後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の歌い方|叫ぶだけでは終わらない、言葉のリズム

椅子に座る後藤正文 シンガー
後藤正文。2022年のインタビュー掲載写真。撮影:上山陽介/音楽ナタリー

「リライト」のサビを聴くと、後藤正文の歌は、とにかく声を張るものだと思うかもしれません。
でも、曲を動かしているのは声の大きさだけではありません。
日本語を短く切るのか、少し間を置いて入れるのか。
言葉をビートのどこに置くかでも、歌の勢いは変わります。

後藤自身が長く考えてきたのも、その「譜割り」です。
歌詞を音符にどう割り振るか。
バンドでギターを弾きながら歌うときと、歌に集中して作るときでは、選べるリズムも違ってきます。

大きな声が出る理由は、感情だけではない

「リライト」のサビには、抑えていたものが一気に出るような強さがあります。
歌手が何を感じているかに耳を向けたくなりますが、後藤の歌う環境にも目を向けたいところです。

バンドの楽器が大きく鳴る場面では、自分の声をモニターから確かめにくくなることがある。
後藤は、そうすると強く歌ってしまうと話しています。
声を張ることを感情の証拠と決めつける前に、周囲の音と自分の声の聴こえ方を考えると、歌の見え方が変わります。

録音した歌を聴きやすくするには、声を大きくする以外の方法もあります。
2022年の『プラネットフォークス』について、後藤は、歌とギターの響く範囲を確保するため、ベースやドラムにはなるべく低い音域を受け持ってもらったと説明しました。
また、二本のギターが同じ場所で重なりすぎず、歌の旋律ともぶつからないよう、演奏する位置を整理しています。

後藤の声の存在感は、声だけを取り出して作られるものではありません。
ほかの音との重なり方によって、歌の細かな動きを聴き取りやすくすることもできる。
大きな楽器の音に向かって強く歌う場面と、録音の中で歌の居場所を作る作業、その両方を知ると、声の迫力にも違った背景が見えてきます。

日本語を、意味だけでなくリズムとして置く

2009年の取材で、後藤は歌詞の意味とともに、どういう譜割りで歌うかを考えると話していました。
初期には英語で仮歌を作り、後から日本語を当てることも多かったそうです。
その後は、最初から日本語をメロディーへ乗せられるようになったといいます。

同じ「言葉をはっきり歌う」でも、すべての音節を同じ長さでそろえる必要はありません。
短く刻めば打楽器のような動きが生まれ、少し引き延ばせばメロディーが前に出る。
日本語を説明文として届けながら、リズムの一部にもする。
その両立が後藤の関心でした。

この2009年の取材で話題になっていた曲は「夜のコール」でした。
後藤は、言葉を口に出したときの感触に工夫を重ねていると説明し、髭の須藤寿についても、日本語の意味が伝わりながらビートを感じられる点を評価しています。
響きを面白くするために、何を言っているか分からなくしてしまいたいわけではないのです。

たとえば、歌詞を文章として読むときには一つにつながる言葉も、歌では途中に間が入り、音を伸ばす場所が変わります。
その区切りを追うと、何を歌っているかだけでなく、言葉がどんな動きを生んでいるかを聴けます。
後藤のいう譜割りは、音符に文字を収める作業にとどまらず、口から出る日本語を音楽として組み立てる作業でもあるのでしょう。

青と黄色のシャッターの前に立つ後藤正文
Gotch(後藤正文)。
2021年のインタビュー掲載写真。
撮影:山川哲矢/CINRA

ギターを弾く手から歌を離すと、何が変わるか

バンドでは、後藤はギターを弾きながら歌います。
歌とギターを別の位置で刻むには、手と口で違うリズムを保たなければなりません。
楽器を弾かずに歌を考える場面なら、言葉の入る位置をさらに動かせます。

Gotch名義の『Lives By The Sea』を作る際には、ギターを同時に弾く姿に縛られず、譜割りを考えられたと本人が説明しています。
これは、バンドの歌が不自由で、ソロが自由だという単純な話ではありません。
演奏を兼ねるときの制約が外れると、どの言葉をどこに置くかを別の角度から試せる、ということです。

アルバムの「The Age」ではBASI、Dhira Bongs、Keishi Tanakaが参加します。
後藤は、BASIの言葉を自分の歌詞への返事として受け取ったと語りました。
一人で歌い切るよりも、相手の一節を受けて次の言葉を置く。
そうした掛け合いも、声の強さとは違う歌の動かし方です。

「The Age」では、歌い上げる代わりに言葉を立てる

「The Age」の終わりには、詩を読むように語る部分があります。
その言葉について後藤は、曖昧に大丈夫だと励ますより、強い語気で生きることを肯定したかったと説明していました。
感情を強く伝える場面でも、必ずしもサビの高音や大きなシャウトへ向かうわけではありません。
文章を語る声にも、言葉を届ける切迫感を持たせようとしているのです。

共演したラッパーたちに感心した点も、速く多くの言葉を言えることだけではありませんでした。
後藤が挙げたのは、言葉の書き方や声色によって自分らしさを示し、曲の中で存在感を持つ姿勢です。
歌う人が替われば、同じ伴奏の上でも、話し手の距離や言葉の温度が変わる。
「The Age」の掛け合いは、声を重ねて厚くすることとは別に、異なる声で曲を進める面白さを教えてくれます。

一方、アルバム最後の「Lives By The Sea」は、高らかに歌い上げて終わる形を選びませんでした。
後藤は、聴き手がそれぞれの暮らしへ戻っていけるような終わり方を考え、最後をJJJのラップに託したと話しています。
歌う量を増やすだけでなく、どこで自分の声を相手へ渡すかを決めることも、歌の表現になっているのです。

ライブでは、その場の演奏と歌を組み直す

こうした言葉の配置は、録音された形を一度決めたら終わり、というものでもありません。
後藤はライブと録音を分けて考え、ステージでは音の長さやビートの揺れが変わることも受け入れると話しています。
『プラネットフォークス』の取材で説明したのは、その日の演奏者が出す音で、曲をもう一度組み立てる考えでした。

同じ曲でも、伴奏の間合いが変われば、歌と言葉の関係にも耳を向け直せます。
スタジオ版を基準にして聴く楽しさと、その場で生まれる歌と演奏のやり取りを楽しむこと。
後藤の歌を追うときには、その両方を持っていたいところです。

シャウトの手前にも、歌を走らせる場所がある

後藤の歌を「叫び」とだけ呼ぶと、その前に言葉をどう並べ、伴奏のどこへ差し込んでいるかが見えにくくなります。
「リライト」を聴くときも、サビの大きな声を待つだけでなく、そこまでの言葉の長さや間隔に注目できます。

ギターを持って歌う場面、歌だけに集中できる場面、別の歌い手と一曲を分け合う場面。
環境が変われば、同じ人にも違う譜割りの選択肢が生まれる。
後藤の歌い方の面白さは、大声の奥にある、その小さな位置決めにあります。

初期の歌声へ二十余年後に挑んだ理由と、「宿縁」でサビを爆発させない選択は、後藤正文の歌声の変遷でたどっています。

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