ライブより音源でいい。
そんな考えを持っていたmajikoが、初めてのワンマンでは跳びながら歌い、自分でも驚いたという。
それから十年後の2025年には、ライブで思い切り声を出せる曲を増やしたいという思いが、新作の出発点になった。
初めからいろいろな声を持っていた歌手に、客席との出会いは何をもたらしたのか。
「心做し」で知られる表現力を舞台へ持ち込み、やがてステージで得た手応えから次の曲を作るまで。
その間には、予想と違う曲が歓迎された経験も、観客の反応をつかめなくなった時期もあった。
「心做し」公式ライブ映像(2018年公開)。
2015年、「アマデウス」で自分の意外な顔を知った
ニコニコ動画で歌を発表していた「まじ娘」は、2015年に『Contrast』でCDデビューした。
学生時代はドラムを叩きながら歌っていたが、専門学校に入る直前、歌に専念する道を選んだ。
周りより遅れるのではという怖さを抱えながら、自分なりに勉強を重ねたという。
もともとは、人前で歌うことが好きではなかった。
ドラムと歌で手いっぱいで、表情を使って何かを伝える余裕もなかった。
転機は、CDデビュー前に出演したライブだった。
客席から即座に反応が返る楽しさを知り、歌う自分も観客と一緒に楽しめることが分かった。
音源を仕上げることとは違う喜びが、目の前にあった。
2015年6月の初ワンマンでは、さらに予想外の自分に出会う。
ホリエアツシ提供の「アマデウス」を、みきとPのアレンジによる四つ打ちのリズムで演奏すると、跳びながら歌うのが楽しくて仕方なかった。
ホリエも、「心做し」のように曲へ入り込む姿からは予想しなかった、観客へ親しく働きかける姿を見ている。
録音で完成させた歌を披露するだけでなく、その場の演奏が別の表情を引き出したのだ。

