ウォルピスカーターの歌声はどう変わった?高音を追った10年と「低い曲」の発見

ウォルピスカーター・日本コロムビア公式キャラクター画像 ウォルピスカーター

ウォルピスカーターは「高音出したい系男子」を掲げています。
ならば、活動を重ねるほど高い音が出るようになった、という話になるのでしょうか。
本人が振り返る歌の歴史は、もっと曲がりくねっています。

初投稿では高音を武器にするつもりもなく、歌い方を詰め込み過ぎた時期を経て、引き算を覚えました。
録音では高いキーを譲らない一方、ライブでは下げる選択を公言し、10周年には低めの曲を歌う難しさに驚いています。

高音そのものを捨てたのではありません。
高い声を「出す」ことから、その声を曲の中でどう扱うかへ、本人の問いが増えていったのです。
2012年の「天ノ弱」から、10周年のカバー集、ライブを想定して曲を作るようになった2024年まで、その選択をたどります。

「天ノ弱」――2012年の初投稿録音。
2021年に本人が再公開。

2012年の初投稿――高音が最初から看板だったわけではない

2012年10月、ウォルピスカーターはニコニコ動画に「天ノ弱」の歌唱を初投稿しました。
高校の軽音楽部を引退し、一人でも音楽を続けられる場として選んだのが「歌ってみた」でした。
最初から録音に詳しかったわけでもなく、投稿を通じて知り合った人に機材を教わり、音の調整も頼むようになります。
歌う場所と、録音を一緒に作る仲間を少しずつ見つけていったのです。

2022年の取材で本人は、初投稿のころは高音を開発しようと思っておらず、自分を歌がうまいと信じていたと笑っています。
しかし投稿を続けるうちに、その自信は崩れました。
高すぎて歌うことを諦める曲もあった。
2013年11月に「命のユースティティア」を歌ったとき、高音の出し方が分かったと本人は2016年の取材で振り返っています。
その経験が「もっと高い声を出したい」という目標に変わり、発声の仕組みを自分で調べ始めました。

「高音出したい系男子」という呼び名も、完成した技術を誇る言葉ではありませんでした。
自分より高い声を出す歌い手がいることに刺激され、もっと上を目指したいという気持ちから生まれたといいます。
高音を追う一方で、他人の歌の長所をどう取り入れるかという模索も進んでいました。

2014年から2015年――「全部入れる」から「引く」へ

2014年、初投稿と同じ「天ノ弱」を再び歌いました。
このころはほかの歌い手の格好いいと思う癖を次々に取り入れ、自分なりの表現を探していた時期です。
本人は2022年、当時の歌を聴き直すと要素を詰め込み過ぎていて、まだ何を残すべきか判断できていなかったと話しました。
高音へ向かう意欲が増しても、そのまま歌が整理されたわけではなかったのです。

転機として本人が挙げるのは、2015年投稿のOrangestar作「アスノヨゾラ哨戒班」。
当時の自分には非常に高く、理想に近い声を出そうとした曲でした。
ただ、変えたのは高さだけではありません。

歌の癖が強いという反応を受け、何もかも加えればよいわけではないと考え始めます。
本人によれば、音数が少ない曲の作りも、歌を整理する方向に合っていました。
このころから「引き算」の歌い方を意識したと説明しています。

「アスノヨゾラ哨戒班」――2015年の投稿録音。
2025年に本人がYouTubeへ公開。

高い声を出すことと、歌として何を残すかは別の課題でした。
好きな歌い手の長所を集めた2014年を経て、2015年には曲に合わないものを引く。
本人の振り返りからは、高音の獲得と同時に、自分の歌を選び取る耳も育てていたことが分かります。

2016年から2021年――録音の理想を、そのままライブに持ち込めなかった

2016年の取材で、本人はライブへの難しさを率直に語っています。
好調な日でも、高いキーで2~3曲を歌い切れるかどうか。
納得できるものを届けられるようになってからライブをしたいと考えていました。
録音で知られた声を、生のステージでも納得できる形で届けられるかを気にしていたのです。

2019年には「1%」をシングルとして発表しました。
アニメのエンディングテーマとして届ける曲も、彼の高音を前提に作られていきます。
2021年、Orangestarと組んだ「オーバーシーズ・ハイウェイ」では、本人が歌詞の一部を共作し、テレビアニメ『デジモンアドベンチャー:』のエンディングを担当しました。

最初にアニメ用の短い版を録ったときは、何とかなる高さだと思っていた。
ところがフル尺では、2番のAメロがサビより高くなり驚いた、と本人は話しています。
高音はサビで一度到達すれば終わりではなく、曲の後半にも続く。
かつて限界を確かめるために高い曲を選んだ歌い手が、今度は共同制作された曲全体を作品として成立させる役割を引き受けたのです。

