2021年の「To the Hellfire」で強烈な叫びが注目されたウィル・ラモスは、翌年、その一部分だけでバンドを語られたくないと話していました。
彼が届けたかったものには、悲しみやメロディもあったのです。
高い叫びをつかみ、自分の録音を聴き直してきた歌手が、どんな感情をその声に乗せるかを考える。
2025年にはクリーンな歌を客演で提案し、その学びがスクリームにもつながったと語っています。
声の出し方を探すところから、その声で聴き手と何を分かち合うかへ、関心が広がっていく歩みです。
『…And I Return to Nothingness』(2021年)収録の「To the Hellfire」のミュージックビデオ。
苦手だった高い叫びと、自分の声を確かめる場所
2021年の取材でラモスは、低音には慣れていた一方、高い叫びには苦労したと振り返っています。
知っている方法で高い声まで出そうとして、痛みを感じることもありました。
転機になったのは、マイクを使わない高い声の実演映像でした。
それを聴いて求めていた音が分かり、車の中で試すと出せたといいます。
すでに自分も出したことのある音を、欲しかった声として認識できた経験でした。
Awake In Providenceにいた頃に用意した自宅スタジオも、声を確かめる場所になりました。
一人なら人の評価を気にせず歌え、録音をすぐ聴き直せる。
車内では気づけなかった響きを知り、目指す音と自分の声を比べられる環境です。
声を出す感覚に加えて、録られた音を自分で確かめることが、試行錯誤を支えていました。

画像出典:画像掲載元
2022年の『Pain Remains』で、悲しみまで届けようとする
「To the Hellfire」の終盤の声が大きな反響を呼んだ後、同じような決め手をまた作らなければという圧力もありました。
2022年の取材で、ラモスはそのことを部分的には認めています。
ただ、その一場面がバンドのすべてになることは望んでいませんでした。
同年の『Pain Remains』で話していたのは、メロディと悲しみのあるデスコアを聴きたい、という思いです。
周囲から明るい人だと思われ、自分でもそう感じていても、本人は悲しい音楽が好きでした。
心に語りかけ、聴いた後にも残るものを感じていたそうです。
アルバム終盤の「Pain Remains I–III」は、現実から逃れようとした人物が夢の世界を作り、そこで恋をし、やがて現実へ戻る物語の結末にあたります。
強烈な声で驚かせる瞬間に、悲しみの感情や物語の流れも加えていく。
その方向を、ラモス自身が目指していたことが分かります。
取材では、似た強烈な場面は新作にもあると話しながら、それだけを自分たちの個性にしたいわけではないとも説明しました。
「To the Hellfire」で知られた声を持つ歌手が、その声で扱える感情の幅を広げようとしていたのです。
Pain Remains I: Dancing Like Flames — 2022年の三部作の第1曲のミュージックビデオ。
「Atonement」では、クリーンな歌を自分から提案
2025年、Employed To Serveの『Fallen Star』収録曲「Atonement」にラモスが参加します。
共演側は、デモの段階から彼の声に合うパートを書いていました。
曲を渡す時にはアイデアを伝えつつ、彼自身のやり方に任せたそうです。
その中で、クリーンに歌う案を出したのはラモスでした。
求められた声を歌うだけでなく、自分の持つ別の表情を曲に加える提案です。
叫びで知られる歌手の客演に、メロディを明瞭な声で届ける選択が入りました。
ジョージ・ミラーのアルバム評も、この曲のクリーンな声を、激しい声に劣らない魅力として取り上げています。
本人の提案が、共演曲を聴く人にも別の声の魅力を伝えました。
Employed To Serve『Fallen Star』(2025年)収録、ウィル・ラモスが参加した「Atonement」のミュージックビデオ。
同年9月、ラモスは、最近クリーンに歌うことをより多く学んでいると話しています。
その経験が、想像していた以上に多くのスクリームの出し方を知る助けになったというのです。
本人にとって、歌うことと叫ぶことの学びは、互いにつながっていました。
長年ほかの歌手に刺激を受け、声を試してきた中で、一つの音が出せれば、それをさらに発展させられると考えていました。
以前の高い叫びの発見にも、クリーンな歌への取り組みにも、知った声を次の表現へつなげる姿勢が通っています。
「Atonement」は、その選択肢を実際の共演に持ち込んだ一例です。
驚かせる一瞬から、客席が一緒に感じられる歌へ
2025年の『I Feel the Everblack Festering Within Me』では、聴き手と共有したい感情も広がっていきます。
取材でラモスは、怒りや悲しみを持つバンドという枠を超え、さまざまな感情を捉えたいと話しました。
困難を乗り越えることを歌う「Unbreakable」も、その方向にある曲です。
本人はこの曲を、人々を一つにし、どんなことが起きても折れないと感じられる瞬間のために書いたと説明しています。
この考えの背景には、Parkway Driveらとのツアーで見た客席があります。
一つの強烈な場面を撮ろうと待つ観客の姿に対し、会場全体がその時の音楽を感じ、体を動かしている光景が印象に残っていました。
自分たちも、演奏している音楽そのものに人が引かれるようになってほしい。
声を受け取る相手の姿が、表現を考える手がかりになっていたのです。
Unbreakable — 『I Feel the Everblack Festering Within Me』(2025年)のミュージックビデオ。

画像出典:Radiofreccia
声の選択にも、その広がりが表れます。
2026年1月に前年のアルバムを振り返った取材では、音程のあるスクリームを多く取り入れ、感情を強めようとしたと説明しています。
本人によれば、以前のLorna Shoreの曲には使っていなかった表現でした。
クリーンな歌へ一気に移るのではなく、歌うことを学ぶ中から、叫びに音程を持たせる形が自然に生まれています。
高い叫びを出せた時の発見、自分の録音から得た気づき、悲しい音楽への思い、そしてクリーンな声の学び。
その一つひとつが、ラモスの表現を増やしてきました。
「To the Hellfire」の強烈な声から歩みをたどると、同じ声で人を驚かせるだけでなく、一緒に悲しみ、前へ進む気持ちまで届けようとする歌手の姿が見えてきます。
息の使い分けや、言葉の終わりに残す声、録音での選択は、ウィル・ラモス(Lorna Shore)の歌い方で詳しく取り上げています。

こちらの記事もおすすめ

「Atonement」でクリーンな声を提案した共演も取り上げます。

コートニーが語った歌唱の選択と録音の考え方をたどります。

オリヴァー・サイクスの歌唱の変化を、本人と制作側の証言からたどります。



コメント