あらきの歌声はどう変わった?「ECHO」から、手術後の舞台と仲間の声まで

あらき あらき

2022年夏、あらきは喉の手術を前に、『IDEA』が今の声で残せる最後のアルバムになるかもしれないと考えていた。
それでも、新しい曲調を試し、自分にとっての歌の軸を作品へ収められたことが、手術へ踏み切る支えになったという。
約二か月後、復帰した舞台の幕を開けたのは、伴奏のない「Ark」だった。

カバーの「ECHO」で知られた歌い手は、どうやってそこへ至ったのか。
作家に歌いたい曲を注文し、受け取った言葉へ入り込み、自分でも詞や曲を書く。
その歩みを追うと、声をどう使うかを自分で決める場面が、次第に増えていく。

「ECHO」本人公式カバー動画(2014年)。

「ECHO」の作者へ、自分のための曲を頼む

2013年に動画投稿を始めたあらきにとって、2014年の全編英語カバー「ECHO」は、多くの人に声を知ってもらうきっかけになった。
だが、2016年の初アルバム『THE SKY'S THE LIMIT』では、人気曲を収録するだけで終わらなかった。
作者のCrusher-Pへ、新しい曲も書いてほしいと自ら頼んだのだ。

最初に届いた「You’ve Made Yourself Clear」を受け取り、もっと激しい曲も欲しいと伝えると、「Again」が生まれた。
キーやテンポは「ECHO」と同程度で大丈夫だと知らせ、あとは任せていたという。
知っている曲を自分なりに歌うところから、自分に向けて作られた曲を受け取る関係へ。
「Again」のデモには、ぜひ自分が歌いたいと思える手応えがあった。

DECO*27に依頼した「サイレーション」では、ライブで歌う場面まで伝えた。
好きなLinkin Parkの曲を挙げ、自分が「ストリーミングハート」を歌っているライブ動画も見せ、観客が一緒に歌える部分を求めたのである。
声の見せ場を自分一人で埋めず、客席が加われる場所を作る。
後年へ続くライブの考え方は、初アルバムの段階から具体的だった。

「サイレーション」公式MV(2016年)。

あらき
2018年のあらき。
写真出典:2018年の取材・公演写真

2021年、作家の言葉へ深く入り、自分の矛盾も歌う

『UNKNOWN PARADOX』は、全曲をオリジナルでそろえた2021年のアルバムだ。
あらきはロックを作る作家たちへ、自分だけでなく、それぞれが抱える疑問や矛盾も曲にしてもらおうと考えた。
DECO*27による表題曲も、そうしたやり取りから生まれている。

他人の思いを代弁することは、大きな負担にもなりそうだ。
ところが本人は、普段のカバーより深く曲へ入れたと話した。
親交があり、以前から歌ってきた作家だからこそ、歌詞や曲の性格が体になじんでいたという。
カバーを重ねた経験が、新曲を自分の歌として引き受ける助けになった。

「イスカノサイ」では、自分の中の矛盾も入れたいと、堀江晶太の曲へ詞を書いた。
2016年の作品にも本人作詞曲はあったが、今回はアルバム全体の問いに、自分の言葉で参加する仕事だった。
言葉を多く詰められる曲が届き、作詞には苦戦したという。
2021年6月の有観客公演では、アンコールでこの曲を歌い、自分の意見を客席へ投げかけた。

「イスカノサイ」公式MV(2021年)。

「Ark」の歌声を、自分一人のものにしなかった

同じアルバムの「Ark -strings arrange ver.-」には、別の広がりがある。
もともと歌を重視したミュージカル映画を思い浮かべて作った曲を、初めてのストリングス編成で作り直した。
最初は遠慮がちだった演奏に、弦が主役になるくらい踏み込んでほしいと頼み、ドラムもシンプルにしたという。
歌だけを押し出すのでなく、周囲の音の役割から組み直したのだ。

合唱する部分には、本人に加え、共同制作者K.F.Jとその妻の声も重ねた。
さらに2021年6月の公演では、声を出せない観客に代わってバンドメンバーが歌った。
録音と舞台の両方で、ほかの人の声が曲の中へ入っている。
「サイレーション」で望んだ一緒に歌える場面を、別の編成でも育てていたと捉えられる。

「Ark -strings arrange ver.-」レーベル配信の公式音源(2021年)。

2022年、『IDEA』で声に合う曲と難しい曲が重なった

翌年の『IDEA』は、ロックに軸を置いた前作と対をなす、電子音を前に出した作品になった。
FAKE TYPE.提供の「A New Voice」は、あらきがそれまで歌ってこなかったエレクトロスウィングへの挑戦だ。
色気を感じさせる声の人が得意そうな曲調だと思いつつ、その歌い方をなぞる以外の入り方を探したという。

