オリヴァー・サイクス(Bring Me The Horizon)は、ファルセットやスクリームを、曲で伝えたい感情に合わせて選んでいます。
録音では、異なる質感の声を重ねる工夫もあります。
本人と制作側が語った具体的な曲から、声の使い分けを見ていきます。
Bring Me The Horizon「Doomed」公式音源(2015年の原盤、2020年投稿)。
「Doomed」は、柔らかな裏声と言葉の暗さを組み合わせる
「Doomed」について、オリヴァーは、曲名を歌う部分にファルセットを使った意図を説明しています。
ファルセットは裏声を指す言葉です。
絶望を示す言葉を、あえて柔らかな声で歌うことで、暗い気持ちの中に高揚も混ざるような感覚を表したかったと話しています。
ここでは、声の柔らかさが言葉の意味にも関わっています。
本人にとっては、怒りや切迫感に加え、複雑な感情を届けるための声の選択でした。
「Doomed」の大きな響きは、録音でも作られている
一方、完成した音源の声の大きさや厚みには、録音後の作業も関わっています。
Nail The Mixが公開したダン・ランカスターの制作解説では、「Doomed」の主旋律の声と、ジョーダン・フィッシュによるコーラスを分けて扱っています。
耳に届く歌の層には、オリヴァー以外の歌声も含まれるのです。
主旋律の声には、コンプレッションによって音量の変動を抑え、伴奏の中でも前に出るようにする処理が紹介されています。
さらに、歪みを加えて質感を整える工程もあります。
歌手が出した声を土台に、どのくらい輪郭を強め、楽器とどうなじませるかを考えているわけです。
長く伸ばす音のあるシンプルな旋律だから、深い残響や音の反復を置く余地もあるというのが、この解説の着眼点です。
細かい音が絶えず動く旋律と、ひとつの音を保つ旋律では、周囲に重ねられる響きも違います。
声の伸ばし方と、録音で作る空間の広がりが関係しています。
裏声のハーモニーにも、その部分に合う残響を個別に設定しています。
すべての声を同じ響きにまとめるのでなく、主旋律を支える声には別の空間を与える考え方です。
「Doomed」の柔らかさや広がりを考える際には、本人が選んだ裏声と、こうした録音の組み立てを合わせて見る必要があります。
「Happy Song」は、平板な声からスクリームへ移る
「Happy Song」では、皮肉を歌い方にも込めています。
本人は、表面的な気晴らしを描く言葉を、平板に聞こえるように歌い、そこからスクリームへ噴き出すように進めることが大切だったと説明しています。
Bring Me The Horizon「Happy Song」公式音源(2015年)。
声の表情を抑える部分があるからこそ、そこから激しい声へ移る選択にも意味があります。
全体を同じ勢いで歌うのでは伝えにくかった感情を、声の落差でも表そうとしていたのです。
激ロックの取材では、この曲のチアリーダーを思わせる声も、表面的に感じられることを狙って入れたと説明しています。
周囲のにぎやかな声と、本人の平板な歌い方を別々に見ると、同じ曲の中に異なる感情の層があることが分かります。
曲名の明るさを、そのまま楽しげな歌声に置き換えてはいないのです。
本人はこのアルバムで、各曲のメッセージを以前より分かりやすく、多くの人へ届くものにしようとしたとも話しています。
言葉の内容が伝わることを重視しているからこそ、皮肉を含む平板な声と、感情が噴き出す声の使い分けにも具体的な狙いがあります。

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「Kool-Aid」は、歪んだ声とクリアな声、裏声を重ねる
「Kool-Aid」の制作を取り上げた対談で、ダン・ランカスターは、歪みの強いスクリーム、よりクリアな声、バックボーカルにある柔らかなファルセットを説明しています。
ダン自身の歌声も、一部に含まれていると明かしていました。
Bring Me The Horizon「Kool-Aid」公式MV(2024年)。
オリヴァーも、ダンと制作する中でファルセットへ取り組む機会が増えた一方、声を行き来させることには難しさがあると話しています。
完成した録音には、歌い方を切り替える工夫と、複数の声を組み合わせる工夫が重なっています。
ステージでは、声を切り替えながら一曲をつなぐ
録音で重ねた歌を、ライブでどう届けるかも大きな課題になります。
2014年のThe Independentの取材では、初期の激しい曲と新しいメロディのある曲を演奏するため、声の切り替えを踏まえて本人がセットリストを考えていることが紹介されていました。
一曲の中でも、低い唸り声やスクリームから、旋律を歌う声へ移る場合があります。
当時のオリヴァーは、メロディを歌うことはまだ難しく、緊張も伴うと話していました。
強烈な声を自在に使う印象のある人でも、別の歌い方には別の難しさを感じていたのです。
この発言からは、声を出せることに加え、公演の流れの中でその声を使えるようにする課題が見えてきます。
同じ取材で「Drown」は、自分たちなりのアリーナで歌うアンセムを目指した曲だと説明しています。
会場の規模を想像し、そこで共有できる歌を作ろうとした選択でした。
録音した声の強さだけでなく、客席へ届く旋律をどう用意するかも、歌唱を考えるうえで欠かせない点です。
2024年のTape Notesでも、まず録音で求める歌を形にし、その後に自分が歌えるよう努力する、という制作への姿勢を語っています。
この順番には、今できることを足場にしながら、作った曲に自分の歌を近づけていく考え方があります。
新しい声の表現を作品に取り入れることと、それを自分の歌として身につけることを、往復してきた人なのです。
デビュー作の一部では、インヘイルも使っていた
2026年に「Pray For Plagues」を録り直した際には、昔の声の出し方を思い出す過程もありました。
本人がこのデビュー作の一部で使っていたと説明しているのが、息を吸いながら声を出すインヘイルという方法です。
Bring Me The Horizon「Pray For Plagues」2026 Repented版の公式リリックビデオ。
ここで本人が説明しているのは、原盤の一部に使った、特定の声の出し方です。
初期の歌がすべて同じ方法だったという意味ではありません。
裏声やメロディのある歌を増やした後にも、昔の録音に必要だった声を思い出しているところに、再録ならではの難しさがあります。
「Doomed」では言葉との対比に、「Happy Song」では平板な声からの変化に意味を持たせる。
「Kool-Aid」では複数の声を重ね、初期曲の再録では当時の方法にも立ち返る。
同じ激しさという言葉でまとめず、どの場面にどんな声を置くかを追うと、それぞれの工夫が見えてきます。
柔らかな裏声、平板な声、歪んだスクリーム、そして録音で組み合わせる声。
本人と制作側の説明から見えてくるのは、伝えたい感情に合う声を選び、曲の形に仕上げていく歌い方です。
こうした声の選択を広げてきた経緯は、オリヴァー・サイクスの歌唱変遷でたどれます。

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