ウォルピスカーター『Overseas Highway』公式ジャケット
2021年のEP『Overseas Highway』。
画像:公式掲載元。

それでも、録音の高さをそのままコンサートの正解にはしませんでした。
2021年の取材で本人は、音源では高いキーを維持する一方、その歌い方を2時間続くライブで繰り返すのは難しいと説明し、キーを下げて歌うことを事前に知らせる方針を語っています。
ライブを音源の再現ではなく別の楽しみ方として成立させたい、とも言いました。
下げることを隠すのではなく、公演の題名にまで掲げた点が興味深いところです。

その試みは、2021年10月の大阪公演「ハイトーン刑務所 ~LIVEでキーを下げただけなのに~」で、歌と寸劇を交えた演出になりました。
キーを下げた歌手が収監されるという設定の中で、自分のこだわりを笑いにも変えます。
公演を経て本人は、観客は自分が思うほど原曲キーに固執していないと気づいたと話しました。
歌う本人が抱えていた条件を客席と共有し、下げても堂々と歌おうと思えるようになったのです。

2022年から2023年――高い声の外側で、歌の難しさに出会った

2022年のEP『分身 -Bunshin-』では、本人が歌詞を書いた表題曲「分身」に、かねてから続けてきた声の選択が表れます。
高いロングトーンで「い」「う」の母音が続くと自分には歌いにくい。
そこで、重要な高音に「え」「あ」「お」が来るよう言葉を考えたと明かしました。
与えられた曲の高さに挑むだけでなく、作る言葉の側から歌える形を設計するようになったのです。

同じ作品群の「ニンジャライクニンジャ」では、ラップ、ファルセット、話し言葉を行き来します。
本人は、曲ごと、時にはAメロとサビでも声色が変わるのは、自分に合わないほど高いキーを歌うため、その場ごとに声を変えて乗り切ってきた結果だと説明しました。
一つの「良い声」を全曲に固定できないことを短所とも呼びながら、実際の作品ではその多さを使っています。
高音の看板だけでは、2022年の歌い方を言い表せなくなっています。

さらに2023年、10周年のカバーアルバム『ひとのうた』では、初めてファンからのリクエストを軸に選曲しました。
普段の選曲に比べてやや低めの「Fire◎Flower」に苦戦したといいます。
高い声が出たというだけでは、採用するテイクを決められませんでした。

よく歌えたと思っても、時間を置くと本当にこれでよいのか迷い、細かく録り直す。
本人はサビに欲しい力強さを出す調整にも苦労し、この曲がアルバムの中で最も時間がかかったといいます。
この曲で、声を高く出すことと「歌をうまく歌う」ことの違いを痛感したと振り返っています。

ウォルピスカーター『ひとのうた』公式ジャケット
2023年のカバーアルバム『ひとのうた』。
画像:公式掲載元。

同作には、再び高い音へ挑む「Alice in 冷凍庫」も収録されました。
高音への意欲と、低めの曲で歌のまとまりを求める試行錯誤が、一枚の中で並ぶことになったのです。

2024年――今度は、ライブで歌うために曲の高さから相談する

『余罪』収録の「ワンマンライブ」では、制作の入口から考え方が変わりました。
バンドマスターでもあるケントカキツバタへ、自分のワンマン公演のテーマ曲を依頼したのです。
それなら、本番で歌うことを最初から考えなければならない。
届いた曲を録音で歌い切ればよいという、従来の発想だけでは決められなくなりました。

本人は作曲者と電話でも相談し、キーや盛り上がる旋律を探りました。
特に時間をかけたサビには、約4通りの案があったそうです。
ケントは、地声と裏声のどちらを使うかによる違いも考え、舞台で声の持ち味を出せる形を練ったと説明しています。
ウォルピスカーターにとって、ここまで細かく往復して曲を作るのは初めての経験でした。

出来上がった歌をライブ用に下げるだけでなく、曲ができる段階から本番の歌を考える。
2021年に公言した録音とライブの違いへ、さらに一歩踏み込んだ取り組みです。
これでライブ好きに変わったわけではなく、本人は2024年の対談でも苦手意識を語っています。
それでも歌を届けるために、作曲者と一緒にできることを増やしたのでした。

「出せなかった声を出したい」という初期の目標には、余分な癖を引くこと、音源と公演の条件を分けること、言葉を声に合わせて書くこと、低い曲を一曲の歌としてまとめることが加わりました。
ウォルピスカーターの変遷は、高音を卒業した物語ではなく、高音だけでは済まない歌の仕事を自分で見つけてきた過程です。
一曲の中で声色と言葉をどう選ぶのかは、ウォルピスカーターの歌い方で掘り下げます。

シンガー人気投票。投票ページはこちら

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました