鞘師里保の歌い方・発声|楽に声が通る感覚と、踊りながら歌う力配分

2025年の取材記事に掲載された鞘師里保 シンガー
2025年の取材記事に掲載された鞘師里保

鞘師里保は、踊る力と歌う力の両方を舞台へ持っていく歌い手です。
そのために、声量を出すだけでなく、発声の感覚をつかみ直し、曲に合わせてリズムや言葉の温度も変えています。

気持ちが高まるライブでも、必要な声を出し続けたい。
鞘師が語る歌唱の工夫には、その課題への向き合い方があります。

喉を開くという感覚を、学び直す

2022年のVocal Magazine Webの取材で、鞘師は自分の声を金属的に感じ、喉を開こうと意識して歌っていたと話しました。
ところが、開こうとするほど余分な力が必要になり、逆効果になっていたと感じたそうです。

2022年の取材記事に掲載された鞘師里保
2022年の取材記事に掲載された鞘師里保。
画像出典:写真掲載元

本人がその後つかんだのは、声帯を閉じながら、その周りには空間があるという感覚でした。
声がきつく聞こえるから、とにかく開こうとする。
その一つの指示だけを追う状態から、自分が楽に歌えたときに何を感じていたかを確かめる方向へ進んでいます。

楽に歌えたときの感覚と、レッスンで学ぶ内容が結びつく。
本人にとって、練習の狙いがつかめたことも、歌う楽しさにつながっていました。

同じ取材では、口元やマイクへ声を乗せる意識が強かったところから、眉間のほうへ当てるイメージを使うようになったとも説明しています。
声の通り道を手で表しながら歌う練習にも触れました。
これらは鞘師が感覚をつかむために用いたイメージであり、本人は、指導の言葉を自分が理解できるかどうかにも相性があると振り返っています。

踊りながら歌うために、声量と力の配分を考える

観客がいると、気持ちが前のめりになり、声量が必要以上に上がってしまう。
鞘師は2023年の音楽と人の取材で、そんなライブの難しさを話しています。
喉への負担を感じる一方、踊りながら歌うため、力の配分も難しかったそうです。

歌とダンスのどちらかを優先したいのではなく、両方をしたいという考えでした。
曲数の増えた公演で、歌い踊り続けるための配分を考える必要がありました。
一日に二公演を行う日もあり、一曲で出し切るだけでなく、公演を通して状態を保つことが課題になっていたのです。

鞘師はダンスについても、歌のリズムや歌詞を補うものとして考えるようになったと話しています。
歌と別々に踊りを見せる意識から、楽曲の音を身体でどう表すかへ視点が移ったという説明です。
力を配分するのは、単に二つの動作を同時にこなすためではなく、声と身体で一つの曲を届けるためでもあります。

ビルボードライブの公演では、客席との近さを生かし、柔らかく語りかけるように歌うイメージも語っています。
熱を上げる舞台と、近くで言葉を届ける舞台。
鞘師は、歌う場に合わせて声の届け方を考えています。

2023年の公演前取材では、音源にあるストリングスが今回の編成にはないことを、歌い方を変える具体的な理由に挙げました。
音源の響きをそのまま再現するより、バンドの音と近い客席に合う親密さを考えたのです。
同じ曲でも、伴奏の編成と聴く人との距離が変われば、声で作りたい雰囲気も変わります。

録音でも、普段の自分らしい声へ近づける

ライブで出せる声が、マイクの前では違って聞こえる。
鞘師は「DAYBREAK」の制作時、感情や動きによって歌い方が変わる自分に、そうしたもどかしさがあったと話しています。
久しぶりの録音では、マイクとの距離をつかむことにも苦労しました。

このときは、制作側の判断を待つだけでなく、自分から録り直しを希望し、調子が出たタイミングを伝えることもできました。
録音した歌を、自分が思い描くいつもの声へ近づけるための試行錯誤です。
発声の感覚に加えて、どんな状態で録るか、どの歌を残したいかを本人が判断することも、作品の声につながっています。

16ビートを刻む歌から、曲に合うグルーヴを探す

グループで学んだリズムは、ソロの録音でも生きています。
2021年の「BUTAI」について、鞘師はリズムのよさを制作側に褒めてもらえたと話しました。
刻むリズムの多い曲で、以前の学びを使えた例です。

2022年の取材記事に掲載された鞘師里保
2022年の取材記事に掲載された鞘師里保。
画像出典:写真掲載元

2025年の取材でも、新しい相手と録音すると16ビートを感じ取られると話しています。
ただ、以前のように歯切れのよさを前に出すだけでなく、曲ごとに表現を変え、グルーヴで聴かせることにも取り組んでいました。

覚えたリズムを、どの曲にも同じ強さで示すわけではありません。
その曲で気持ちよく歌うために、身についた感覚の使い方を調整しています。

言葉の温度と、生の声を聴かせる場所を選ぶ

言葉が入ることで歌い方が定まった例が、「Melt」です。
曲だけを聴いた最初は難しく感じたものの、歌詞を乗せると自然に思い描いた歌い方になったと、本人は説明しています。
人に踏み込まれたくない主人公が、ある相手には心を開けるかもしれないと感じる歌です。

その人物の性格は自分から生まれた、とも話しています。
恋愛らしい声色を外から当てはめるだけでなく、どんな人が何を言おうとしているかを持つことで、歌う感覚が見えてきたのです。

「paradise」のラップでは、話しているときに近い感じを選びました。
本人は、ダンス曲らしく勢いを上げる表現との違いを意識しています。
言葉を強く打ち出すこと以外にも、曲に合う話し方があるという選択です。

2026年の「I AM」では、加工した声を素材にしながら、生の歌声が前へ出るように、音を削ることも選んでいます。
歌詞に合う声を聴かせる場所を、録音全体の中に作っていました。

本人は「I AM」や「どっち?」について、不完全な自分を表す言葉を自然な温度で歌えているとも話しています。
弱さを示す内容でも、必要以上に悲しげな表現へ寄せるとは限らない。
その言葉を今の自分として受け止められることが、歌の表情にも関わっています。
「paradise」の会話に近いラップとともに、強く押し出す以外の伝え方を考える手がかりになります。

サビを自分の声で構成するアイデアと、歌を前に出すための引き算が同居しているのが、この制作の面白さです。
加工した声は曲の音として働き、その中で言葉を歌う声が聞こえるように配置を考える。
声そのものの出し方だけでなく、周囲の音との関係を選ぶことでも、歌の届き方を作っています。

楽に声が通る感覚を知り、舞台では歌と踊りの力を配分する。
曲のリズムに合わせて、言葉をどう出すかも選ぶ。
鞘師里保の歌唱は、声を出す方法と、歌で何を届けるかを一緒に考えるところに特徴があります。

グループ時代からこうした課題がどう変わったかは、鞘師里保の歌唱変遷でたどっています。

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