「Just Pretend」のサビで、Bad Omensのボーカリスト、ノア・セバスチャンが誇りに思っているのは、高音への素早い裏声の切り替えや、特定の言葉の終わりに入るビブラートでした。
本人は、その細部が自然に出てきたと話しています。
声をどう使い分け、言葉の終わりをどう歌うのか。
本人が語った録音時の感覚と、アルバム表題曲での声の使い分けから、その歌い方を考えます。
「Just Pretend」のMV(2023年公開/音源は2022年の『THE DEATH OF PEACE OF MIND』収録)。
「Just Pretend」は、高音の切り替えと語尾の揺れまでが歌になる
2023年の「Rock Sound」の取材で、ノアは、2022年作『THE DEATH OF PEACE OF MIND』に収録された「Just Pretend」のサビを、自分にとても自然に感じられるメロディだと話しています。
具体的に挙げたのが、高い音で素早くファルセットへ切り替わることと、特定の言葉の終わりでビブラートがかかることでした。
高音へ移るところと、言葉を閉じるところの両方に、声の細部があります。
ノアは、こうした細部が自然に出てくる歌のテークに、感情の伝わりやすさを感じていたのです。
同じ取材で、ノアはサビへ早く入る構成にも触れています。
声の切り替えや語尾の揺れを、曲の早い段階から聴かせる形です。
さらに、カントリーやインディーポップとしても成立し得る曲だと話していました。
バンドの重い音だけでなく、旋律自体にも力を感じていたのでしょう。
表題曲では、息を交えた声からスクリームへ広げる
アルバムの表題曲「THE DEATH OF PEACE OF MIND」では、また別の声の幅が使われています。
レーベルのSumerian Recordsによる楽曲紹介は、息を交えた声やささやくような声から、印象的なフックへ進み、クライマックスのスクリームへ至る流れを説明しています。
「THE DEATH OF PEACE OF MIND」のMV(2021年公開/音源は2022年の同名アルバム収録)。
ここでの強弱は、声量の変化だけでなく、声の質感の変化とも結びついています。
息を感じさせる声、旋律を歌う声、終盤の荒々しい声。
曲の中で、その役割を移していく構成です。
2025年のシングル「Dying To Love」でも、「Kerrang!」のLuke Mortonは、輝きのある歌声と荒い声を行き来する点に注目していました。
柔らかい声か激しい声かを一曲ごとに選び切るのではなく、曲の中で両方を使う。
表題曲で見られる質感の振れ幅は、別の作品の聴きどころとしても取り上げられています。
録音を自分で扱えることが、声を試す土台になる
ノアが歌の表情を探す際には、制作環境も関係しています。
2024年公開の「Kerrang!」のインタビューで振り返ったのは、人前で歌やスクリームを試すことに不安があった時期です。
そのため、先に録音や制作の方法を学び、自分で音楽を形にできる環境を整えたと説明していました。
専門のスタジオを借りられる時間に縛られず、自分のペースで音を作りたいという考えもあったそうです。
歌うことと録音することが別々の担当になるのではなく、どんな声になったかを自分で確かめる作業まで、制作の中にあります。
「Just Pretend」で本人が話す、自然に感じられる歌のテークへのこだわりも、こうした歌手兼制作者という立場から捉えられます。
一方で、録音した声の幅をライブで扱うのは、また別の難しさがあります。
同じ取材でノアは、当時の演奏には強弱やスタイル、技法の大きな違いがあり、難しいと認めていました。
その演奏に責任を持つために、生活や心身の状態を整えることも重視しているという説明です。
音源で多彩な声を作ることと、それを舞台で使うための準備を、並行して考えています。

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歌の感情に入ることと、そこから戻ること
柔らかい声から荒い声へ変わるとき、表現する感情も動きます。
2022年の「Rock Sound」のインタビューでノアは、聴き手にある感情を伝えるには、自分もその心の状態にいる必要があると話していました。
歌や演奏への入り込み方を、役者の仕事にたとえて説明しています。
ただし、曲の感情を抱え続けたいという話ではありません。
必要なときにその状態へ入り、録音や公演が終われば、普段の自分へ戻れるようになりたいという考えでした。
歌の中で強い感情を出すことと、日常でも同じ状態に居続けることを分けようとしていたのです。
声の揺れやスクリームも、感情を伝える場面の一部です。
どれだけ激しい音を出せるかだけを追うより、その言葉を歌うときの心情を一緒に考えると、声の選び方が見えてきます。
ノア自身の説明からも、声の技法と歌の気持ちを切り離していないことがわかります。
同じインタビューで、対バン相手のBeartoothと比べた際には、自分たちのライブの始まりを、暗く、ゆっくりと、柔らかいものとして説明していました。
相手の激しい始まり方を高く評価しながらも、それをそのまま目指すわけではない。
舞台の入口からどんな空気をつくるかにも、Bad Omensの声の使い方が表れています。
「V.A.N」では、求める声をポピーに託す
声の選択という点では、2024年の「V.A.N」も興味深い例です。
この曲の歌唱を担うのはポピーで、ノアとのデュエット曲ではありません。
同年の「Rock Sound」の対談でノアは、初期段階には自分で一部の参考ボーカルを録っていたと話しています。
目指していたのは、AIや人間ではない存在のように感じられる声でした。
『Portal』のGLaDOSというキャラクターの声にも着想を得ており、歌い方や言葉のリズムが頭に浮かんだ段階で、ポピーが適任だと思ったそうです。
自分で試した歌を完成させる過程で、別の歌い手の声を選んでいます。
ポピーによると、録音は二人が一緒に取り組む形でした。
ノアが目指すものを具体的に持っていたため、その場でやり取りできたことが制作に役立ったと説明しています。
声の質感や言葉の運びを、曲の人物像に合わせて考える。
「V.A.N」は、ノア自身の歌唱技法の実演ではありませんが、彼が歌を作る際に何を聴き分け、選んでいるかを知る材料になります。
「Just Pretend」では、高音でのファルセットと語尾のビブラート。
表題曲では、息を交えた声からスクリームへ広がる流れ。
ノア・セバスチャンは、曲に合わせて声の表情を変え、高い音や言葉の終わりに細かな動きをつけています。
自分の自然な声に自信を持ち、その持ち味を作品に生かすまでの過程は、ノア・セバスチャン(Bad Omens)の歌唱変遷でたどっています。

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