格好いいと思って身につけた歌い方が、いつの間にか行きすぎている。
森重樹一は、長く歌った後に、ビートに対して下がりすぎていた歌を見直しました。
さらに2019年には、声帯ポリープの手術を経て、思い描いた歌を出しやすくなったと語っています。
周りの演奏を聴くこと、自分の声を確かめること。
その積み重ねが、歌を中心に置く近年の制作にもつながっていきます。
「I STAY FREE FOREVER」(2019年)のミュージックビデオ。
周囲の音が聴こえるようになり、歌の位置を変える
2018年の清春との対談で、森重は、50歳を過ぎてから歌の置き方を変えようとしたと振り返っています。
それまでの意識の一つは、1999年のソロアルバム『BUTTERFLY』を作った頃の経験でした。
THE STREET SLIDERSのリズム隊と演奏し、ドラムのキックを一番前に置く音作りに触れたのです。
『BUTTERFLY』(1999年)収録の「RIDE ON THE WIND」の音源。
森重がそこで感じたのは、演奏全体をゆっくり運ぶようなルーズさではありませんでした。
むしろビートは少し前へ突っ込むほどで、歌がその後ろにあることが格好よく感じられたのです。
その組み合わせを、自分の中でも意識していました。
ところが、それを続けるうちに、歌がだんだん後ろへ下がっていったといいます。
本人は、その位置をもう少し前へ出そうと考えるようになりました。
同じ取材では、以前は自分の歌さえよければいいと考えていたところがあったが、周囲の音の細部まで聴けるようになり、意識が変わったとも説明しています。
自分の声を聴かせることと、演奏の中でその声がどこにいるかを考えることが、結びついていったのです。
この変化を支える、仲間とのやり取りもありました。
2018年の別の取材では、ギタリストのカトウタロウが、自分の好みや意図を理解したうえで、必要な音を提案してくれると話しています。
本人が感じていることを、理論的な説明や実際の演奏にして返してくれる存在です。
思いを共有できる演奏者がいることで、歌の居場所も一緒に探せるようになっていました。
2019年、出したい声と実際の声が近づく

画像出典:画像掲載元
歌の置き方とは別に、声を出す時の手応えにも転機がありました。
2019年の声帯ポリープの手術です。
その年の取材で、森重は、手術前にはやりたいことの7割5分ほどだった感覚が、術後には9割ほどできるようになったと話しています。
本人が感じた、表現しやすさの違いです。
以前は、出ると思った音が出しにくいこともありました。
手術を機に医師の説明を受け、鍵盤に合わせて使える音を確かめる機会も持っています。
術後すぐには低い声が出しづらかったことも語っており、その後の声の状態を確認しながら歩みを進めていました。
この時期のシングルが「I STAY FREE FOREVER」です。
森重は、録音にも手術後の変化がよく残り、疲れた喉が戻る速さにも違いを感じたと説明しています。
非常に調子が良い状態で臨んだわけではなくても、納得できる声が録れたと話しています。
以前から最良の声を録ろうとする姿勢は同じで、その時に実現できる表現が変わっていたのです。
この作品では、バンドのビート感とライブの勢いを届けることも目指しました。
手術のある年にアルバムを作るのは難しいと考え、シングルという曲数だからできる作り方を選びました。
そこで本人は、一発で録ればそれでよいとは考えていませんでした。
メンバーの技術や録音技術を使って演奏を組み立て、ライブではさらに勢いが増すように作る。
声を出しやすくなったことと、その歌を生かす録音を作ることが、同じ時期に進んでいました。
同年8月24日の、術後初となるZIGGYの八王子公演の公式レポートでも、ハスキーな持ち味が残り、ステージングを含めて力強いという印象が記されています。
本人が語る歌いやすさと、公演を見た側が受け取った声の個性。
自分の意図に近い声を出せるようになった手応えと、聴き手に届く持ち味の両方が、この時期の記録に残っています。
歌を中心に戻し、再びバンドの華やかさへ

画像出典:Real Sound
2024年の取材では、その後の音楽作りについても語っています。
コロナ禍に弾き語りを重ねる中で、演奏の中心に置くべきものは歌だと改めて考えていました。
2023年の『SO BAD, IT’S REAL』では、過度な音の演出に頼らず、メロディと歌をシンプルなアレンジで成立させようとしています。
一緒に演奏するメンバーにも、歌に寄り添う力があることを実感していました。
『SO BAD, IT’S REAL』(2023年)収録の「夢でお前に」の音源。
その原点を確かめた後の『For Prayers』では、メンバーの華やかなプレイや個性を前に出しました。
歌をシンプルな形で成立させてから、バンドの表現をもう一度広げる。
二つのアルバムは、その順序を意識して作られていたのです。
『For Prayers』(2024年)収録の「ROSARIO」の音源。
その広がりが具体的に表れた曲の一つが、「お前のいない世界に意味など無い」です。
森重は、ドラマーのCHARGEEEEEE…が得意とする4分打ちのリズムを、歌い出しの部分で生かしたと説明しています。
さらに、大サビの前にある得意の泣きのメロディを、あれほど哀感のある形で表せるのは今だからこそだとも語りました。
長く持ってきた旋律の個性に、今の演奏者の得意なことと、現在の表現が重なっています。
「お前のいない世界に意味など無い」— 『For Prayers』(2024年)収録の権利者提供音源。
初期の曲を、今の声と仲間で歌う
『For Prayers』には、若い頃の曲を現在へ持ち帰る試みもあります。
「追いかけて」は、本人によれば20歳の頃に作り、40年以上を経て初めて音源になった曲でした。
初期に一緒に演奏したベーシスト、岩田仁樹を亡くしたことも、40周年の作品に収める大きな理由になっています。
かつて岩田が歌った掛け合いを、今はカトウタロウが歌ってくれる。
森重は、その安心感も語っていました。
昔のメンバーとの思い出を残すことと、今のメンバーを信頼して歌うことが、ここでは一つの曲の中にあります。
「追いかけて」— 『For Prayers』(2024年)収録の権利者提供音源。
20歳の自分が追いかけたものを、60歳を過ぎた自分もまだ追いかけていく。
本人はこの曲を、そうした現在の気持ちにも重ねています。
若い頃の曲を録ることが、今も続けている歩みを示す機会になったのです。
歌のリズム上の位置を選び直し、出したい声との距離を確かめ、その歌が生きる演奏を作る。
森重の歌唱の変化は、声だけでなく、周囲の音や、一緒に歌を作る人との関係も含めて進んできました。
声の質感や伴奏との組み合わせは、森重樹一(ZIGGY)の歌い方で取り上げています。

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