森カリオペの歌唱変遷|ラップへの自信から、歌に託す感情を広げるまで

森カリオペ(2022年1月掲載のインタビュービジュアル) シンガー
森カリオペ(2022年1月掲載のインタビュービジュアル)

森カリオペは、最初から歌にも自信があったわけではありません。
ホロライブに入ったころは、歌では周囲にかなわないと感じ、ラップに重きを置いていました。
それでも歌ってみたいという気持ちはあり、仲間や聴き手の存在が、その背中を押していきます。

ラップを得意とする人が、旋律を歌うことにも自分の居場所を見つける。
森カリオペの変遷をたどると、その過程には、新しい作曲家との録音や、自分でも意外だった曲との出会いがあります。
得意技を捨てた歴史ではなく、同じ感情を届ける方法が増えた歴史です。

2020〜2021年、まず音楽を届ける人として立つ

森カリオペは、2020年9月12日にデビューしたホロライブEnglishのメンバーです。
英語圏へ向けて活動するVTuberでありながら、日本の音楽にも強い関心を持ち、両方の言葉を使った作品を発表してきました。

デビュー時に用意したのは、オリジナル曲4曲でした。
音楽を作り、届けるつもりでここに来たのだと、最初から作品で示そうとしたのです。

2021年末、TAKU INOUEと組んだ「Yona Yona Journey」では、別の驚きが生まれます。
本人にとって、自分の声をそのように加工して曲に入れるのは初めての経験でした。
言葉をラップする声を、音楽の中の素材としても変えてみる。
自分一人で思い描く歌の外側を、共同制作が見せ始めた時期です。

2022年、プロの録音現場へ入っても、歌の主題は手放さない

メジャーデビュー作「SHINIGAMI NOTE」は、改めて自分を紹介する作品になりました。
森カリオペが求めていたのは、歌を磨きながら、より広い聴き手へ届け、憧れの制作者と曲を作ることです。
チームから曲の候補を受け取っても、歌詞やテーマには自身の考えを持ち込みました。

制作環境も、パソコンとマイクを使い、自分で録音を仕上げていた段階から変わります。
スタジオで歌唱のディレクションを受け、プロデューサーと一緒に作るようになったのです。
2023年の本人の振り返りからは、他人の判断を取り入れられる環境が、表現を広げたことが分かります。

2022年7月21日の豊洲PIT公演にも、ラップ一辺倒ではない姿がありました。
序盤には滑らかなフロウや畳み掛けるラップで会場を引き込み、後半には「Scuffed Up Age」の伸びやかな歌唱や「end of a life」を置いています。
激しい曲のあとに、旋律や言葉と向き合う時間を作る構成です。
後年の穏やかな歌は、何もないところから突然生まれたわけではありません。

「Wanted, Wasted」で見えた、ロックとラップの接点

2022年の「SINDERELLA」では、THE ORAL CIGARETTESの山中拓也と「Wanted, Wasted」を制作しました。
英語のラップを任された森カリオペは、仮のメロディとは違う発想を返しています。

この曲や「Black Sheep」を経て、本人はオルタナティブロックとラップの組み合わせが自分に合うと感じました。
2023年の「JIGOKU 6」では、そうした方向が作品の軸になります。
幼いころに親しんだロックと、活動の出発点だったラップが、一つの歌の中でつながったのです。

山中拓也と森カリオペ(2023年1月の対談掲載画像)
山中拓也と森カリオペ(2023年1月の対談掲載画像)。
画像出典:画像掲載元

ロックへ進むことは、ラップを減らして普通に歌うことと同じではありません。
「Wanted, Wasted」の制作では、英語のラップを本人が作ること自体が、共作の重要な部分でした。
自分の得意な言葉の運び方を持ったまま、曲の熱量や旋律の置き方を変えていく転機です。

2023年、録音の隣にいる人が変わる

「JIGOKU 6」に収めた「虚像のCarousel」では、Reolと同じブースで録音し、日本語と英語を互いに助け合いました。
完成した曲を交換するだけでなく、声を出す現場そのものを共有する共演です。

