蒼井翔太の歌唱変遷|「限界を作らない」歌が『LIMITLESS』に至るまで

『LIMITLESS』を語る2026年7月の取材に掲載された蒼井翔太 シンガー
『LIMITLESS』を語る2026年7月の取材に掲載された蒼井翔太

地声で出せるところを、あえて裏声にする。
2024年、蒼井翔太は大きなノートに歌詞を書き写し、色を付けながら「ハイドアンドシーク」の歌い方を組み立てました。
求めたのは、これまでの自分ならこう歌う、という予想を超えることでした。

2015年の『UNLIMITED』と、2026年の『LIMITLESS』。
どちらにも、自分で限界を決めずに進むという思いが込められています。
その間には、ライブで曲の表情が育った経験や、ピアノ一台を伴奏に歌う挑戦がありました。

曲に染まるところから、自分で細かな声の選択を組み直すところへ。
本人が語った録音とライブの経験から、歌への向き合い方の変化をたどります。

2015年、一人で二つの自分を歌う「UNLIMITED」

蒼井の音楽活動には、2006年にSHOWTA.としてデビューした時期があります。
声優としての活動を経て、2013年には蒼井翔太名義のミニアルバム『ブルーバード』を発表しました。
この名義での1stフルアルバムが、2015年の『UNLIMITED』です。

当時、蒼井は、自分の意見を言えるようになってきたことも振り返っていました。
以前は相手の反応が怖く、言いたいことを飲み込んでいたといいます。
さまざまな仕事やファンと過ごす時間を通じて、自分の活動では自分から考えを伝え、周りを引っ張りたいと思うようになったのでした。

そのリード曲「UNLIMITED」で本人が表現しようとしたのは、自分を縛っていた過去の自分と、これから未来へ向かう自分でした。
二面性をテーマに、一人でありながらデュエットしているような歌い方を聴いてほしいと話しています。

アルバム全体でも、曲ごとに違う歌い方で向き合い、Elements Gardenの楽曲へ自分の色を加えようとしていました。
限界を作らないという言葉には、今の自分のまま止まらず、ファンと長く時間を共有していきたいという願いがありました。

『UNLIMITED』を語る2015年の取材に掲載された蒼井翔太
『UNLIMITED』を語る2015年の取材に掲載された蒼井翔太。
画像出典:写真掲載元

2017年、難しそうだった曲へ自然に向き合えるように

約2年半後のアルバム『Ø』では、前作よりもさまざまなジャンルを歌えるようになったという手応えがありました。
「Stay With Me!!」や「Always Be Together」では、自分にとって新しい表現ができたと話しています。
以前は難しそうだと感じていた、ミディアムテンポでリズムのうねりを持つ曲にも、自然と向き合えるようになっていました。

それでも、蒼井は経験のある歌い方を次の曲へそのまま持ち込もうとはしていません。
一曲ごとに素の自分へ戻り、その曲が求める表現を自分の中へ落とし込むと説明しています。
タイトルのゼロは、積み重ねた経験を捨てる意味ではなく、初心に帰って新しい表現を生むための出発点でした。

役を離れれば自分に戻るという、声優の仕事にも通じる考え方です。
曲に染まることと、歌えるジャンルが増えることが、当時の蒼井の中ではつながっていました。

2019年、「Tone」はライブで歌い方が変わっていった

曲に向き合う時間が、歌い方をさらに動かすこともありました。
蒼井は2019年の「Tone」について、同年のツアー『WONDER lab. I』で歌うにつれて曲が体へ染み込み、歌い方も変化していったと振り返っています。
CDに入っていた初々しい青春感から、成長した、別の潤いのある青春感へ変わっていくという本人の実感でした。

何度も歌う中で本人と曲の関係が深まり、同じ曲でも違う温度が出てくると感じていました。
歌い方の変化は、次の新曲を作るときだけに起こるものではなかったのです。

「Tone」――2019年「WONDER lab. I」ライブ音源

続く「Harmony」では、さらに自分の想像を超える歌を目指します。
サビで声を伸ばすときにも、普段ならここまでだと思う範囲より、もっと先へ響かせるイメージを持ったと話しています。
本人はそれを、自分の壁を一つ破ることにも重ねていました。

一方、曲の中には小さな演じ分けもあります。
主題歌を担当したアニメ『この音とまれ!』で、蒼井が演じるのは神崎澪。
「Harmony」の2番のAメロには澪に通じる要素を感じ、そこだけ少し役柄の雰囲気を添えたといいます。
蒼井翔太自身の歌を軸にしながら、一部分へ別の表情を取り込んでいました。

「Tone」で曲が歌い手の中へ育っていった経験と、「Harmony」で自分から表現を広げようとした選択。
ライブで重ねる時間と、新しい録音に臨む意思の両方が、当時の歌を動かしていました。

