ドラマ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』で「I need your love」を聴いた人にとって、Beverlyといえば突き抜ける高音でしょう。ところが本人は、日本でデビューした頃の自分を振り返り、高い声は出ていた一方で、速い曲のリズムや音程にはまだ課題があったと語っています。2022年には、同じ曲を歌う際にも「高い声を出せるか」だけでなく、どのタイミングで言葉を置き、どんな声色を混ぜるかを考えるようになりました。
フィリピンで親しんだバラードを持って日本へ来た歌手が、ロック調のドラマ曲、軽やかなR&B、ディスコ、英語と日本語の歌詞、そしてカバー曲へと進む。その間に何を身につけ、何を残したのか。本人の取材と正規作品を発表順にたどります。
2016〜17年――得意なバラードから「I need your love」の速さへ
Beverlyはフィリピンで、ホイットニー・ヒューストンやセリーヌ・ディオンのバラードをコンテストで歌ってきました。日本で最初に録音した「Butterfly」は、本人にとって激しくアップビートな曲でした。2016年のEP『Tell Me Baby』で歌い、翌年のデビューアルバム『AWESOME』にも収録されます。2022年の取材で彼女は、この時期には速い曲にまだ慣れておらず、後から同曲を聴くとリズムの取り方が変わったと語っています。同じEPの表題曲「Tell Me Baby」も、当時の公式映像として公開されています。
2017年に広く知られた「I need your love」も、その延長線上にあります。大きな高音が耳を引く曲ですが、本人はデビュー当時、フィリピンで多く歌っていたスローなバラードとは違うアップテンポの歌に戸惑ったと話しました。2018年には、以前の自分が同曲のような曲を歌うとき、リズムの取り方をもっと学ぶ必要があると振り返っています。最初からすべてを自在に歌えていたから強い声が生まれたわけではありません。自分の得意な歌と異なる速度へ、声を合わせようとしていた時期です。
『AWESOME』では自作の英語詞にも初挑戦しました。一方、日本語は来日当初まだ勉強中でした。2018年の本人は、以前の録音では発音も歌い方も今と違い、日本語の「話し方」と「歌い方」をうまく区別できていなかったと述べています。高音の印象の背後で、速さだけでなく、言葉をどう伝えるかも課題になっていました。

2018年――『24』でリズムと日本語を、曲ごとに選び直す
2枚目のアルバム『24』で、Beverlyは明るいR&B、ラップを交えた曲、EDM、ドラマ向けのバラードを歌いました。制作時にはジャズやEDM、J-POPを聴き、それぞれの曲に合う歌い方を探してから録音に臨んだといいます。高い声を出す「Beverlyらしさ」は一種類ではなくなりました。
「LOVE THERAPY」について本人は、リラックスしたR&Bの中で高音も気持ちよく出せたと語っています。前作の勢いを単に弱めた曲ではありません。好きな人を思い浮かべ、笑顔で録音したという話からは、同じ高音でも曲の明るさと身体の力み方を結びつけ直したことが分かります。「A New Day」など大きく歌う曲も並ぶアルバムだからこそ、柔らかい曲で高音をどう扱うかが新しい試みでした。
日本語の課題も変わりました。2018年の取材で、Beverlyは以前に比べて言葉の意味が分かり、歌として表現しやすくなったと話しています。英語詞と日本語詞をまたぐ際には、音に乗せる感覚が違い、日本語では発音をはっきりさせないと意味が届きにくいとも説明しました。声の高さだけでなく、聞き手がその一語を受け取れるかが歌の判断に入ってきたのです。
2019〜20年――「尊い」の歯切れと、デュエットの柔らかさ
2019年の『INFINITY』では、Beverlyはディスコやファンクにも踏み込みました。本人によれば、これまで中心にしてきた伸びのあるメロディとは違い、ノリの中で歌いながら耳に残る言葉も作ることに苦労しました。岡崎体育が作詞・作曲した「尊い」はその象徴です。繰り返される短い言葉を明瞭に歌い、観客も口ずさめるキャッチーさを保つ。その両立を本人は難しかったと振り返ります。
一方でバラードを捨てたわけではありません。同じアルバムの「Again」では、声の広がりの中に熱を込める従来の強みを残しています。自身も、2017年のデビュー作は高音を生かした自己紹介、2018年の『24』は明るい自分を伝える作品、そして『INFINITY』はその先で好きだったさまざまな音楽へ挑む作品だと区別しました。変化は一つの声色への乗り換えではなく、使える選択肢を増やすことでした。
2020年にはDa-iCEの花村想太と「Endless Love」をデュエットしました。本人は、相手と歌うなら自分の高音だけでなく、柔らかい側面も見せたかったためにこの曲を選んだと語っています。強い声で主役を取るだけではない。他者の声と並ぶ場面で、何を引き、何を残すかも表現になりました。

