小倉唯の歌を、かわいい声という一言で覚えている人もいるでしょう。
けれど、ソロの出発点だった「Raise」は、本人にとっても意外な、力強さを求められる曲でした。
その声は、歌い続けるなかでどう変わったのでしょうか。
同じ曲の再録、ささやく歌、ラップへの挑戦をたどると、声に込める力の選び方が見えてきます。
2012〜2015年――力いっぱい向き合った「Raise」を歌い直す
2012年のソロデビュー曲「Raise」は、アニメ『カンピオーネ!』のエンディングテーマです。
小倉が思い描いたのは、仲間を守ろうとする強さでした。
腹部から声を出すようなイメージを持って歌ったと話しており、当時の自分には新しい、硬派な表現へ挑んでいます。
ただ、最初から最後まで勢いだけで押していたわけではありません。
Dメロでは、強さの内側にある優しさや希望も表したかったといいます。
一曲の中で、守る意志と人を思う気持ちを両立させる。
デビューの段階から、声のかわいさを見せることだけが課題ではなかったのです。
2015年のファーストアルバム『Strawberry JAM』では、この「Raise」を歌い直しました。
シングルの音源をそのまま収めたものではなく、アレンジにも手を加えた再録です。
本人が違いとして挙げたのは、歌うときの余裕でした。
約三年間、繰り返し歌ってきた曲だからこそ、最初の録音にはなかった感覚を入れられたのです。
同じ曲を歌い直すと、成長は高い音が出るかどうかだけには現れません。
覚えたての曲へ全力で向かう段階から、よく知る曲の中で表情を選ぶ段階へ。
二つの「Raise」は、その違いを考える出発点になります。
聴き比べる際には、2012年のシングル版と2015年のアルバム版を分けて探したいところです。

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2018〜2019年――力を抜くことを覚え、強さを磨く
2018年の「白く咲く花」の頃、小倉は、以前は力を抜くことをよくないことだと思っていたと振り返っています。
大学卒業の時期に、自分自身へ向き合った、タイアップのないシングルでした。
大学生活のなかで得たのは、少し緩めることで、演技や表現が自然に出てくるという感覚でした。
手を抜くことと、余分な力を抜くことは違う。
歌にも、自分を張り詰めさせる以外の向き合い方が生まれていました。
翌2019年の「Destiny」では、その変化が力強い曲の中にも現れます。
速いテンポや英語のサビに、最初は完成した歌の姿をつかめなかったそうです。
それでも、録音を重ねるうちに感覚が定まっていきました。
そこで目指したのは、がむしゃらに押し切る強さではありません。
柔らかさを残しながら、芯のある歌にすることでした。
デビュー時から強い曲を歌っていた小倉が、強さの中身をより細かく選ぶようになる。
静かな歌へ移るだけが成熟ではなく、激しい曲への取り組み方も変わっていたのです。
2021年――ささやく声も、ラップも、自分から提案する
「Clear Morning」では、完成したトラックを受け取った小倉が、自分からウィスパーで歌う案を出しました。
曲の浮遊感に合う声を考えた結果です。
事前に細部まで歌い方を固定するより、頭の中のイメージを持ち、自然に言葉を置くことを大切にしました。
その最初のテイクが、本人にとってほぼ理想に近いものになりました。
どう歌えばよいか分からないまま試すのとは違い、欲しい声の姿が見えていたのです。
ささやき声は、表現の幅を広げる新しい選択になりました。
同じ年の「Fightin★Pose」では、初めてシングル表題曲にラップを取り入れます。
本人が望んだのは、メロディーや展開が次々と変わる、起伏のある曲でした。
ラップも、突然スタジオで任されたものではありません。
ガールズグループのラップを研究し、自分なりの流れを準備して録音へ持ち込んでいます。
ラップを入れたいという希望を持ち、その言葉の動きまで準備する。
声の新しい使い方を、実際の作品へつなげる経験になりました。
2022〜2024年――かわいさも、感情の荒さも、選べる表情に
2022年の『Tarte』は、初めてセルフプロデュースしたアルバムです。
その中の「CiaoCiao Afternoon」では、一つひとつの言葉を、できるだけかわいく届けようとしています。
歌い方だけでなく、ミックスで声を前に出すバランスにも意図がありました。
声が耳元へ届くような感覚まで、作品の設計に含まれていたのです。
表現の幅を広げることは、かわいい歌から離れることでもありません。
かわいさをどこまで押し出すのか、それをどんな距離で届けるのか。
慣れ親しんだ持ち味にも、新しい工夫を加えていました。
同年末の「Precious.」では、自分で強いメッセージを歌詞にする難しさにも向き合いました。
それまでの作詞では、かわいらしい曲へ言葉を合わせることが多かったため、かっこいいメロディーへ強めの言葉を置くのは新しい挑戦でした。
プロデューサーに向いていると言われ、自分にもこういう表現ができるのだと発見しています。
ただ、言葉を書けたら終わりではありません。
自作の歌詞を声にしたとき、どこまで説得力を持たせられるかは、自分にかかっている。
小倉は、このシングルをそう捉えていました。
歌手として歌う責任と、言葉を作る責任が重なり、強さを届ける意味も深まっています。

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2024年の『Bloomy』では、「Wind of Bloom」に一曲を通した歌入れを選びました。
普段のように区切って録音する方法を変え、物語の流れを保とうとしたのです。
一つのフレーズを仕上げるだけでなく、その前後を通って生まれる気持ちまで歌に残そうとしています。
一方、「センチメンタルメッセージ」には、感情を強く出す表現があります。
本人は、荒々しく感情をぶつけるように歌ったと話しています。
一曲の流れを保つ工夫と、感情を生々しく出す工夫。
アルバムの中で、歌い方の選択肢が広がっています。
2025〜2026年――難しい曲で、余裕を感じさせる
2025年の「So☆Lucky」でも、ラップは簡単な作業になったわけではありません。
本人は録音前に緊張していたものの、実際にはすぐにOKが出たと話しています。
曲全体も順調に進み、むしろ自分から追加のテイクを求めるほどでした。
新しい試みとして準備に時間をかけた2021年から、経験を持って次の曲へ入れる段階に来ています。
2026年の「Q.E.D.」では、そのラップや複雑な言葉の動きに、さらに別の課題が加わりました。
難しいことを懸命にこなす姿ではなく、相手を見通しているような余裕を感じさせることです。
小倉は録音で、少し距離を置いて状況を見るような視点と、小悪魔的なニュアンスを意識しました。
言葉数が多いところで明瞭に歌い、そこへ感情や表情も加える。
その難しさに向き合いながら、テイクを重ねるほど歌が磨かれる手応えを感じたといいます。
「Raise」で強さを出そうとした歌手が、今は、複雑な曲の中でどんな強さを見せるかまで選んでいるのです。
小倉唯の変遷は、かわいい声が大人の声に置き換わる一本道ではありません。
同じ声の持ち主が、曲を理解し、力の入れ方や言葉の置き方を選べるようになる過程です。
ささやき、裏声、ラップが一曲の中でどう働くのかは、小倉唯の歌い方で掘り下げます。







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