写真出典:2015年のrockin’on.com取材写真
「アマデウス」――2014年のMV
一方、録音で声を選ぶ姿勢は、すでにはっきりしていた。
ホリエは、うまく歌えるかを試す段階を越え、自分が好きだと思える声を選んでいると評した。
本人も多種類の声をすべて自分の声として捉え、他人の歌詞へ近づくために、滑舌やかすれまで選ぶと話す。
舞台で開放的になったからといって、曲ごとの細かな選択がなくなったわけではない。
ピアノと電子音が、歌の居場所を広げた
2017年の『CLOUD 7』まではギターを中心に作る曲が多かったと、長年の協力者である木下哲とmajikoは振り返る。
その中の「ノクチルカの夜」をピアノで作ったことが、鍵盤の可能性を知るきっかけになった。
2018年の『AUBE』では、haruka nakamuraがピアノを弾く「声」が冒頭を飾る。
この曲でも、majikoはピアノの可能性を強く感じたという。
歌を取り巻く音を広げる作業は、2019年の『寂しい人が一番偉いんだ』でも続いた。
majikoは、自分はバンドではないのだから、生楽器の編成に縛られなくていいと考え、電子音を取り入れたと話している。
ギター中心の形だけを前提にせず、曲に必要な音を選べるようになったのだ。
その自由さの中にも、ライブを重ねて育った「ひび割れた世界」や、Michael Kanekoが手がけた「狂おしいほど僕には美しい」がある。
編成を変えることは、バンドと歌ってきた自分を捨てることではなかった。
歌に合う形を増やしながら、録音した作品をライブへ持ち込んでいく。
「ひび割れた世界」公式ライブ映像(2018年7月、YouTube Space Tokyo)。
2019年、海外の客席が求めていたのは自分の曲だった
同じ年には、自分の歌がどう届いているかを知る出来事もあった。
10月に中国と台北で初めてライブをした際、majikoは、動画のカバー曲を通じて知った人が多いだろうと考え、最初の公演ではカバーを多めにした。
ところが、予想に反して反応がよかったのはオリジナル曲だった。
そこで次の公演からは、自分の曲を増やした。
2022年の取材でこの経験を振り返り、オリジナルを聴いてもらえている実感がうれしかったと話している。
何を期待されているかは、発表前の想像だけでは分からない。
客席に応じて歌う曲を選び直すことが、自分で作る音楽への手応えにもつながった。
声の返らない客席から、もう一度ライブをつかみ直す
ライブの楽しさを知っても、その感覚をずっと保てたわけではない。
コロナ禍の豊洲PIT公演では、観客が声を出せず、換気で寒くなった客席が上着を着込む様子にも不安を感じたという。
観客と一緒にライブを作る感覚をつかみかけたところで、それを見失うような時期があった。
それでも、マスク越しの視線から思いを受け取った。
2022年7月のワンマンに「愛わかる」という名を付けたのも、目で愛が分かる、という実感からだった。
公演後には、体を揺らす人や思わず漏れる声に触れ、自分の歌が届いていると感じられたと語っている。
大歓声だけが、歌い手を支える反応ではなかった。
そのころ発表した「交差点」は、人生の岐路で立ち止まる人を描く曲だ。
majiko自身も、気持ちを言葉にすることで過去の自分を知り、同じ思いを抱く人を考えながら作ったという。
メロウな前半から、転調やストリングスを伴うサビへ。
本人が意識したドラマティックな構成は、身動きの取れない気持ちを一つの表情に閉じ込めない。
『愛編む』で選んだ、暗い声と跳べる曲
2021年の「白い蝉」から2022年の『愛編む』へ向かう制作では、チームで「救い」という軸を共有した。
ただ、最初からその言葉が自由を与えたわけではない。
majikoはテーマにとらわれすぎた時期もあり、一度仕切り直すつもりで暗い曲「Princess」を提出した。
スタッフは明るい曲を好むだろうという予想に反して歓迎され、リード曲になった。
そこには、2019年末の「グリム」を聴いた人から、オペラを思わせる歌い方もできるのだと反応をもらった経験がある。
本人は、その声を使える曲が欲しいという気持ちもあったのかもしれないと振り返った。
「救い」を明るい声だけで表す必要はない。
自分の暗さや強い声も、アルバムの中心に置けると分かったのだ。
反対に、「ジャンプ」では苦手意識のあったアップテンポの曲作りに踏み込んだ。
それまではミドルテンポで横に揺れる曲を好んで作っていたが、アルバムの終盤に、ライブで思い切り盛り上がれる曲が足りないと気付いたという。
haruka nakamuraに作ってもらった「声」のような高揚を、今度は自分で作ってみたかった。
筋トレ後の上向く気分を曲にしながら、思い浮かべたのは観客が跳ぶ姿だった。
2015年には「アマデウス」の演奏に自分が引っ張られて跳んだ。
2022年には、そうした場面を自分で作る側へと意識が進んでいる。
2025年、「ロカ」は客席で得た答えから生まれた
2025年の中国のフェスでは、また客席の反応が次の制作を動かした。
ヒップホップやトラップ系の出演者が多い中、生バンドを前に出した曲より「Princess」のように低音を効かせた曲のほうがよく届いたと木下は振り返る。
その経験を挟み、EP『GOLDEN JUNKIE』ではライブで使える曲を増やす狙いが、いっそう明確になった。

写真出典:2025年のReal Sound公演写真
そこで作った「ロカ」は、はっきりしたキックと左右の歪んだギターの真ん中に、majikoの声を置く発想から生まれた。
本人がサビで叫ぶと説明する声を、曲の中心に据える設計だ。
舞台の反応を受けて選曲を変えた2019年から、今度はその経験を新しい曲の形へ返している。
majikoはこの年、自分の中に複数の声の部屋があり、曲に合う声を瞬時に選べるようになってきたと話した。
木下も、リハーサルで泣いていた初期を知るからこそ、近年のライブ全体を運ぶ力に驚いている。
アウェイでも楽しく歌えるという本人の自信には、安心して声を出せるバンドとの関係もある。
十年前から、多彩な声は持っていた。
その声で何が起きるかを舞台で知り、予想外の反応も次の選択に取り込んできたことが大きい。
音源で十分だと思っていた歌手にとって、ライブは歌を届ける場所であると同時に、まだ作っていない曲を見つける場所になった。
一曲の中で抑えた声から強い声へどう切り替えるかは、majikoの歌い方で詳しく見る。







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