一条貫太さんは、自分の持ち歌を採点カラオケで歌い、67点を出したことがあります。
もう一度挑戦すると66点。
しかも機械から返ってきた助言は、本人の歌をよく聴くように、という何とも困る内容でした。
それでも一条さんは、歌唱コンクールで全国優勝を経験し、「歌唱王」では決勝3位、デビュー後には最優秀新人賞も獲得した歌手です。
この食い違いは、一条貫太さんの歌い方を考えるうえで格好の入口になります。
強みは点数の取りやすい均一な歌唱ではなく、高音と長い伸ばし、言葉を客席の最後列まで送る明快さ、そして歌っていない時間まで含めた客席との会話です。
「平成生まれの昭和なボイス」とは、古い声の物まねではありません。
歌を上手に処理するより、主人公と場面を大きく立ち上げる声なのです。
67点でも、一条貫太の歌が弱いわけではない
採点カラオケは、音程やリズムなどを一定の基準で比べるには便利です。
一方で、歌手があえて音を待ったり、語尾を伸ばしたり、言葉を強く置いたりする表現まで、作品の文脈どおりに評価してくれるとは限りません。
一条さんが受けたコメントは、リズムに合わせて、ためないように歌うことでした。
ところが、その歌い回しを作った本人が直すと、今度は点数が下がったのです。
ここで大切なのは、67点を「音程がどうでもよい証拠」にすることではありません。
機械へ合わせる正確さと、人へ物語を届ける歌唱力は、重なる部分があっても同じものではないということです。
一条さんが目標にしてきたのは、人を勇気づけ、客席と近い距離で歌える歌手でした。
点数より先に「誰へ、何を届けるか」があるため、歌の時間が機械の物差しから少しはみ出します。
「昭和なボイス」は生まれた年代ではなく、選んだ道にある
一条さんの家庭で演歌ばかりが流れていたわけではありません。
両親はフォークやロックを好み、家には野口五郎さんや西城秀樹さんのレコードがありました。
本人が演歌へ入ったきっかけは、物まね番組です。
最初は物まね芸人のまねをし、やがて、まねられている歌手本人の歌を聴くようになりました。
そこで演歌にブルースのような面白さを感じ、周囲の同世代とは逆向きに昭和の歌へ深く入っていきます。
つまり「昭和なボイス」は、平成生まれなのに偶然古く聞こえた声ではありません。
北島三郎さん、鳥羽一郎さん、井沢八郎さんらの歌を選んで聴き、古い歌の言葉や景色を自分の現在へ持ち込んできた結果です。
ただし、声帯の使い方を本人や専門家が具体的に説明した資料は確認できません。
高音をすべて地声、あるいはミックスボイスと決めることはできないため、この記事でも声区の名前だけで結論づけません。
本人が武器だと話すのは、高音と長い伸ばし
デビュー時、一条さんは自分の魅力として高音を挙げ、長く伸ばす場所も意識して歌っていると話しました。
この二つは、声を遠くまで運ぶ演歌の大きな見せ場です。
しかし、師事した作詞家と作曲家から繰り返し求められたのは、もっと基本的なことでした。
言葉と発音を明確にし、ホールの一番後ろにいる人へも内容が伝わるように歌うことです。
「いのちの花」では、母音をはっきりさせ、サビの言葉を歯切れよく出すよう本人が説明しています。
最後の高い一音についても、ただ声量を増やすのではなく、言葉の頭を狙って置く考え方が示されました。
太いペンで大きな字を書いても、線がつぶれれば読めません。
一条さんの高音は、太さだけでなく、母音と子音で文字の形を残すから歌詞として届きます。

