花たんの歌声はどう変わった?2014年と2025年の「心做し」をつなぐ選択

花たんの公式ビジュアル・2025年HANAツアー告知 シンガー

花たんは2025年、11年前に投稿した「心做し」を歌い直しました。
昔の歌にできるだけ近づけるか、聴き返しながら迷った末に選んだのは、自分も、曲の中に思い描いた少年も、時を経たものとして歌うことでした。
当時の歌を好きだった人に、どう受け取られるかという不安もあったそうです。

なぜ、大切な歌をそのまま再現しなかったのか。
その選択には、好きな曲を見つけて歌った初期から、作家に希望を伝え、人物に合う声を選んできた経験が重なっています。

「心做し」本人による歌い直し(2025年)。

花たんの公式ビジュアル・2025年HANAツアー告知
2025年HANAツアーの花たん公式ビジュアル。
画像出典:花たん公式サイト

2008年の投稿|歌ってみたい気持ちが、機材より先にあった

花たんが「歌ってみた」を知ったのは、イラストを投稿していたピアプロで、歌い手から絵を使ったという連絡をもらったことがきっかけでした。
カラオケは好きでも、歌手を目指して活動していたわけではありません。
家族や友達に褒められても自信はなく、知らない人がどう受け取るかを知りたくて、2008年に投稿を始めました。

2025年のニコニコの取材では、最初は近くにあった通話用マイクと無料ソフトで録音したと振り返っています。
音が割れたらマイクを遠ざけ、翌日には電気店へマイクを買いに走ったそうです。
録音の知識を身に付けてから始めたのではなく、自分も歌ってみたいという気持ちが、道具をそろえる行動につながっていました。

2009年の「ロミオとシンデレラ」は、dorikoの曲を歌った投稿で、多くの人に声を知られるきっかけになります。
とはいえ、人気曲を追い続けることを活動の軸にはしませんでした。
2014年の取材では、流行っている曲や歌い方へ一斉に合わせるのは苦手で、自分ならこう歌いたいと思える曲を選ぶと説明しています。
自分の好きな曲のよさを、声を通して人にも知ってもらうことが、歌う理由でした。

2014年の「心做し」|救われた曲が、聴き手にも届いた

2014年6月に投稿した「心做し」には、その理由が強く表れています。
花たんによると、当時はつらいことが重なって気持ちが落ち込み、その中で蝶々Pのこの曲に出会いました。
歌いたくなったのは、自分が曲に救われたからです。

歌う際には、歌詞だけでなくイラストからもイメージを受け取っていました。
この曲では、絵に描かれた男の子が少しずつ心を知る様子を思い浮かべたそうです。
自分の気持ちを重ねると同時に、曲の人物が何を感じ始めているのかを考えて歌っていました。

「心做し」2014年投稿版(本人YouTubeには2016年掲載)。

その歌を聴いた人からも、救われた、元気をもらったという言葉が届きます。
花たんは、自分と同じような気持ちの人が曲に支えられていたと知り、うれしかったと話しました。
国内外の聴き手と出会い、さまざまな場所で歌うきっかけにもなった一曲です。
2025年の歌い直し企画へ誘われたとき、ほかの曲を比較して選んだのではなく、最初から「心做し」を考えていました。

自分で曲を書くことが、声の選び方にもつながった

同じ2014年には、アルバム『The Flower of dim world』で自作曲にも挑戦しています。
最初はソフトで曲を作ろうとしたものの、最後は鼻歌を録って、その先を託す形になったと振り返りました。
歌いたいものを自分で作るために、まずメロディを声で渡したのです。

「アネモネ」は、物語を書き進める中で、恋愛の歌から心の不安定な女の子の歌へ変わっていきました。
歌としては、中音域から一気に高音へ進む、自分らしく歌える曲を考えたといいます。
一方、「餓えた野獣」では好きな漫画の人物を思って作るうちに、自分が歌うことを忘れ、キーがかなり低くなってしまいました。
得意な声を生かす曲も、人物のイメージが先に立つ曲も、自分の創作から生まれています。

2015年の『Flower Rail』でも、自ら希望した作家たちに曲を依頼し、自作の「Color」を収めました。
表題曲はOSTER projectの書き下ろしです。
カバーを選ぶ活動と並んで、どんな曲を自分の声で一枚に並べるかという選択も続いていきます。

『ERiCa』では、同じ作家の曲でも大人の人物として歌った

2016年の『ERiCa』は、花たん自身が、花言葉の持つ幸福と裏切りという対照に引かれた作品です。
つらい出来事がある一方で、よいこともあった当時の気持ちと重なり、参加作家へ二面性をテーマにしたいと伝えました。
一曲ずつ好きな歌を集めるだけでなく、一枚を通じて扱いたい感情を共有しています。

