奥井雅美の歌には、客席を一気に立ち上がらせるような力強さがあります。
JAM Projectでの活躍を知っていると、勢いよく声を張る姿がまず浮かぶかもしれません。
けれど、彼女の歌をその強さだけで捉えると、面白いところを聴き逃してしまいます。
同じ人が、曲によって勇ましく歌い、艶のある声を選び、共演相手の歌い方を生かそうともする。
奥井の魅力は、大きな声を出せることに加えて、その力をどこで使い、どこで抑えるかを選べることにあります。
『少女革命ウテナ』の主題歌「輪舞-revolution」と、ボンジュール鈴木と組んだ「Baby Baby Baby」。
この二曲には、それぞれ別の強さと柔らかさがあります。
「輪舞-revolution」は、勢いだけで歌っているわけではない
「輪舞-revolution」は、1997年に始まった『少女革命ウテナ』のオープニング曲です。
自分で道を選ぼうとする少女の物語に、奥井の意志を感じさせる声が重なります。
作品の映像とともに覚えている人には、歌い出すだけで気持ちが前を向くような曲でしょう。
ただ、ライブでの歌唱に目を向けると、勇ましさだけでは説明できません。
2021年の「DIAMOND FES」でこの曲を歌った際には、裏声や囁くような声、音を細かく動かすこぶしを織り交ぜる歌い方が、ライブレポートでも取り上げられています。
強く押す以外の表現が、一曲の中に入っているのです。
ずっと同じ勢いで歌えば、勇ましい印象は保てるかもしれません。
でも、声の表情が変わると、ただ強い人物ではなく、迷いや感情を抱えながら進む人の歌としても受け取れます。
この曲で奥井が生むかっこよさは、声の大きさだけで測れるものではありません。
サビの迫力が好きなら、その前後で声の柔らかさがどう変わるかにも耳を向けたいところです。
勢いのある箇所ばかりを追っていたときとは、曲の表情が違って感じられるかもしれません。
強い歌い方を、いったん控えることもできる

JAM Projectは、複数の歌手が声を重ねて歌うグループです。
奥井にとっては、声量のある男性メンバーたちと並び、その中でも自分の声を届ける場所でした。
ソロで自分が中心になるときとは、周囲の声も、求められる迫力も違います。
その奥井が、2010年の自身のブログで、あえて力まず、爽やかに歌った時期について説明しています。
喉の状態に配慮しながら、普段のロックで使う力強い歌い方を控えたという話です。
本人の説明では、単に裏声へ切り替えたのではなく、地声で優しく歌ったのでした。
これは、力強い声しか使えない歌手の話ではありません。
同じ曲を歌うにも、強く押し出す以外の方法を持っている。
体調への対応として語られた出来事ですが、奥井の声に複数の出し方があることも分かります。
歌の迫力を好きになると、つい「もっと強く、もっと高く」と期待してしまいがちです。
けれど、奥井自身はいつも最大の力で歌おうとしているわけではない。
その選択肢の多さが、JAMとソロを行き来する歌の面白さにつながっています。
「Baby Baby Baby」では、強気な人物の弱さも歌う
2025年の「Baby Baby Baby」は、奥井雅美 with ボンジュール鈴木名義の曲です。
『履いてください、鷹峰さん』の主題歌で、奥井はヒロインの強気な態度だけでなく、その内側にある恋心も歌にしようとしました。
堂々と振る舞う人にも、相手に好かれたい気持ちはある。
その両方を描く曲です。
本人が意識したのは、共演するボンジュール鈴木のかわいらしい声を踏まえ、自分も女性らしい表情を出すことでした。
力で押し切るだけでは、照れや願いのような小さな感情が見えにくくなってしまいます。
この曲では、情熱を強く見せるところと、柔らかく伝えるところの両方が必要なのです。
声の表情と一緒に考えたいのが、言葉の響きです。
奥井は、この曲のメロディーには日本語がうまく収まらないところがあり、英語が映える部分は英語にしたと話しています。
デモに入っていたフランス語も残しました。
どの言語で意味を伝えるかと、どんな音の並びなら気持ちよく歌えるかを、同時に考えていたわけです。
同じインタビューでは、日本語で丁寧に伝えるべき曲もある一方、この曲では、さらっと聴き続けられる心地よさを意識したとも語っています。
柔らかさは、声を弱めることだけで作るものではない。
言葉の響きが旋律に自然に収まることも、何度も聴きたくなる歌につながっています。

録音の進め方にも、共演相手を生かす考え方が表れています。
奥井が先に歌い、その後でボンジュール鈴木が声を入れる際、奥井は自分の歌に縛られず、自由に歌ってほしいと伝えました。
その結果、ボンジュール鈴木は台詞のような歌い方も加えています。
二人の歌を全部同じ調子にそろえる必要はない。
奥井の声に、もう一人の違う表情が加わることで、曲の中の人物も生き生きしてくる。
力強い歌手が相手を引っ張るだけでなく、相手の工夫を受け入れるところにも、このデュエットの楽しさがあります。
大勢の歌を一人で歌うと、自分の声を探し直す
反対に、大勢で歌った曲を一人で歌い直すと、別の難しさが生まれます。
奥井が2023年にセルフカバーした「ONENESS」は、もともとアニソンイベント「Animelo Summer Live」で複数の歌手が歌った曲でした。
次々に歌い手が替わる前提で作られているため、一人で通して歌うと息を継ぐ余裕が少ない。
さらに奥井の頭には、当時それぞれの部分を担当した歌手の声が残っていました。
そのため、録音ではほかの人の歌い方に似てしまい、自分の歌としてつかむまでに時間がかかったといいます。
自分が知り尽くした曲でも、一人で歌えば自動的に自分らしくなるわけではない。
「ここはあの人の声」という記憶を離れ、一曲を自分でどう歌うか考え直さなければならなかったのです。
一人になったぶん強く歌えば済む、という話ではありません。
誰と歌うかが変われば、声の強さも、一曲の中での表情のつけ方も考え直す。
その点では、新しい相手とデュエットする場合にも通じています。
同じ30周年盤では、林原めぐみとのデュエット曲「Get along」も一人で録音しています。
1995年の二人の歌から何を変えたのかは、奥井雅美の歌声の変遷で詳しくたどっています。
奥井雅美の強さは、歌い方を選べること
「輪舞-revolution」では、一曲の中で声の表情を動かす。
JAMでは周囲に埋もれない迫力を求め、「Baby Baby Baby」では恋心に合う柔らかさも使う。
「ONENESS」を一人で歌うときには、ほかの歌手の記憶から離れ、自分の歌い方を見つけ直す。
曲も、一緒に歌う人も変われば、必要な歌い方は変わります。
奥井は、そのたびに同じ力強さだけを当てはめているわけではありません。
あの迫力があるからこそ、あえて柔らかく歌う場面も面白い。
奥井雅美を聴く楽しさは、強い声に圧倒されることと、その声が次にどんな表情を見せるかを味わうことの両方にあります。







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