ノア・セバスチャン(Bad Omens)の歌声の変遷|ざらつきを作る声から、自然な裏声を生かす歌へ

Bad Omens(ノア・セバスチャンは左から2人目/2023年の「Louder」掲載写真) シンガー
Bad Omens(ノア・セバスチャンは左から2人目/2023年の「Louder」掲載写真)

Bad Omensのノア・セバスチャンは、2022年作『THE DEATH OF PEACE OF MIND』を、誰もが最初に聴く自分たちの作品にしたかったと話しています。
そこには、作りたい音楽の形をつかめたという実感がありました。

歌にも、大きな変化があります。
以前は他の歌い手のようなざらつきを出そうとしていたノアが、自分に自然な裏声やビブラートを、曲の聴きどころとして使うようになったのです。
そのきっかけと、声から音楽を組み立てるようになるまでをたどります。

デラックス盤の制作期に、自分の声へ耳を向ける

2019年の『Finding God Before God Finds Me』には、翌2020年、3曲を加えたデラックス盤が発表されています。
「Never Know」「Limits」と、デュラン・デュランのカバー「Come Undone」を収めた版です。
ノアが歌への自信を得るきっかけとして挙げたのは、この版を出した時期の経験でした。

2022年の取材で、ノアは、以前は声をざらつかせようと無理をし、他人の歌声をまねることに力を使いすぎていたと振り返っています。
ともに仕事をしたプロデューサーで友人のエリック・ロンが後押ししたのは、ノア自身の声への自信でした。
本来の声がどう響くのかに向き合ううち、それを使うことが心地よくなり、自信も増していったそうです。

自分の声を聴きながら、よいと思える部分を増やしていく。
誰かに似せることへ向かっていた意識が、自分の声に何があるかを探す方へ動いた時期だったといえます。

Bad Omens(ノア・セバスチャンは左から3人目/2020年のBPM掲載写真)。
Bad Omens(ノア・セバスチャンは左から3人目/2020年のBPM掲載写真)。
画像出典:BPM

自然な裏声とビブラートが、耳を引きつけるフックになる

では、本人は自分の声のどこに可能性を見つけたのでしょうか。
2023年の取材では、その中身を具体的に話しています。
自分の声を気に入るようになり、自然に歌う方向を進めると、ファルセットやビブラートにも、得意な部分があると気づいたといいます。

そこで名前を挙げたのが、ポスト・マローンやザ・ウィークエンドでした。
前者のようなビブラート、後者のようなファルセットが、自分にもある。
それらを、耳を引きつけるフックとして捉えていました。
かつて他人の声へ近づこうとしていたノアが、ここでは好きな歌手を手がかりに、自分が持っている表情を見つけています。

同じ取材で、初めの2枚は、何をするべきかを気にしすぎていたとも話しています。
新作では、曲を重くする決まりに従うより、自分たちがしたいことを選ぶ自信を持てた。
歌手として自分を受け入れることと、作曲家として選択を広げることが、並んで進んでいました。

歌のテークの細部から、2022年作の音を組み立てる

パンデミック中にも、ノアは自分の声をもっとよくしたいと考えていました。
2023年の取材によると、歌でできることが増えたため、『THE DEATH OF PEACE OF MIND』は、声を中心とする作品になったといいます。
歌のテークに含まれる細かなニュアンス、歌詞、その声で届けられる感情をもとに、周囲の音を組み立てたという説明でした。

表題曲の出発点には、意外な実験もありました。
レーベルの紹介によると、ノアは、家にある楽器以外の物の音を録り、それを材料に曲を作ろうとしています。
その試みが、表題曲の土台になりました。
録音した身近な音や、自分の声の細部を、曲を始める材料にできる環境があったのです。

「THE DEATH OF PEACE OF MIND」のMV(2021年公開/音源は2022年の同名アルバム収録)。

冗談から始まった「Just Pretend」に、残したいサビがあった

一方、「Just Pretend」の最初のデモは、2019年1月に作られています。
ラジオで流れる曲を求められる状況に対し、ノアが冗談交じりに作ったロック曲でした。
デモでは、わざと大げさに威勢をつけた歌い方までしていたと話しています。

ところが、サビには残したいものがありました。
そこから作業を続け、Bad Omensの曲として発表できる形へ変えていったのです。
冗談のために置いた声と、作品として残す歌を、制作の途中で選び直していたことになります。
そうして、2022年のアルバムに収める歌へと仕上げていきました。

「Just Pretend」のMV(2023年公開/音源は2022年の『THE DEATH OF PEACE OF MIND』収録)。

柔らかな声の広がりは、聴き手にどう届いたか

こうした選択を、聴き手はどう受け止めたのでしょうか。
アルバムを扱ったNightfireのレビューは、「bad decisions」で伴奏が控えめになることで、ノアの低い声が引き立つ点を評価しています。
さらに、その次の「Just Pretend」では、柔らかな声からサビへ進む歌に、強く心を動かされたと書いていました。
高い声や荒い声に加え、低い声、静かな歌い出しも、聴きどころになっています。

「bad decisions」(2022年)のアルバム音源。

一方、The SoundboardのLuke Nuttallは、息を含む柔らかな歌い方が長く続くと、アルバムの勢いが弱まると批判しています。
声の新しさだけでなく、その声をどれだけ続け、どんな曲順で聴かせるかも、評価を分けていました。

Bad Omens(ノア・セバスチャンは右端/2023年の「NME」掲載写真)
Bad Omens(ノア・セバスチャンは右端/2023年の「NME」掲載写真)。
画像出典:画像掲載元

他人に似た荒さを作ろうとしていた時期から、自分の声の得意な表情を知り、それを曲作りの中心へ置く。
ノアの変化は、自然に歌えることが増えると、作りたい音楽の選択肢も増えるという歩みでした。
2022年作を入口にしてほしいという言葉にも、そこで見つけた制作への手応えが表れています。
「Just Pretend」の裏声への切り替えや語尾の揺らし方は、ノア・セバスチャン(Bad Omens)の歌い方で詳しく取り上げています。

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