「six feet under」では、TKの個人スタジオで、隔離されたブースに入らず、本人の近くで歌っています。
疑問があれば、その場ですぐに聞ける環境でした。
同じ共同制作でも、相手や距離が変わると、歌を試す方法も変わる。
自分の声を一人で判断する段階から、人とやり取りしながら仕上げる経験が積み重なっていきます。

2024年、想定外のダンス曲にも自分の声を置く

「Go-Getters」は、アニメ「異世界スーサイド・スクワッド」のエンディング主題歌です。
制作途中には複数の形があり、ポップなダンス曲へ大きく変わっていきました。
森カリオペ自身も、その変化に慣れるまで時間がかかったといいます。
GigaとTeddyLoidを信頼し、自分の想定を越えた音楽へ声を乗せた作品でした。

同年の「PHANTOMIME」では、「DONMAI」でJean-Ken Johnnyとも共作しています。
英語で細かなところまで話し合えたことが、本人にとって大きな意味を持ちました。
ジャンルが広がる一方で、相手へ自分の考えをどこまで伝えられるかも、歌を作る条件になっていきます。

2025年、歌う自分への要求が厳しくなる

「Seeing Stars feat. Lotus Juice」では、目黒将司と曲を作り、メロディや導入部を細かく調整しました。
森カリオペは自分からイントロのアイデアも出し、歌唱には何度も録り直しを重ねています。
以前より、自分の歌に対して厳しくなったと振り返っていました。

同じ時期の本人は、日本のラップから出発した音楽が、より広いジャンルへ向かい、英語で旋律を歌う曲も増えていると説明しています。
歌では周囲にかなわないと思っていた人が、その歌を納得できる形まで詰めるようになる。
声を出せる範囲だけでなく、自分に何を求めるかが変わったのです。

この広がりは、既発表の曲を作り直す選択にも表れています。
「SNEAKING」は、男性ボーカルを迎えたロック版「SNEAKING(revenge)」へ展開しました。
本人は2025年、原曲のよさを認めながらも、自分の好みに近い形へ変えたかったと説明しています。
同じ曲を、今の自分ならどう歌いたいか。
新曲を受け取るだけでなく、自分の意思で曲の行き先を変えるようにもなったのです。

2025年2月、ロサンゼルスで行ったソロライブ「Grimoire」では、その幅が一つのステージに並びました。
「Last Days」ではゆったりした曲調の中で感情を込め、「skeletons」では静かな旋律を届ける。
さらに、アコースティックなギターが響く「through the blue」へ続きます。
勢いの強い曲の間に、歌そのものをじっくり聴かせる場面を持てるようになりました。

森カリオペ「Grimoire」ロサンゼルス公演(現地2025年2月26日)
森カリオペ「Grimoire」ロサンゼルス公演(現地2025年2月26日)。
画像出典:画像掲載元

2026年、違う感情を一曲へ持ち寄る

「DISASTERPIECE」に収録した10-FEETとの「天誅&Mercy」では、森カリオペの怒りを含む歌詞と、TAKUMAの穏やかな視点が組み合わされました。
展開が大きく変わる曲を一つの物語として歌うことも、本人にとって新鮮な経験でした。
TAKUMAが歌に加わることになったのは録音当日です。

TAKUMAは、攻撃的な表現の奥に、森カリオペの優しさも感じ取っています。
強い声を強いまま出すだけでなく、別の人の感情と並べることで、その内側も見えてくる。
初期からのラップの力を保ちながら、声に託せる感情が増えたことを示す共演です。

「天誅&Mercy」— 2026年「DISASTERPIECE」収録音源

歌えるようになった、の先にある変化

森カリオペの歩みを、ラッパーが歌も上手くなったという一言で終えるのは惜しいところです。
加工された声に驚いた経験、ロックとラップが結び付いた曲、相手の隣で試す録音、自分の歌を何度も録り直す制作。
そのたびに、自分の声へ求めるものが変わっています。

ラップを活動の柱に据えた自信と、歌にはまだ届かないと思っていた気持ち。
その二つから始まった人が、今は強さも静けさも、作品に合わせて託せるようになった。
新しいジャンルの数以上に、歌を引き受ける姿勢の変化に、この歩みの面白さがあります。

曲ごとの声の使い分けや、言葉をリズムへ収める工夫は、森カリオペの歌い方で詳しく扱っています。

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