OSTER projectが作った表題曲では、いつもと違う歌い方を求められました。
花たんは普段、OSTER projectのかわいらしい曲では少し子供っぽく歌うことが多かったそうです。
今回は大人っぽくという要望を受け、落ち着きと色気のある女性を思い描きました。
いつも以上に抑揚を意識し、ひとつの曲の浮き沈みを歌にしています。

『ERiCa』公式アルバムティザー(2016年・短縮版)。

作家への希望が、予想通りの曲になるとは限りませんでした。
天野月には、少し暗く、ロックの要素がある曲を思い描いて相談しましたが、届いた「栞」はその想像と違っていました。
天野から、花たんに歌ってほしい曲として作ったという連絡を受け、自分の気持ちも切り替わったといいます。
最初の希望へ引き戻すより、届いた曲が持つ感動を、聴き手にも伝える方向を選びました。

ATOLSの「生花」には、別の驚きがありました。
それまで聴いていたATOLSの曲よりもキーが高く、歌えるだろうかと不安になったそうです。
それでも、以前から好きだった作家のよい曲を歌えたこと、従来のアルバムになかった曲を収められたことを喜んでいました。
自分の希望を持つことと、作り手から届いた新しい可能性を受け取ることが、この一枚の中で両立しています。

2023年の「アルカンシェル」|昔からの相手と、新しい人物を歌う

2023年の「アルカンシェル」は、アニメ『転生王女と天才令嬢の魔法革命』のオープニングです。
「ロミオとシンデレラ」から縁が続くdorikoとの仕事ですが、実現には花たんからの働きかけがありました。
2022年のVTuberデビューに向けて曲を頼みたくなり、共通の知人を通じて再び連絡を取ったのです。
そこからdorikoがアニメ主題歌の話をつなぎ、作曲者の希望を聞かれた花たんは、dorikoを望みました。

かつてアルバムで組んだ頃に、いつか一緒にアニメソングを作りたいと話していた二人です。
久しぶりの連絡をためらいながらも自分から動いたことが、その願いの実現につながりました。
この曲で花たんが向き合ったのは、昔の自分の再現ではなく、アニスフィアとユフィリアという二人の主人公でした。

作詞したdorikoは、ユフィリアの目線を考えていたと話しています。
花たんは、歌う側からは二人のどちらの言葉にも取れると受け止め、サビにはアニスフィアの印象を持ちました。
その部分は明るく開けるように歌い、相手へ呼びかける言葉では、いつもの強めの歌い方を抑え、話しかけるように届けようとしています。
作家の考えを受け取ったうえで、自分が歌う視点も重ねたのです。

2024年の「gradation」でも、『やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中』のジルとハディスの、不器用で純粋な恋を思いながら歌ったと説明しました。
「心做し」の少年を想像していた頃から続く、人物の気持ちを声にする姿勢が、アニメの物語にも向けられています。

2025年の「心做し」|同じ少年も、同じ時間には戻さなかった

再録のとき、花たんは昔の投稿を聴きながら、当時へ限りなく近づけるかを考えました。
以前の歌を好きな人が、新しい歌をどう受け取るかも気になっていたそうです。
大切な曲だからこそ、歌い直せばよいと簡単には決められなかったのです。

最後に選んだのは、曲も、自分も、思い描いた少年も、あれから何年もたった現在にいるものとして歌うことでした。
2014年に、少年が心に気付き始める姿を想像したなら、2025年には、その人物の時間も止めない。
花たんは、当時とは違う自分を歌に出せたのではないかと振り返っています。
この再録には、蝶々Pが新たな伴奏音源を提供しました。
歌唱だけでなく、伴奏も新しくした録音です。

昔の歌が不要になった、という話でもありません。
花たんは、過去の歌には当時の感情でしか出せなかった表現があり、それを気に入っていると話しました。
その一方で、細部には今なら別の歌い方ができると思う場所もあり、ほかにも歌い直したい曲があるといいます。
そのときにしか残せないものと、後から見つかる表現の両方を認めているのです。

投稿後には、また歌ってくれてうれしいという反応が届きました。
花たんは、長く聴いてきた人からの言葉や、自分が気に入っている箇所に気付いてもらえることも喜びとして挙げています。
自分が救われて歌った曲が人に届き、その人の言葉がまた歌い手を支える。
「心做し」を大切に歌い直せた背景には、この11年間のやり取りもありました。

花たんの変遷は、歌える音が増えたという一方向の話だけでは捉えられません。
好きな曲を選び、自分でも作り、作家の提案を受け取り、同じ人物を違う時点から描き直す。
2014年と2025年の「心做し」は、どちらかを上書きする関係ではなく、違う時間の花たんが残した二つの歌です。
一曲の中での声の選び方は、花たんの歌い方で掘り下げています。

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