鈴木愛奈の歌唱変遷|「果てのない旅」で見つけた、ぽつりと語る声

「果てのない旅」について語る2024年2月公開の取材に掲載された鈴木愛奈 シンガー
「果てのない旅」について語る2024年2月公開の取材に掲載された鈴木愛奈

鈴木愛奈が「果てのない旅」を受け取ったとき、浮かんだのは、これを自分が歌いこなせるのだろうかという不安だった。
完成度の高い仮歌を前に、得意な節回しや力強さをそのまま当てはめればよいとは思えなかったという。
2024年に発表されたこの曲で見つけたのは、台詞のように言葉をぽつぽつと置く歌だった。
ソロ活動では、民謡で育てた声を武器にするだけでなく、舞台で吐息を加え、録音では揺れや発音を抑える試みも重ねている。
鈴木が自分らしい声を、曲ごとに選び直してきた過程をたどる。

民謡で育った声を、自分の武器として受け止めるまで

歌のルーツを聞かれた鈴木愛奈は、幼い頃から歌が得意だったとは語っていない。
小学校に上がる前は音階をうまく歌えず、両親が心配していたと振り返る。
先に民謡を習い始めた妹と一緒に、小学1年生から教室へ通うようになった。
そこから少しずつ大会で賞を取り、小学6年生では全道優勝まで進んだという。

民謡は、歌手になってから加えた得意技ではなく、歌うことを覚える土台だった。
歌にこぶしが入っていると周りから言われるまで、自分では独特の節回しを意識していなかったそうだ。
当たり前に出していた声が、他の歌手とは違う特徴として聞こえていた。
本人はその響きを、自分を知ってもらうための武器として受け止めていく。

声の個性への迷いは、声優を目指す過程にもあった。
中学生の頃には、自分の声質では声優になれないと思い、歌に絞ろうとしていたという。
しかし事務所へ入った際、いろいろなキャラクターがいるからこそ個性的な声が必要だと励まされ、両方を目指すようになった。
ソロ活動へ持ち込んだ声には、長く育ててきた技術と、他の人に良さを教えられた経験が重なっている。

2020年、「ヒカリイロの歌」で楽曲の強さに向き合う

デビューアルバム『ring A ring』の2020年1月公開インタビューに掲載された鈴木愛奈
デビューアルバム『ring A ring』の2020年1月公開インタビューに掲載された鈴木愛奈。
画像出典:写真掲載元

2020年1月のデビューアルバム『ring A ring』で、鈴木がまず希望したのは、民謡の節回しを生かせる和の楽曲だった。
ただ、アルバム全体をその方向へそろえるつもりではなかった。
いろいろなジャンルを歌い、どんな曲が自分に合うのか、ファンの反応も受け取りながら見つけたいと考えていた。

収録曲「ヒカリイロの歌」は、TVアニメ『はてな☆イリュージョン』のエンディング主題歌でもある。
作詞・作曲のZAQが歌った仮歌を聴き、楽曲そのものの大きなパワーを感じたという。
その強さに自分が負けてはいけないと、録音へ気合を入れて臨んだ。
難しい曲を渡されたことは、自分のまだ表に出ていない良さを引き出してもらう機会でもあった。

同年11月の「もっと高く」では、その自分らしさをどこまで出すかが課題になった。
アニメ『いわかける!』のオープニングとして、元気さや爽やかさを伝えたい。
普段どおりに民謡的な要素を入れると、それを損なうかもしれないと考えたそうだ。
しかし、まっすぐ歌うだけでは、自分が歌う意味も薄くなってしまう。
得意な節回しを持つからこそ、出す量を決める必要があった。

鈴木は普段、どういう気持ちで歌うかを準備してからスタジオへ行く。
その案をプロデューサーがどう受け取るかによって、現場でも変えていくという。
声優の仕事で得た歌い方の選択肢を試し、周りの反応も聞く。
デビューした年から、準備した正解をそのまま通すだけの録音ではなかった。

2021年の初ツアーでは、持ち歌にも違う表情を加えた

『ring A ring』の「Butterfly Effect」で、鈴木は、絶望していた人物が自分で道を切り開こうとする物語を思い描いていた。
デビューアルバムの制作時から、歌の中の人物の変化を細かく想像していた曲だ。

「Butterfly Effect」――『ring A ring』(2020年)・スタジオ音源

2021年の初ツアーでは、この曲で苦悩を伝えるため、吐息のような声を入れたという。
暗い場所から光へ向かってはい上がろうとする気持ちを届けるため、声だけでなく、指先や身ぶりにも意識が向いていた。

曲によっては、長い音をさらに伸ばしてみることもあったそうだ。
本人は、録音された形だけでは分からない魅力がライブで生まれる面白さを感じていた。
持ち歌を繰り返すことは、同じ歌い方を再現することだけではない。
すでに歌った曲でも、その場で伝えたい感情に合わせて、声を足したり変えたりしていた。
初日の横浜公演は、映像作品『Aina Suzuki 1st Live Tour ring A ring – Prologue to Light –』に収められている。

初ツアー(2021年)・ライブBlu-rayダイジェスト

2023年、「トワイライト・サイダー」では発音から考え直す

「Dash and Go!」発売時の2023年5月公開インタビューに掲載された鈴木愛奈
「Dash and Go!」発売時の2023年5月公開インタビューに掲載された鈴木愛奈。
画像出典:写真掲載元