「GOLD TOKIO」では、自分の声の捉え方をさらに具体的に語っている。
低い成分が多くない自分の声は、言葉を軽やかに乗せる電子的な曲にも合う。
そう考えた一方、実際に歌うとアルバムの中でも特に難しく、一度録り直した。
同じkors kによる「0 GAME」も録り直しており、声質に合いそうな曲でも、そのまま完成するわけではなかった。

全編英語の「re:GENERATE」では、語尾の音まで音符に収め、言葉が曖昧にならないように気を配った。
「ECHO」で英語の歌を広く知られた人も、新しい曲では一語の終わりから確認している。
得意な強さを繰り返すだけでは届かない曲へ、自分の声を合わせ直す。
『IDEA』の幅は、曲調の種類だけでなく、こうした録音での試行錯誤によって作られた。

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2022年のあらき。
写真出典:2022年の取材・公演写真

手術を前に残した声と、復帰公演で取り戻す自分

2022年7月下旬の取材で、あらきは喉の手術を受ける決断を明かした。
取材時点では問題がなくても、ツアーが続くと不調が出ていたという。
予定の中でいつ受けるか決めかね、声や歌い方が変わるかもしれないという不安もあった。

その一方、『UNKNOWN PARADOX』と『IDEA』には、自分にとって大切なものを収められたと感じていた。
もし歌声に変化があっても、その指標を持って進める。
本人が語ったのは、先の声への確信というより、変わる可能性を受け入れるための支えだった。

9月30日、横浜BayHallでの復帰公演は、アカペラで始めた「Ark」に、後からバンドとコーラスが加わる幕開けだった。
あらきは、歌から離れた二か月で失った自分を観客と取り戻す、という筋立てで公演を進めた。
滑舌を取り戻す話から「A New Voice」へつなぎ、リズムや表現力も一つずつ取り戻していく。
復帰を報告するだけでなく、歌う場面を客席と一緒に作るライブにしたのである。

2025年、意味を伝えることから、一緒に楽しむことへ

舞台へ戻った後にも、迷いはあった。
2025年の『LIVE ARK CLASSICS』で、あらきは前年、作品や公演に込めた意味が本当に届いているのか分からなくなったと明かしている。
それまで曲やライブに考えを込めてきたからこそ、届けることの手応えを失いかけたのだ。

このツアーでは、原点に戻り、客席と夢中で楽しむ感覚を取り戻せたという。
「しわ」や「銀河録」では穏やかな表情を見せ、「Ark -strings arrange ver.-」では、声を出せるようになった観客もバンドも一緒に歌った。
客席が加われる場所を作ろうとした2016年の考えが、2021年の制約を経て、会場の合唱へ結びついている。

本編は2016年の「サイレーション」で締めた。
客席に歌ってもらうために頼んだ曲が、約九年後も公演の終わりを支えていた。

「サイレーション」公式ライブMV(2025年ツアーの観客撮影映像と羽田公演の音源を使用、2026年公開)。

2025年12月28日の『LIVE ARK HELIX 2025』横浜公演では、はへー、KOOL、モリスレイ、un:c、悠佑と声を交わした。
アンコールの「ODDS&ENDS」は六人で歌い、あらきは歌い手を始めた頃の感覚を思い出すと話した。
歌う自分たちへ価値を与えてくれたリスナーに、感謝を伝える場面でもあった。
ソロの迫力を競うだけでなく、別の声と同じ曲を共有することが、公演の大切な意味になっている。

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2025年のあらき。
写真出典:2025年の取材・公演写真

翌2026年には、天月を加えた七人で「ODDS&ENDS」を再録し、公式チャンネルで公開した。
公演で結ばれた歌声を、その日の客席にいた人以外へも届ける形へ移している。

「ODDS & ENDS」公式動画(七人による再録版、2026年公開)。

2026年、自分で書く曲も、仲間と形にする

2025年の「Dead End Dance」は、あらきが作詞し、バンド仲間の鳴風が作曲・編曲した曲だ。
2026年7月のEP『ANY AND ALL WIND』では、この二人の制作を九曲へ広げた。
公式クレジットでは、詞は全曲あらき、作曲も「Dead-End Dance」を除く八曲をあらきが担い、鳴風が全曲を編曲している。
作家から歌を受け取る経験に加え、自分で用意した曲を仲間へ託し、形にする作品だ。

「ECHO」から始まる歩みには、カバーを通じて出会った作家、自分と違う声を持つ仲間、歌い返してくれる客席がいる。
手術を前に自分の軸を問い直したときも、その後にライブの意味に迷ったときも、歌う相手との関係は続いた。
あらきの声の使い道は、録音の中だけで完成せず、曲を作る人、共に歌う人との間で広がってきたのだ。

曲の中でラップ、英語の語尾、抑えた場面をどう扱うかは、あらきの歌い方で詳しく見る。

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