半世紀近く一緒に歌ってきても、まだ知らない声が出てくる。
坂崎幸之助の近年の歌をたどると、そんな驚きがあります。
フォークを愛し、仲間と声を重ねてきた歌手が、一枚のアルバムで四つの声を求められ、さらに次の作品ではスタッフを戸惑わせる歌い方に挑む。
その歩みは、一つの声を完成させて守り続ける歴史とは少し違います。
身につけていた歌の引き出しが、新しい曲や高見沢俊彦の注文によって、別の使い道を与えられてきたのです。
とりわけ2015年以降には、その変化を具体的な制作の話から追うことができます。
出発点は、一人で目立つ声より、重なって面白くなる声
坂崎が子供の頃に惹かれたのは、ビートルズのように声を重ねるバンドでした。
中学生のときに手にしたフォークギター、そして1967年に出会ったザ・フォーク・クルセダーズの音楽も、その後の方向を決めていきます。
歌とギターを別々の技術として覚えるより、好きなレコードの中へ入っていくような音楽の学び方でした。
高見沢と出会ったときにも、二人を結んだのはビートルズでした。
フォークのグループにいた坂崎と、ロックを演奏していた高見沢。
好みが離れて見えた二人は、共通の出発点があると分かると、その日のうちに坂崎の家で一緒に歌っています。
異なる音楽を好む仲間と、声を合わせられることが先にあったのです。
桜井賢も、坂崎が加わってからハーモニーがきれいに合うようになったと振り返っています。
高見沢にとっては、坂崎と聴いた「ベイビーズ・イン・ブラック」が、コーラスの面白さを理解するきっかけでした。
坂崎の声の歩みは、自分の歌を磨くことと、三人の響きを作ることが、最初から近いところにあります。
2015年――声を重ねるだけでなく、受け渡して一曲を作る
2015年のアルバム『三位一体』では、三人の歌手としての違いを、一曲の中で生かす作り方が前面に出てきます。
坂崎は、AメロとBメロでボーカルを交代する曲について、誰がどこを歌うかを一通り試して決めたと説明しています。
いつもの担当に収めるのではなく、実際に声を置いて組み合わせを探したのです。
同時に歌って和音を作ることと、順番に歌って曲の表情を変えること。
三人の声には、その二つの使い方があります。
坂崎も、下から支える人という一つの位置に収まらず、主旋律を受け取ることで曲の景色を変える一人になっていきます。
高見沢は後年、三声コーラスも含めた現在の方向が、この『三位一体』の頃からより明確になったと振り返りました。
長く続いたバンドが、過去の形を繰り返すだけでなく、三人で歌う仕組みをもう一度掘り下げる。
坂崎の多彩さが新曲の中で生かされていく背景には、このバンド全体の動きもあります。

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2017年――三人が歌った末に選ばれた「人間だから悲しいんだ」
「人間だから悲しいんだ」では、坂崎がシングルのリードを担当しました。
最初から担当が決まっていたわけではありません。
三人とも歌えるキーだったため、全員が一曲を最後まで録音し、その歌を聴いて決めています。
選ばれた理由として桜井が挙げたのは、坂崎のリズム感、乾いた声の質感、ハードな歌の入り方でした。
アコースティックギターを持つ人だから、穏やかな声で歌う。
そんな単純な役割分担ではありません。
坂崎自身も、この曲では柔らかさより少し硬さのある声を選び、ギターをかき鳴らしながら歌う感覚を大切にしたと話しています。
親しんできたフォークの感覚が、ここでは強いメッセージを押し出す歌い方につながりました。
2022年――配信番組の歌声が、四つのリードへつながる
次の大きな展開は、2022年の『天地創造』です。
きっかけの一つは、ライブができない時期に始まった配信番組でした。
カラオケでさまざまな歌を披露する坂崎を見て、高見沢は、その声の多彩さをオリジナル曲にも使おうと考えたのです。
坂崎がリードを担ったのは、「My Life Goes On」「Funky Cat」「振動α」「風の時代」の四曲。
曲ごとに声を変えることが、アルバムの幅を作る役割になりました。
坂崎は、高見沢から歌の方向を伝えられると、その雰囲気へ切り替えられると説明しています。
高見沢も「My Life Goes On」と「振動α」について、同じ人が歌っているとは思えないほどだと評しました。
一つの得意な声に曲を合わせるのではなく、曲の側から違う声を引き出していく関係です。
以前から持っていた器用さが、四曲それぞれの個性へ変わった。
新しい注文が、歌の幅を更新していました。
スタジオで分けた声が、ステージでは違う姿になる
『天地創造』の歌は、録音の中だけにとどまりません。
2022年の夏のイベントで「Funky Cat」を披露した際、坂崎はハンドマイクを持ってセンターステージへ移動し、ボーカルを担いました。
いつも抱えているギターから離れ、歌う人として客席の前に出る場面です。
一方、2023年のNHKホール公演の「人間だから悲しいんだ」では、高見沢と坂崎がアコースティックギターを持って向かい合い、演奏を始めています。
同じ公演の「恋の炎」では、坂崎はハンドマイクでステージの左右を動きながら歌っていました。
曲に合わせた声の選択は、ギターと歌を組み合わせる姿にも、身軽に客席へ向かう姿にもつながっています。
ギターと一緒に歌う姿も、前へ出て客席を動かす姿も、同じ歌手の中で共存しているのです。

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2025年――長年のスタッフも戸惑った、新しい歌い方
2025年の『君が生きる意味』では、さらに意外な出来事がありました。
「Dancing in Heaven」の歌入れを終えた坂崎が確認すると、ディレクターやミキサーは、その歌い方でよいのか戸惑ったといいます。
ところが、あとから録音を確かめた高見沢は、すぐにその歌を認めました。
坂崎が選んだのは、強いシャウトを前へ出す方向とは違う、歌謡曲らしいさらりとした歌い方でした。
いつもの印象をよく知るスタッフには意外でも、曲を書いた高見沢が求めていたものには合っていた。
声の使い分けが、分かりやすい得意技の披露を越えて、一曲の意図を受け取るところまで進んでいたことがうかがえます。
同作について坂崎は、自分の中から歌い方を探す際に、まだ開けていなかった引き出しもあったと話しています。
高見沢も、長年一緒にいるメンバーの声に新しい発見があったと語りました。
何十年歌えば、できることが出尽くすのか。
この二人の制作の話を読むと、その問いに簡単な期限は置けなくなります。
同じ三人で歌うからこそ、変えられるものがある
2026年、坂崎は、年齢を重ねるなかで声の質感や重ね方にも変化があるだろうとしながら、パートや三声の積み方が変わっても、最後にはTHE ALFEEになると話しています。
変わらない響きを保つことは、毎回まったく同じ歌い方をすることとは違うのです。
坂崎の歩みをたどって残るのは、フォークの歌い手が別のジャンルへ移った、という一本の矢印ではありません。
仲間と声を合わせる耳、曲の雰囲気を受け取る力、求められた声へ切り替える柔軟さ。
その蓄積が、2017年のリードの選択にも、2022年の四つの声にも、2025年の意外な歌謡曲の表情にもつながっています。
一曲ごとの具体的な使い分けは、坂崎幸之助の歌い方で掘り下げます。

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