2023年5月発売の「Dash and Go!」に収録された「トワイライト・サイダー」は、ブラスを取り入れた曲だった。
鈴木には、カフェやジャズバーで流れていそうな洒落た雰囲気に感じられたという。
好きな曲調でも、普段の歌い方がそのまま合うとは思えなかった。
そこで、この曲が似合いそうだと感じたシンガーの過去から近年までの歌を聴き、自分ならどう歌うかを研究した。

目指したのは、息を多めに混ぜ、母音を強く立てすぎず、子音を生かす歌だった。
「Butterfly Effect」のライブで吐息を加えたときは、苦しむ人物の気持ちを伝えるためだった。
今度は、曲全体に合う声を探す中で、発音のどこを目立たせるかまで変えている。
息を使うことにも、曲によって異なる狙いがある。

ところが録音では、一部をほかの箇所よりしっかり歌ってみるように指示された。
抜いた声だけで統一するより、違う強さを入れたほうが合う場所もあったのだ。
鈴木は、複数の歌い方を試して聴き比べ、自分の良さを残したまま、新しい表現へ進めたと振り返っている。
力を抜く歌を覚えたあとも、どこかには力を戻す。
一つの新しい歌い方に置き換えれば完成、というわけではなかった。

「Apocalypse Day」では、力強い歌にも引き算があった

同じ2023年12月の「Apocalypse Day」は、鈴木にとって本格的なメタルへの初挑戦だった。
好きな音楽ではあっても、どう歌えばよいかは別の問題だったという。
海外だけでなく日本の女性歌手も調べ、ビブラートを入れるか、柔らかく抜いた声から入るかなど、複数の案を準備した。

キーも、最初に届いたものを使うと決めていたわけではない。
少し高いと感じた鈴木は、下げるか、逆に上げて裏声を生かすかを考え、録音当日に判断することにした。
低くすれば歌いやすくなるというだけではなく、どんな声を使いたいかも考えていたのである。

録音で意外だったのは、引き算の指示が多かったことだ。
ギターのフレーズが多い場所では、ビブラートを付けず、まっすぐ伸ばしてからしぼませるように助言された。
本人の感覚では、いつもより強く声を出す歌になったという。
それでも、得意な揺れまで増やす必要はなかった。
激しい曲に向かうことと、歌のあらゆる要素を強めることは、同じではなかったのだ。

「果てのない旅」で、伸びやかさと語りかけを分ける

続く2024年1月に発売されたのが、TVアニメ『最弱テイマー』のオープニング主題歌「果てのない旅」だった。
ただし、録音は「Apocalypse Day」よりも先に行われている。
強い歌を経て静かな歌へ進んだという一本道ではなく、近い時期に違う声の使い方へ挑んでいたことになる。

鈴木は、それ以前にも、同じ夢見クジラが手がけた「isolation」で、透明感や神秘的な雰囲気に向き合っていた。
それでも「果てのない旅」は、同じ歌い方では曲の良さを生かせないと感じたそうだ。
仕事が立て込んだ時期で、普段ほど事前の研究や歌唱プランを練れなかったこともあり、現場での助言に応えられるよう臨んだ。
以前の経験も、準備も、そのまま答えになるとは限らなかった。

当初考えたのは、オペラやクラシックを思わせる、開けた感じの伸びやかな歌だった。
しかし録音で求められたのは、「オーガニックな感じ」。
鈴木はその感覚的な指示を、台詞を話すように言葉をぽつぽつと置く方法へつなげた。
静かな歌い始めやAメロ、Bメロ、終盤では自然な語りかけを目指し、サビでは伸びやかさや艶を生かしたという。

音を追うこと自体も簡単ではなかった。
本人によれば、テンポが速く、どのパートのメロディも難しく、何度も繰り返して録音している。
その中で目指したのは、歌の温かさだった。
自分が演じる主人公アイビーの心情を受け取りながらも、キャラクターソングとしてその声へ寄せるのではなく、鈴木愛奈の歌として表現した。

曲全体を一つの声で包まず、話しかける部分と、声を伸ばす部分を分ける。
完成した歌を通して、本人は、こういう曲にはこういう歌い方もできるのだと、新しい選択肢を見つけている。
2020年の「もっと高く」で、持ち味をどこまで出すかと迷ったことにも通じる選択だ。
節回しの量に加え、発音、声の揺れ、伸ばし方、言葉を置く間合いにも、その調整が表れている。

得意な声を、必要な場所で使えるように

鈴木愛奈の変遷は、力強い声が穏やかになったという一方向の話ではない。
ライブで吐息を加えたあとも、別の曲では発音から研究し直し、力強いメタルでもビブラートを控える場所を作った。
「果てのない旅」では、よく伸びる声を残しながら、言葉をぽつりと置く声も選んでいる。

得意な声があるから、それをどこで使うかが次の課題になる。
こぶしや強弱を一曲の中でどう配分するのかは、鈴木愛奈の歌い方で掘り下げている。
自分が歌いこなせるのかと不安になった曲にも、以前とは違う答えを探す。
そうして見つけた声が、強く伸ばす声と並んで、鈴木愛奈の歌の中に残っている。

シンガー人気投票。投票ページはこちら

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました