ジェイムズ・ヘットフィールドの歌い方|強い声を、リズムと温かさで使い分ける

ジェイムズ・ヘットフィールド シンガー
ジェイムズ・ヘットフィールド

ジェイムズ・ヘットフィールドの歌を考えるとき、声の強さだけでなく、その声が曲のどこに置かれているかに注目すると面白くなります。
ギターとは違うリズムで言葉を進める場面もあれば、温かい響きへ向かう旋律もあり、重ねた声が迫力を作る録音もあります。
本人と制作側の言葉から、Metallicaの曲ごとに選ばれた歌い方を見ていきましょう。

「The Unforgiven」— MV(1991年)

ギターと同じリズムで歌っているとは限らない

歌いながら激しいギターを弾く姿を見ると、歌と手の動きがいつも一緒に進んでいるように感じるかもしれません。
しかし本人は、2009年に「My Apocalypse」を、ギターと歌のリズムが逆向きに動く難しい例として挙げています。
「That Was Just Your Life」でも、歌う言葉と、その下で弾くギターの関係に苦労したと話しています。

本人が説明する取り組み方は、速度を落とし、どの手の動きにどの言葉が重なるのかを確かめることでした。
ただ勢いを増せば二つが合うわけではありません。
声が出る時点とギターを弾く時点を整理したうえで、一つの演奏にしているのです。

「My Apocalypse」—『Death Magnetic』収録音源(2008年)

楽器の一音ごとに言葉を当てるのか、違う長さでフレーズを進めるのか。
ジェイムズは、その関係をギターと歌の両方から組み立てています。

両方を同時に演奏するとき、すべての場面で同じように意識を配るわけでもありません。
本人は1991年、曲の適切な場所で、どちらかの役割により集中すると説明しています。
二つの動きを練習で結びつけ、曲の中では必要なほうへ意識を向ける。
歌とギターを兼ねる本人の言葉から、舞台上の余裕を支える工夫が見えてきます。

2009年1月17日、フィラデルフィア公演のジェイムズ・ヘットフィールド
2009年1月17日、フィラデルフィア公演のジェイムズ・ヘットフィールド。
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「The Unforgiven」で求めた、温かく大きな声

『ブラック・アルバム』を制作したボブ・ロックは、「The Unforgiven」でジェイムズが目指した声を説明しています。
きっかけの一つは、クリス・アイザックの「Wicked Game」でした。
それまで多く叫んできた本人が、温かく大きな声で歌うことにも関心を向けていた、といいます。

ここでいう温かさは、単に小声にすることとは違います。
ロックの説明では、大きさや深みも一緒に求められていました。
激しい曲を歌う人が、存在感を保ちながら旋律を届ける、別の響きを選ぼうとしていたのです。

曲の構造にも、その選択を考える手掛かりがあります。
カーク・ハメットは「The Unforgiven」について、重いヴァースに対してサビを軽くし、従来のバラードの展開を逆にした曲だと説明しています。
サビへ入ったらすべてをさらに強くする、という作りではありません。
伴奏の質感が変わる場所で、歌が何を受け持つかを考えると、この曲の旋律の役割を捉えやすくなります。

温かい声と大きな存在感を両立させるという視点が、この曲を理解する助けになります。

高い声と、重ねた声の効果を分ける

「Welcome Home (Sanitarium)」のサビでは、主旋律と、その上の高いハーモニーに役割が分かれています。
録音の高揚感を、主旋律一つの高さだと思わないことが大切です。

「Welcome Home (Sanitarium)」— 1986年作品のリマスター音源

この区別は、「Moth Into Flame」の録音でも役立ちます。
制作を担当したグレッグ・フィデルマンによると、この曲には主となる歌に加えて、同じ旋律を重ねた声があり、押し出す力や攻撃性を増す役割を担っていました。
さらにバックの声には音色を変える加工を施し、一人が歌っている印象を薄めています。

「Moth Into Flame」— MV(2016年)

別の高さで支える声と、同じ旋律を厚くする声。
二つの録音例を分けて考えると、一つの巨大な声に感じられる迫力にも、違う作り方があると分かります。

『Hardwired... To Self-Destruct』制作時のメンバーとグレッグ・フィデルマン(左から2人目がジェイムズ・ヘットフィールド)
『Hardwired… To Self-Destruct』制作時のメンバーとグレッグ・フィデルマン(左から2人目がジェイムズ・ヘットフィールド)。
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ざらついた音を、すべて喉の使い方で説明しない

『Load』の「Poor Twisted Me」では、本人がハーモニカ用のマイクを使って声を歪ませたと説明しています。
聞こえる粗さには、歌い方だけでなく、録音する道具の性格も関わっていました。
音源のざらつきから、本人の喉で何が起きているかをそのまま決めることはできません。

「Poor Twisted Me」— 1996年作品の2025年リマスター音源

一方、『Hardwired… To Self-Destruct』の制作では、歌唱に応じてマイクも選ばれていました。
フィデルマンは、多くの力強い歌にはShure SM7を使い、静かな歌の一部には別のマイクを選んだと説明しています。

声の選択と録音の選択は、このように結びついています。

曲ごとに声の性格を変える

本人は2016年、声域の広さだけでよい歌手が決まるわけではない、という考えも話しています。
高い音へ届くことと、魅力的に歌うことを分けて考えていたのです。

『72 Seasons』では、どの曲も同じように聞こえてしまわないよう、歌い方を変えて各曲に個性を与えようとした、とジェイムズは話しています。
「You Must Burn!」には幽霊を思わせる詠唱のような不気味さを、「Crown of Barbed Wire」には気だるいグラム風の表情を感じ取れます。
声が作る印象の違いに耳を向けると、本人が目指した曲ごとの差も捉えやすくなります。

「You Must Burn!」— MV(2023年)

「Crown of Barbed Wire」— MV(2023年)

声の強さを保ったままでも、言葉をどんな調子で届けるかには選択の余地があります。
それを確かめるときは、高い音が出るかという問いに加えて、旋律をどう進めるか、ギターとどう組み合うか、どんな響きを前に出すかにも耳を向けたいところです。

ジェイムズの歌い方には、力強い声を一種類の使い方に閉じ込めない面白さがあります。
同じ曲の歌とギターの関係、主となる声と重ね声の関係を意識すると、迫力の中にある選択が見えてきます。
そうした選び方が時代ごとにどう変わったかは、ジェイムズ・ヘットフィールド(Metallica)の歌唱変遷でたどっています。

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