2021年、声とピアノだけで届けるステージへ

2021年3月の配信ライブ『うたいびと』では、日本武道館のステージに、蒼井とピアニストの二人で立ちました。
もともと観客を迎えるために押さえていた会場でしたが、コロナ禍で配信へ切り替えることになったといいます。
会場の空気を直接共有できない中で、自分の歌の力で普段のライブと同じくらいのものを伝えたいと考えていました。

本人にとっては、その後の歌い手としての活動を左右するかもしれない、強い決意で臨んだライブでした。
自分で大きなハードルを用意し、プレッシャーをかけたことも明かしています。

取材の聞き手はこのステージに歌い手としての進歩を感じていましたが、蒼井自身は、自分にどんな影響があったかはまだ分からないと答えています。
一方で、目の前に誰もいなくても、ファンと共有してきた光景が頭に浮かんだことは、収穫だったと話しました。
これまで一緒に歩んだ人の笑顔を思い描きながら、自分の思いをまっすぐ届ける経験です。

2021年末から2022年にかけての有観客ツアー『coRe』でも、自分の声と歌を第一に届けたいと考え、舞台装置をシンプルにしました。
ただし、穏やかな曲を中心にした公演ではありません。
ミディアムテンポの「Powder snow」を挟みつつ、バラードを入れずに走り続けるような選曲を目指したため、リハーサルは大変だったと振り返っています。

観客が声を出せない会場で、拍手やペンライトを受け取りながら歌う。
飾りを減らして声を届けるという考えを、今度は勢いのあるステージの中で試していたのでした。
その幕開けを担ったのも、歌う中で変化を感じていた「Tone」でした。

「Tone」――2022年2月「WONDER lab. coRe」公演

2022年の取材に掲載された蒼井翔太の歌唱写真(公演年は不明)
2022年の取材に掲載された蒼井翔太の歌唱写真(公演年は不明)。
画像出典:写真掲載元

2024年、ノートを使って歌い方を組み直す

2024年のミニアルバム『Collage』では、曲を受け取ってからの準備にも、新しい工夫が生まれました。
「ハイドアンドシーク」は、ボカロPのえいぷから提供された曲です。
キャラクターとしてボカロ風の歌を歌う機会はあっても、蒼井翔太名義で挑戦するのは新しい経験でした。

本人が楽しんだのは、蒼井翔太ならこう歌うという概念を壊し、自分で歌い方を組み立てることです。
普段使っていた印刷の歌詞ではなく、大きなノートに自分で言葉を書き写し、何色ものマーカーで印を付けました。
裏声にする場所は青いペンで記すなど、自分用の設計図を作ってから録音へ入ったのです。

そこには、地声で出るから地声にするという決め方から、一歩離れる意図もありました。
地声でも出るフレーズで裏声を選ぶことや、歪みを加えてがなるように歌うことも、自分の表現として考えています。

実際に本人が挙げたのは、曲名を歌うフレーズの使い分けです。
1番のサビの終わりは裏声にし、転調した後の最も高い音は地声にしたと説明しています。
音の高さだけを頼りに声を決めず、曲のどの場面にどの表情を置くかを考えていました。

声を後から重ねることも見越し、最初の録音ではあえて歌わずに空ける部分も用意しました。
一度通して歌うだけでは作れない表現を、録音の順番まで含めて組み立てていたのです。

2017年には、曲ごとに素の自分へ戻ってから向き合うと話していました。
2024年にはそこからさらに、これまでの歌い方をいったん解き、細かな声の選択をパズルのように組み直す楽しさを見つけていました。

2026年、曲ごとの声の違いを自分らしさにする

2026年の『LIMITLESS』では、蒼井は、一人で全部歌っているのかと思ってもらえるような曲を求めたと話しています。
本人が聴き返しても不思議に思うほど、曲ごとにビブラートの幅や発声、声色、歌い方が違うという実感がありました。
その違いこそが自分らしさなのかもしれないと、改めて捉えています。

リード曲「Facing My Shadow」でも、本人は、一瞬で高いところへ向かうフレーズなどを楽しんで歌えたと振り返っています。
英語のフレーズが増えたことも挑戦の一つでした。
録音は大変だったものの、勢いに乗って歌えた楽しさがあったといいます。

『UNLIMITED』で自分の色を加えようとしていた歌手は、やがて、自分に定着した歌い方まで組み替えるようになりました。
ノートに書いた裏声の位置や、声を重ねるための空白は、その変化をよく表しています。
曲ごとの声が大きく違っていても、それが自分らしさになる。
『LIMITLESS』での実感には、同じ声の印象を守ることより、新しい曲の中で別の自分を見つけてきた歩みが重なります。
地声と裏声、息やかすれを曲の中でどう選ぶかは、蒼井翔太の歌い方で具体的に扱っています。

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