいます。
自分の中で歌を整えることと、目の前の人に届けること。
半年ぶりに同じ曲へ挑んだ経験は、その両方を考えるきっかけにもなっていました。

2023年末、生バンドと一緒に曲を進める経験へ

2023年12月、『Spicy Sessions』が始まります。
ゴスペラーズの黒沢薫とともにMCを務め、ゲストやバンドとセッションし、自分でも選んだ曲を歌う番組です。

2024年のReal Soundの取材で、中西は、それまでバンドで歌った経験がなかったと明かしました。
番組初回に歌ったのは、椎名林檎の「丸ノ内サディスティック」です。
生演奏では、バンドが自分の歌のペースに合わせてくれる分、歌う自分が曲を先へ進める、指揮者のような感覚になると説明しています。

同じテンポで用意された伴奏に乗るだけではなく、その場の人と時間を作っていく。
ハーモニーや歌う部分が収録中に決まることもあり、歌いながら相手に応じる経験が増えていきました。

そうした場へ臨む準備も、ただ原曲を覚えるだけではありませんでした。
2024年2月のORICON NEWSの取材では、原曲に加えて、複数の歌手によるカバーも聴いてから歌うと説明しています。
曲を自分なりに理解しておき、収録では共演者の声や、その場で決まるアレンジに応じる。
準備してきた解釈と、目の前で生まれる音の両方を受け止めるようになっていました。

2024年、グループでも自分の思いを歌に乗せる

グループのライブでも、歌への向き合い方が変わっていきます。
2024年1月の「34thSG アンダーライブ」では、中西が座長を務めました。
それまでは新しく覚えることが多く、先輩についていくので精いっぱいだったところから、自分たちでライブを作っているという意識が芽生えたと、Real Soundで振り返っています。

先頭に立つ重圧がなくなったわけではありません。
開演前には、松尾美佑と中村麗乃に励まされてステージへ出たことも話しています。
周囲に支えられながら気持ちをぶつけると、客席からも思いが返ってくる。
本人は、この公演から自分たちの気持ちを歌に乗せられるようになったと捉えていました。

「思い出が止まらなくなる」で、自分の曲の違う面を知る

中西が初めてアンダーセンターを務めた「思い出が止まらなくなる」も、『Spicy Sessions』では違う姿になります。
グループ曲としてのかわいらしい振り付けやMVを気に入っていた本人は、バラード調で歌うと、切なさが増すことに驚いたと振り返りました。

「思い出が止まらなくなる」グループ歌唱の公式MV。

2024年の「Spicy Sessions with クリス・ハート」では、黒沢の発案でテンポを落とし、シティポップの趣を加えたアレンジで披露しています。

声を乗せるリズムや伴奏が変わると、同じ歌詞にも別の光が当たる。
グループで歌ってきた曲を、自分一人の声でどう成立させるかを考える機会になっていました。

2025年、黒沢薫との録音と、自分に無理を強いない歌

2025年には、黒沢のEP『Singaholic』へ参加します。
二人で歌った「獣ゆく細道」は、もともと中西が番組の候補曲として挙げていたものでした。
黒沢のセルフライナーノーツによると、その時は編成や難しさから実現せず、後に録音で形になった曲です。

その番組回は、MC二人とピアノによるセッションが前提でした。
黒沢は、そこで見送ったあとも歌う機会を探し、録音では楽器を絞ってテンポも抑える方向を選んだと説明しています。
原曲の華やかな編成を再現するのとは異なる形で、発案者である中西とのデュエットを実現しました。
難しい曲を歌えるかという課題に、二人でどんな曲にするかという選択も加わっていたのです。

番組で生まれた相手との関係が、『Singaholic』という録音作品にも結びつきました。
さらに、同年10月24日の「Spicy Sessions -THE LIVE-」では、「獣ゆく細道」を二人で歌い、ライブの幕を開けています。

「獣ゆく細道」を歌う中西アルノと黒沢薫(2025年10月24日)。
「獣ゆく細道」を歌う中西アルノと黒沢薫(2025年10月24日)。
画像出典:TBSテレビ

このライブでは、以前の番組で共演した歌手と、もう一度歌う機会もありました。
中西は、かつて怖さを感じていたフェイクやアドリブへ、今回は楽しんで加われたと振り返っています。
「Bring It On Home to Me」の終盤では、根本要がリハーサルと違う歌い回しをしたため、予定していた重ね方ができなくなりました。

戸惑いながらも声を加えた中西に対し、黒沢は、以前ならハーモニーに入らず終えていたかもしれないが、今回は合わせて加わっていたと評価しました。
あらかじめ決めた歌い方だけではなく、本番で変わる相手の歌にも応じられるようになっていたのです。

同日のライブ後半では、中西が「This Is Me」を選び、平原綾香やLittle Glee Monsterのメンバーたちと歌っています。
後の取材で本人は、以前は力が入ることもあったものの、黒沢から自分の歌の良さを繰り返し伝えてもらう中で、無理を強いることが減っていったと説明しました。
その変化が、この曲の歌う部分の選び方にも表れていたといいます。

大きな声を持つ相手と共演する場で、自分の良さを分かったうえで歌を受け持つ。
難曲に応じる経験とともに、どんな声でその場に加わるかを、自分で選ぶようになっていました。

2026年、身近な言葉を届けたいという目標へ

2026年9月の『Spicy Sessions』の取材で、中西は、これから歌いたいものを、より具体的に言葉にしています。
聴く人にとって身に覚えがあるような、身近なことを歌いたい。
その方向へ踏み出す曲として選んだのが、あいみょんの「恋をしたから」でした。

2026年9月の「Spicy Sessions」で「恋をしたから」を歌う中西アルノ
2026年9月の「Spicy Sessions」で「恋をしたから」を歌う中西アルノ。
画像出典:画像掲載元

きっかけの一つは、前年の番組ライブを見たゴスペラーズの村上てつやから、歌詞がよく聴こえたと言ってもらったことでした。
本人は、その良さをもっと生かし、話しているようにさえ聴こえる歌にも取り組みたいと話しています。
この歌唱は、2026年9月の「Spicy Sessions with 辰巳ゆうと」で披露されました。

低い声と高い声を出すことに追われた「First Love」から、バンドと曲を進め、共演者の中で自分の声を選び、言葉を届ける歌へ。
中西アルノの変遷には、歌えるものを増やすと同時に、自分が何を歌いたいかを見つけてきた過程があります。
ソロ曲のフレーズのつなぎ方や、二人で歌う時の声の関係は、中西アルノの歌い方で掘り下げています。

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