2022年――『from JPN』で、高音を出すだけから制御するへ
2022年のアルバム『from JPN』は、初期の作品を英語で歌う版と、新曲を日本語で歌う版を含みます。本人が印象的に語るのは、高音への考え方の変化です。デビュー時から高い声は自分の特徴だったが、今はそれをもっとコントロールしたい。プロデューサーから声の表情が足りないと指摘され、ファルセットも練習して「VOWS」で取り入れたと話しています。高音の音量を上げ続ける方向ではなく、同じ高さの周辺に違う色を作る方向です。
「Never going back」では、ツアーでも演奏したベーシストと、最初から高い声にもグルーヴを持たせたいと相談して曲を作りました。メロディーも本人が考えた曲です。2017年に速い曲へ追いつこうとしていた歌手が、今度は声の動きと曲の土台を同時に考えている。2016年の「Butterfly」を本人が聴き直し、リズムの取り方と音程がよくなったと評したことともつながります。
同じ「I need your love」を後年の公式ライブ映像で見られるのも、この歩みを考える手がかりです。ただし、スタジオ録音とライブは条件が違い、映像だけで声帯や音域の変化は断定できません。比較するときに注目したいのは、本人が繰り返し課題に挙げてきた、リズムの置き方と高音の制御です。
2024年――カバーで「自分の声」を作り直す
2024年のカバー企画「THE COVERS」で、Beverlyは慣れ親しんだ洋楽にも別の難しさがあると話しました。「If I Ain’t Got You」は、原曲で親しんだ三連の感覚が、共同制作者JU!iEによる8ビートの編曲では変わります。本人は最初、歌い方が分からず相談し、録音まで試したと説明しています。曲を知っていることと、新しい拍の上で歌えることは別でした。
「Killing Me Softly with His Song」では、冒頭の声の重なりをどう作るか考え、ユニゾンやハーモニー、オクターブを組み合わせたと語っています。ホイットニー・ヒューストンの曲をカバーする際も、声をそのまま模倣するのではなく、自分のアドリブや歌い方を少しずつ置くと説明しました。かつて好きなバラードを歌ってきた歌手が、再び好きな曲へ向かう。ただし今度は、自分の拍の取り方、重ね方、声色を選んでいます。
新曲「Love Unlimited」は、本人の得意なバラードと強いビートを同居させた作品です。Beverlyは、迷子になった愛犬を想像して歌い、壮大な曲の中にもグルーヴを作ることへ挑んだと話しています。初期のバラードへ戻ったというより、これまで学んだリズムや人物の思い浮かべ方を、得意な歌へ持ち込んだ曲でしょう。
「I need your love」の高音は、今もBeverlyを知る入口です。しかし本人の取材を追うと、その背後で、速い曲のタイミング、日本語の明瞭さ、デュエットの柔らかさ、ファルセット、編曲ごとの拍まで選ぶようになったことが見えてきます。高音を失わず、出しどころを自分で決める歌手になっていったのです。一曲の中でそれらをどう使い分けるかは、Beverlyの歌い方で掘り下げます。







コメント