後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の歌い方|叫ぶだけでは終わらない、言葉のリズム

椅子に座る後藤正文 シンガー
後藤正文。2022年のインタビュー掲載写真。撮影:上山陽介/音楽ナタリー

後藤正文の歌といえば、「リライト」のサビで張り上げる声を思い浮かべる人も多いでしょう。
あの声が来るのを待ってしまうほど、アジカンの強い印象になっています。

ところが本人は、サビで声を爆発させなくても、曲を勢いよく走らせる方法を探してきました。
手がかりになるのが、言葉をどのタイミングで、どんなリズムに乗せて歌うかです。
ギターを弾く手から歌を自由にしたソロと、サビの作り方を変えた「宿縁」。
この二つをたどると、後藤の歌がシャウトだけでは説明できない理由が見えてきます。

「リライト」の声を、毎回求められる歌手

2004年の「リライト」は、後藤のシャウトを知るうえで外せない曲です。
抑えていた声がサビで一気に大きくなる、その変化自体が曲の見せ場になっています。

こうした代表曲があると、新しい曲にも同じ盛り上がりを期待したくなります。
実際、後藤はアニメの主題歌を依頼される際に、「リライト」のような曲を求められることがあると話しています。
ただ、その注文に毎回同じ方法で応じているわけではありません。

そもそも、後藤が声を張る理由は、感情が高ぶるからだけではないそうです。
2021年のインタビューでは、バンドのリハーサルで楽器の音が大きく、自分の歌がモニタースピーカーから聴こえなくなる事情にも触れています。
自分の声を確かめようとすれば、つい強く歌うことになる。

もちろん、これだけで「リライト」の歌唱が生まれたと決めつけることはできません。
それでも、周りで鳴っている音や、歌手が自分の声をどう聴けるかによって、歌い方の選択肢が変わるという話は面白いところです。
では、同じ歌手が、声を張り続けなくてもよい環境で曲を作ったらどうなるのでしょうか。

ステージでギターを弾きながら歌う後藤正文
ギターを弾きながら歌う後藤正文。2022年のツアーを扱った記事より。撮影:山川哲矢/音楽ナタリー

ギターを弾きながら歌う、という前提を外す

Gotch名義のソロアルバム『Lives By The Sea』は、2020年に配信され、翌年にCDとアナログ盤が発売されました。
この制作で後藤が大きかったと振り返るのは、自分で楽器を弾くことを前提にしなくてよかった点です。

ギターを弾きながら歌う人は、両方を同時にこなします。
歌とギターが同じリズムなら動きをそろえやすい一方、ギターを鳴らす瞬間とは違うタイミングで言葉を入れようとすると、手と口を別々に動かさなくてはいけません。
手拍子を続けながら、わざと手を打たないところで声を出す場面を想像すると、その難しさが少し分かります。

後藤も、ギターと違うビートで歌う難しさを説明しています。
このアルバムでは、ギターを弾きながら歌う姿を最初から想定せずに作れたため、歌詞を音符にどう割り振るか、つまり譜割りの自由が増えたのです。

これは、単に伴奏を誰かに任せて楽になったという話ではありません。
ギターを弾く手に歌を合わせなくてよくなれば、言葉を入れる場所から考え直せる。
声量を上げる以外にも、歌を面白くする方法が増えます。

「The Age」には、ラッパーのBASI、インドネシアのシンガーソングライターDhira Bongs、Keishi Tanakaが参加しています。
後藤一人のシャウトを待つ曲とは、歌声の組み合わせから違います。

BASIとの共演には、相手を自分の曲へ呼ぶだけで終わらない面白さもあります。
後藤が社会や政治への思いを歌うのに対して、BASIは争いよりも、一緒に飲みながら分かり合うことを提案する。
後藤はその言葉を、自分の歌詞への返事として受け止めています。
二人が同じ怒りを強調するのではなく、別の向き合い方が一曲の中に入ってくるのです。

後藤はこのアルバムで、自分を歌手だと考えながら、メロディーをどこまで減らしてラップに近づけるかも考えたと話しています。
高い音や大きな声で印象を残す方法に加えて、話すように言葉をリズムへ乗せる方法も試していたわけです。

青と黄色のシャッターの前に立つ後藤正文
Gotch(後藤正文)。2021年のインタビュー掲載写真。撮影:山川哲矢/CINRA

日本語を、意味だけでなくリズムとしても考える

もっとも、後藤が言葉のリズムを考え始めたのは、ソロでラッパーと共演してからではありません。

2009年のインタビューでも、歌詞の意味だけでなく、日本語を口にしたときの音やリズムを工夫したいと話しています。
初期には英語の仮歌を作ってから日本語の歌詞を合わせることが多かったものの、この頃には最初から日本語を乗せられるようになっていました。

ここでいう工夫は、難しい言葉を選ぶことではありません。
同じ長さのメロディーでも、一つの言葉を長く伸ばすのか、短い音を続けて歌うのかで、聴こえるリズムは変わります。
歌詞は意味を伝える文章であると同時に、歌手の口から出る音でもあるのです。

後藤は当時、髭の須藤寿について、日本語として伝わるのにリズムも格好いいという点に魅力を感じていました。
自分の歌について考えていたのも、ただ大きな声を出す方法ではなく、日本語でどう面白い歌い回しを作るかでした。

この関心を知ると、Gotchのソロは、アジカンと無関係な歌い方へ急に移ったものには見えなくなります。
バンドでも考えていた言葉のリズムを、ギターを同時に弾く制約の少ない環境で、さらに試せるようになったのです。

「宿縁」は、サビで爆発しないまま走る

2023年の「宿縁」は、テレビアニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のオープニングテーマです。
アジカンに勢いのある曲を期待する場面ですが、後藤はここで、サビの作り方を変えました。

本人は、「遥か彼方」や「リライト」のようにサビで爆発させず、どう疾走感を出すかを試した曲だと説明しています。
サビになった瞬間に声を大きくすれば、盛り上がりは分かりやすくなります。
「宿縁」で探したのは、その切り替えに頼りきらない勢いでした。

サビで声を張り上げることが、曲を勢いよく聴かせる唯一の方法ではない。
後藤が言葉のリズムを長く考えてきた話を踏まえると、「宿縁」も、声量の変化だけでなく、歌詞がどんな速さや間隔で続いていくかに注目して聴くことができます。
「リライト」のサビを待つ聴き方に、もう一つの楽しみ方が加わります。

だからといって、後藤が初期の荒々しい歌を捨てたわけではありません。
2024年に「遥か彼方」を録り直した際には、初期を思わせるがなる歌い方にも、あらためて取り組んでいます。
声を張らない方法を増やすことと、声を張る曲を大事にすることは、後藤の活動の中で同時に続いています。

待ちたくなるシャウトと、追いかけたくなる言葉

後藤正文の歌の魅力には、「リライト」のように、サビで声が大きく変わる瞬間があります。
一方で「The Age」では、ほかの歌い手と組むことで、言葉の乗せ方や一曲の中での声の役割が変わります。
「宿縁」では、サビで声を爆発させる以外の方法で、勢いのある曲を作ろうとしています。

「リライト」であの声を出す歌手が、ギターを持たずに歌う曲では、言葉を置くタイミングから考え直す。
バンドに戻れば、今度はサビで同じ爆発を繰り返さない曲も作る。
一度成功したシャウトがあるからこそ、それ以外の盛り上げ方を探す姿も面白い。
「リライト」が好きな人にも、Gotchのソロと「宿縁」を並べて聴いてほしくなる理由です。

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