ホリエアツシ(ストレイテナー)の歌声はどう変わった?叫ぶサビから、歌を選び直す現在まで

ストレイテナーのホリエアツシ シンガー

2024年の「Skeletonize!」を録ったとき、ホリエアツシは喉を潰したという。
初期のストレイテナーを知る人には、若い頃の激しい歌い方へ戻ったようにも映る出来事だ。
けれど本人によれば、いまは喉をいたわる歌い方を知っている。
その方法を選ばず、この曲のサビには激しさを求めたのだった。

歌を強くするために、いつも力を足すわけではない。
別の歌手の曲から力を抜く面白さを知り、自分の声を加工して遊び、何本も重ねて曲の空気を作る。
ホリエの歌唱をたどると、荒く歌うことも静かに歌うことも、曲に合わせて選び直してきた過程が見えてくる。

2000年代:ギターより先に、歌と曲作りがあった

ストレイテナーは1998年、ホリエとドラムのナカヤマシンペイの二人で始まった。
ホリエはギターより先にキーボードで曲を作り、バンドでも最初は歌を担当していた人だ。
2005年の取材では、子どもの頃から歌もののメロディとコードが好きだったと話している。
激しい演奏を始めてから歌の大切さに気づいたのではなく、まず歌いたい旋律があった。

二人時代の音作りには、編成ゆえの制約もあった。
後年の本人の説明では、複雑で実験的な音楽にも興味はあったが、当時の技術や人数では難しく、轟音とメロディを組み合わせる方向へ進んだという。
できることが限られるなかでも、曲の良さでは負けられないと考えていた。
ベースが加わった三人編成で発表した2006年の「Melodic Storm」にも、その初期から続く歌への軸をたどることができる。

2013年「BLACK DYED」:ファンの投票が、実験を後押しした

2013年のミニアルバム『Resplendent』へ向かうホリエには、自由に作れると感じた出来事があった。
同年の日本武道館公演に向けて募った演奏曲の投票で、実験的な曲や、その時々に自分たちのやりたいことを優先した曲が上位に並んだのだ。
分かりやすさに寄せるより、自分たちが面白がっているものを出してよい。
本人は、そう受け取ったと話している。

その新作に入った「BLACK DYED」では、バンドで初めてイントロの歌にオートチューンを使った。
きっかけは、たまたま耳にしたカニエ・ウェストの音楽だったという。
さらにラップ調の部分では、喋るときに近い、喉が振動するような声を意識した。
加工だけでなく、歌う人物を少し演じるように、普段とは違う声の使い方を試していた。

持ち声を変えてしまうことについて尋ねられても、本人には自分の声で遊んでいる感覚があった。
声の良さをいつも同じ形で見せることにはこだわらない。
メロディを大切にしてきた歌手が、そのメロディを誰のように、どんな口調で歌うかまで動かし始めた。

ストレイテナーのホリエアツシ
2016年の取材に登場したホリエアツシ。
写真出典:SPICEの本人取材(写真:西槇太一)

2016年「シーグラス」:歌を聴かせるための、四人の音作り

四人編成で作った2016年の『COLD DISC』では、ホリエは歌の存在感を強めることに集中した。
前作あたりから始めた取り組みが、このアルバムでより表れたという。
背景には、分かりやすい旋律への見方の変化もある。
以前はありがちなメロディを避けようとしていたが、懐かしさを感じさせながら新しくもある曲を作りたい、と考えるようになっていた。

自分の好みを知る聴き手だけでなく、初めて聴く人にも届く歌にしたい。
その考えを、ホリエの声量だけで実現しようとしたわけではなかった。
「シーグラス」では、大山純がAメロのギターで海辺の石やガラスを思わせる音を作り、Bメロでは歌を追いかけるように弾いた。
波が寄せては返す景色を、演奏に重ねていたという。

面白いのは、そこまで具体的な風景を大山が想像していたと、ホリエ自身も取材で初めて知ったことだ。
歌を中心に置くことは、ほかの楽器を一律に控えめにすることではない。
メンバーそれぞれのイメージが加わり、声と言葉が進んでいくための景色ができていた。

秦基博の「鱗」で知った、力を抜いて出す高音

秦基博の歌は、ホリエに別の角度から影響した。
2007年ごろ、空港で行われていた公開収録で秦の弾き語りを見たときは、その存在感に驚き、自分にはできそうにないと感じたという。
それでも2012年ごろから自身も弾き語りを始めると、今度は知らない人の前で何を歌うかに悩んだ。
自分の曲や好きな洋楽が、子どもや年配の客にも伝わるとは限らなかったからだ。

そこで選んだのが、自分も本当に好きだった秦の「アイ」だった。
客から「鱗」も歌ってほしいと言われ、レパートリーが広がっていく。
歌い方を真似してみると、普段の自作曲にはない発見があった。
「鱗」の高い音を初めは力で張って出そうとしていたのに、ふっと力を抜いたときに出しやすくなったのだ。