元気な新人から、歌の主人公を引き受ける声へ
デビュー曲「ふたりの始発駅」で求められたのは、21歳らしい若さと元気でした。
歌っていない間も、客席と会話を交わしているように見せることを課題にしていたといいます。
3年目の「いのちの花」では、役割が変わりました。
勢いのある新人を見せるだけではなく、硬派な男性の熱い思いを、主人公になりきって届ける曲です。
伸びやかさを保ちながら流れるように歌うことも求められ、声の強さへ人物の感情を加える段階に入りました。
この変化があるため、一条さんの歌を「最初から最後まで大声」と捉えると大事な部分を見落とします。
同じ高音でも、若さを前へ出す時と、誰かを思う人物として歌う時では、声の目的が違うからです。
辰巳ゆうとさんの歌い方と比べると、同世代の演歌歌手でも、低音からジャンルを広げる人と、高音の伸びから役柄を深める人の違いが見えてきます。
客席との会話までが、一条貫太の歌になっている
本人はデビュー当初から、観客と距離の近いコンサートを目標にしていました。
その後の舞台では、歌だけでなく、ギター、テナーサックス、和太鼓、軽妙なトークまで組み合わせています。
2024年の初めての大規模な東京公演では、昭和歌謡、フォーク、海の男を描く演歌を行き来し、約1000人の客席へ26曲以上を届けました。
一つの声質だけを展示するのではなく、本人が「歌のテーマパーク」と呼ぶほど場面を切り替えたのです。
ファンの記録や公演関係者の感想でも、強い声だけでなく、客席へ届く声、歌とトークの落差、先輩の歌を自分の色で見せる力が印象として残っています。
高音の長さは分かりやすい武器ですが、人がまた会場へ足を運ぶ理由は、その前後にある交流まで含まれています。

4曲を比べると「昭和な声」の使い分けが分かる
「ふたりの始発駅」は、若さと元気を前面へ出した出発点です。
「いのちの花」では、母音と歯切れを保ちながら、熱い男性の役を引き受けました。
「大漁太鼓」は、掛け声とリズム、実際の太鼓の演舞まで含めて、客席を祭りの中へ巻き込む歌です。
2026年の「兄弟波止場」では、海の景色だけでなく、家族と命の物語を歌う方向へ進んでいます。
同じように力強く見える曲でも、元気、恋情、祭り、家族では、声が果たす仕事が違います。
最高音だけを切り取らず、「誰のどんな場面を見せようとしているか」を追うと、一条さんの歌は急に立体的になります。
鳥羽一郎さんの歌い方と続けて読むと、海の歌を受け継ぐ二人が、声の大きさだけでつながっているのではないことも分かります。
真似るなら、強い声より言葉の出口を見る
一条さんらしさを表面だけまねようとすると、高い音を胸の力で押し上げ、語尾を長く伸ばすだけになりがちです。
本人が受けてきた指導は、むしろ言葉を明確にし、最後列へ届けるという地道なものでした。
参考にしやすいのは、サビだけ急に頑張ることではありません。
曲の主人公を決め、言葉の頭を曖昧にせず、伸ばした先まで歌詞の意味を残す姿勢です。
高音の発声そのものは体格や訓練歴によって異なるため、痛みや強いかすれが出る声量を再現する必要はありません。
木村徹二さんの歌い方でも、強い演歌声ほど押す場所と引く場所を分けていることを確認できます。
二人を比べると、迫力は単純な音量競争ではないと分かります。
まとめ|67点の外側に、一条貫太の歌がある
一条貫太さんの歌い方は、高音と長い伸ばしを軸にしながら、言葉を最後列へ送る明快さと、客席との会話を重ねて作られています。
「昭和なボイス」は声の古さではなく、自分で昭和の歌を選び、その伝え方を今の舞台で育ててきた結果です。
採点カラオケの67点は、歌唱力が低いという話ではありません。
機械が測る整い方だけでは、ため、役柄、客席との距離まで採点し切れないことを、本人が身をもって示した少し可笑しく、かなり本質的な出来事でした。
一条さんの歌を聴く時は、最高音の高さだけでなく、その言葉が誰に向かい、どこまで届こうとしているかを追ってみてください。
そこに「平成生まれの昭和なボイス」の強さがあります。






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