坂崎幸之助は、どんな声の歌手なのか。
一つの曲だけを例にすると、説明からこぼれてしまうものがあります。
どこまで高い声が出るかに加え、その声をどこへ置き、どんな雰囲気で歌うか。
THE ALFEEの歌を曲ごとにたどると、坂崎の声の選び方が見えてきます。
「自分の声」を一つに決めない歌手
坂崎は、声の方向を指定されることを窮屈には感じていません。
むしろ自由に歌うよう任されるより、リクエストがあるほうが歌いやすいと話しています。
2022年の『天地創造』では、四曲のリードを、それぞれ違う声で歌うことが求められました。
その歌入れについても、坂崎は難しさ以上に面白さを感じていました。
自分本来の声で、と言われるほうが悩むと冗談めかして話したほどです。
一つの響きをいつでも再現することより、曲が求める表情へ声を動かすことが得意なのでしょう。
そのため、ある一曲の柔らかさだけを覚えていると、別の曲では同じ人の声に思えない瞬間が生まれます。
下の声を支え、必要なら裏声で上へ回る
THE ALFEEの三声の基本は、桜井賢が真ん中、高見沢俊彦が上、坂崎が下という配置です。
ただし、高見沢が主旋律を歌うときには、坂崎が裏声で上のパートへ回り、桜井が下を受け持つこともあります。
坂崎の役割は、低い声の担当として固定されているわけではありません。
「タンポポの詩」は、さらに変則的な例です。
高見沢の主旋律がいちばん下にあり、その上へ二つのハーモニーが重なります。
主旋律が常にいちばん高い音にあると思って聴くと、三人の役割を見失ってしまう曲です。
ここでは、裏声は高い音を出すためだけのものではありません。
誰が歌の中心を担うかによって、坂崎が入る高さと声の使い方が変わる。
一人の声を追いかける楽しさに、声同士の位置関係を聴く楽しさが加わります。
声を合わせる力は、好きな音楽を細かく聴くところから
坂崎は若い頃、レコードに合わせて、特定のメンバーのパートを演奏していました。
GAROなら誰のパート、ビートルズなら誰のパート、と役割を決めて、その人が抜けたら自分が入るようなつもりで練習していたのです。
本人はこの習慣が、のちに先輩たちと演奏するときにも役立ったと振り返っています。
誰がどの音を受け持つのかを聴き分ける。
この習慣は、三人で声を合わせる坂崎の強みを理解する手がかりにもなります。
高見沢も、アマチュア時代の坂崎が、コピーする曲のコーラスを聴き取っていたと証言しています。
本人は、幼い頃からジョンとポールの声を聴いていたことや、身近に楽器があったことを振り返りました。
声だけを切り離さず、楽器とハーモニーの中で覚えてきた歌手なのです。
録音でも、コーラスが決まらなければ組み合わせを変え、別の日に歌い直すことがあります。
歌って試す作業から、三人の響きを選んでいるのです。

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「DOWNTOWN STREET」の裏声は、歌の表情を切り替える
裏声の使い方を考えるなら、「DOWNTOWN STREET」も興味深い例です。
この曲の歌唱は、忌野清志郎を思わせる歌い回しと、Bメロでの高い裏声の取り合わせが特徴として評されています。
一人の歌の中に、響きの違う声が置かれているのです。
コーラスの裏声が、仲間の上へ重なるための選択だとすれば、こちらはリードの表情を途中で変える選択です。
同じ「裏声」という言葉でも、歌の中で果たす役割は変わります。
坂崎の声を追う面白さは、高い音へ届くことに加えて、その切り替わりが曲の人物像や勢いをどう変えるかにあります。
「My Life Goes On」と「振動α」を同じ声で済ませない
高見沢が「My Life Goes On」を作る際に意識したのは、GAROへの敬意でした。
坂崎の心情にも寄り添う、得意な音楽の感覚を生かした曲として作られています。
優しさとハードさの両方を求めた『天地創造』の中で、声を一律に強く張ればよいわけではないことが分かる一曲です。
対して、同じアルバムの「振動α」も坂崎のリードです。
高見沢自身が驚いた二曲の違いを、坂崎はモードの切り替えとして説明しています。
音量の大小に加え、どんな表情で曲に入るかを選んでいるのでしょう。
二曲で、歌い出した人の印象がどう変わるでしょうか。
ギターと一緒に歌うとき、手放して歌うとき
「人間だから悲しいんだ」のライブでは、高見沢と坂崎のアコースティックギターが、歌を支える場面を作ります。
2023年のNHKホール公演では、二人が向かい合ってカウントし、演奏を始めました。
同じ日の「恋の炎」では、ハンドマイクで客席を煽っています。
2022年の夏のイベントの「Funky Cat」でも、ハンドマイクで中央のステージへ出て歌いました。
坂崎の歌を知るうえでは、この立ち位置の変化も見逃せません。
弾きながら歌う場面では楽器のリズムと一緒に歌を運び、マイクだけを持つ場面では身体ごと客席へ向かう。
同じ声の持ち主でも、歌を届ける姿は曲によって大きく変わるのです。
声と演奏上の役割を一緒に見ると、曲ごとの選択が立体的になります。
歌う場所によって、耳に届く音も変わります。
2017年の夏のイベントを振り返った際、坂崎は、センターステージでイヤモニを使うと、客席の声が入ってこなくなることを惜しんでいました。
一方、マイクを通さずアカペラで歌った「星空のディスタンス」では、客席のため息も聞こえていたと話しています。
自分たちの音を確かめることと、客席の反応を受け取ること。
ステージ上で歌う感覚は、その両方と結びついています。

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自分でもまだ知らない歌い方を、曲から引き出す
『君が生きる意味』の制作で、坂崎は高見沢の注文を受け、自分の中のどの歌い方を使うか探したと話しています。
その中には、これまで開けていなかった引き出しもありました。
長年歌ってきた本人にとっても、声の使い道がすべて決まっているわけではないのです。
坂崎はまた、高見沢の作品を、作曲者個人の気持ちを歌うものというより、三人で歌うために代表して書かれたものとして受け止めています。
注文に応えることは、他人の歌い方に自分を消して合わせることではありません。
自分の声を含む三人の歌を、どう成立させるかという共同作業なのです。
下のハーモニーから裏声へ、穏やかな歌から硬さのある声へ。
坂崎の個性は、どの曲でも同じ響きが出てくることより、曲が欲しがる声を探して差し出せるところにあります。
その選択が新しい作品へつながってきた過程は、坂崎幸之助の歌唱変遷でたどります。

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