ホリエは2017年の対談で、その経験が後の曲作りと歌い方にも影響したと話している。
高音へ向かうたびに力を足す必要はなく、別の配分でも歌は成立する。
同年のシングル「灯り」には、ストレイテナーとして録音した「鱗」も収められた。
こちらは、それ以前に発見の場となった弾き語りとは編成の異なるカバーだ。

秦との共作「灯り」にも、相手の発想を受け取る姿勢が表れている。
制作初日に時間をかけた別の候補曲より、休憩中に秦が弾いたコードのほうに惹かれ、そちらを発展させたという。
自分にない声や曲の作り方に触れることが、自分の歌を変える入口になっていた。

ストレイテナーのホリエアツシ
2018年の取材に登場したホリエアツシ。
写真出典:SPICEの本人取材(写真:高田梓)

2024年「Skeletonize!」:柔らかく歌えるようになっても、激しさは手放さない

ただ、その後の歌が一方向に柔らかくなったわけではない。
「Skeletonize!」では、Aメロに落ち着いた色気を残し、サビでは一気に熱を上げたかった。
先にサビを激しく録ると、Aメロの落ち着きへ戻るのが難しい。
かといって普段の調子でサビを歌うと、曲に合わないと本人は感じていた。

この曲の歌入れは、それほど消耗する作業になると分かっていた。
一日に二曲を録る予定を立てる際にも、ホリエは「Skeletonize!」でその日の作業が終わるだろうと見込んでいたという。
本人は、この録音で実際に喉を潰したと振り返っている。
落ち着いた部分と激しい部分を一曲の中で両立させることに、苦労があったのだ。

本人は同時期のラジオで、インディーズ時代とは歌い方が変わり、いまは喉をいたわる方法を取れるとも説明している。
「鱗」で力を抜く面白さを知った歌手が、ここでは荒さを選んだ。
使える方法が増えても、すべての曲を楽に整える方向へそろえるわけではなかった。

2025年「メタセコイアと月」:一本の声では作れない表情へ

2025年の『Next Chapter EP』では、声を何本も録り重ねる作業に力を注いでいる。
「メタセコイアと月」について話した取材では、主旋律をオクターブ違いで録り、コーラスの上下を途中で入れ替えるなど、いろいろな配置を試すと説明した。
声を張るか抜くかに加えて、複数の自分の声をどう組み合わせるかが、曲の表情を作る。

この曲の入口は、散歩中に見た木と月の景色だった。
歌詞は独り言に近く、本人には内面に隠した狂気を表す感覚もあったという。
ラジオなどで出会うR&Bや電子音楽にも刺激を受け、面白いと思う方法を取り入れる。
2013年の声の加工と同じく、歌声を固定した完成品にせず、録音の中でさらに形を探していた。

一方、同じEPの「Next Chapter」は、他者を思いやることや平和への願いを外へ向ける曲だ。
ホリエは、バンドの新章だけを意味するというより、時代へ向けたメッセージだと話している。
内側へ潜る曲と、外へ言葉を届ける曲。
同じ作品の中でも歌の向かう先が異なり、一曲ずつ音作りを詰めたという制作の話につながる。

「走る岩」を歌い直す:古い曲にも、現在の言葉を足す

『Next Chapter EP』では、初期の「走る岩」も録音し直した。
きっかけは、前年の「COME and GO」の歌詞に、過去の曲名を織り込んだことだったという。
「走る岩」の元の録音は二人時代のもの。
四人で初めて編曲し直すにあたり、以前はなかった二番の歌詞も書き加えた。

「走る岩」/初期の二人編成による録音。
『Early Years』(2005年発売)収録の公式音源。

本人によれば、この曲にはもともと反戦の意味があった。
和の感触を持つメロディを激しい感情で歌う点には、eastern youthからの影響もあるという。
若い頃の勢いを懐かしむだけでなく、現在のEPが扱う問題にも通じる曲として、言葉と演奏を作り直したのだ。
初期の録音と2025年の版では、編成も歌詞の範囲も異なる。
同じ条件で声の衰えや成長を測る比較ではなく、昔の曲をいまどう歌い直すかという選択をたどれる二つの版である。

「走る岩(EXTENDED ver.)」/『Next Chapter EP』(2025年)収録の公式音源。

冒頭の「Skeletonize!」だけを見ると、ホリエは初期の激しさへ戻ったように見えるかもしれない。
けれど、その歩みには、別の歌手から力の抜き方を知り、バンドの中で歌を前へ出す経験がある。
荒さを残すときにも、それ以外の方法を知ったうえで選んでいる。
そして近年は、声の重ね方や古い曲の歌い直しにも、新しい可能性を探している。
ホリエの変遷は、いつも同じ声で歌い続けることより、一曲に必要な歌を選び続けるところにある。

一曲の中での声の使い分けは、ホリエアツシの歌い方で「シーグラス」と「Skeletonize!」を中心に考える。

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