「Harder to Breathe」と「Moves Like Jagger」は、同じバンドの曲なのに、歌の印象がずいぶん違います。
前者では、ギターと一緒に言葉を鋭くぶつける。
後者では、軽い高音と繰り返すフレーズで、聴く人を踊りに誘います。
どちらも、歌っているのはアダム・レヴィーンです。
**鋭く不満を訴える歌から、軽やかに自信を振りまく歌へ。あの高い声の使い方が、曲とともに変わってきたのです。**
ロックに憧れた少年が、自分に合う歌い方を見つけ、バンドの外から届いた曲まで代表曲にしていく。
その道のりには、成功したやり方を続けるだけでは済まなかった転機がありました。
1990年代、歌いたかったわけではない少年
現在のアダムには、人前で歌うことをためらうイメージはあまりないかもしれません。
ところが、小学校の音楽教師に歌を褒められた頃は、恥ずかしさがあり、ギターを始めても歌いたいとは思っていなかったそうです。
バンドで歌う役になったのも、メンバーの中では自分が一番歌えたから。
本人は、特に初めのライブでは、うまくなかったと振り返っています。
前身バンドのカーラズ・フラワーズでは、パール・ジャムやウィーザーなど、その頃夢中になったロックの影響を受けていました。
1997年のアルバム『The Fourth World』も、この時期の作品です。
後年の柔らかい裏声や、踊れるポップソングから振り返ると、少し意外な出発点でしょう。
ただ、高い声を持っていたから、最初から現在の歌い方ができていたわけではありません。
どんな音楽に憧れ、バンドで何を演奏するかによって、歌おうとするものも変わっていきます。
1990年代末〜2002年、歌の手本をロックの外に探す
最初のレコードが成功せず、アダムとバンド仲間のジェシー・カーマイケルはニューヨーク州で学生生活を送りました。
周囲から聞こえてきたのは、ゴスペルやR&B、ヒップホップです。
典型的なロックバンドを続けることに飽きていた二人は、それらに惹かれていきます。
アダムは、ビートルズやサイモン&ガーファンクルなどから曲作りを学んだ一方、歌い方の刺激は別の場所に求めたかったと話しています。
曲を書くための手本と、声を使うための手本を、同じ音楽だけで済ませなくなったのです。
その変化が形になったのが、マルーン5としての2002年のアルバム『Songs About Jane』でした。
冒頭の「Harder to Breathe」では、ロックの強さがまだはっきり残っています。
アダムは短い言葉を細かく刻み、鋭い声をリズムに重ねます。
ギターの力強さと、歌の細かな動きが一緒にある曲です。
一方、同じアルバムには「This Love」や「Sunday Morning」もあります。
前者では声の硬さと甘さを切り替え、後者では、より穏やかな旋律へ声をなじませる。
一枚の中ですでに、強く押す歌と、柔らかく人を惹きつける歌を行き来していました。
この頃、歌唱が複雑になるにつれ、アダムはギターの役割をジェイムス・ヴァレンタインと分担し、歌に集中するようになります。
声の使い方が変わるのに合わせて、ステージでの役割も変わったのでした。
「This Love」での細かな声の切り替えは、アダム・レヴィーンの歌い方で詳しく扱っています。

2011年、自分たちだけで書かなかった曲が転機になる
マルーン5は、初期から自分たちで曲を書くことを大切にしていました。
そのバンドに、大きく異なる作り方の曲が届きます。
2011年の「Moves Like Jagger」です。
アダムは別の共演曲の録音で、プロデューサーのベニー・ブランコからこの曲を聴かされました。
女性が歌うことを想定した曲だったといい、アダムは、自分がミック・ジャガーのように動けると歌ってもいいのではないか、と考えます。
本人にとっても、うまくいけば巨大なヒットになるが、失敗すればキャリアを終わらせかねないと感じるほどの賭けでした。
それまでの恋愛のもつれを歌うアダムからすると、自分の身のこなしを得意げに売り込む役は、ずいぶん大胆です。
ところが、その誇張された自信に、軽くて目立つ高音が合いました。
言葉を何度も繰り返すサビでは、込み入った心情を語るより、短いフレーズそのものを覚えさせる歌になっています。
途中で加わるクリスティーナ・アギレラの力強い歌も、アダムの軽さを際立たせます。
彼女が声を強く押し出すと、曲にもそれまでとは違う迫力が加わる。
アダムの高音は、その中で繰り返し耳に残るサビを担います。
この成功を経て、2012年の『Overexposed』では、外部の作詞家や作曲家との共同制作が広がりました。
自分たちの演奏から曲を作るだけでなく、別の人の発想に、アダムの声を組み合わせる。
歌手としての仕事にも、新しい広がりが生まれます。
2017年、少ない音の中でも声が動く
ポップ路線が進んだあとのマルーン5では、打ち込みや電子的な音の存在感が増していきます。
2017年の『Red Pill Blues』は、その変化を聴き取りやすいアルバムです。
制作に関わったノア・パソヴォイは、この作品を、少ない音に聞こえるよう作ったアルバムとして説明しています。
何種類ものベースを重ねても、同じ一つのフレーズとして聞かせる、といった作り方です。
そこでアダムは、声色を変えたり、フレーズの合間に短い声を入れたりして、アクセントを作ります。
周りの演奏がすっきりしても、声の細かな動きは残っています。
「What Lovers Do」では、軽い高音や短いフレーズの反復が、電子的な伴奏の中で目立ちます。
バンド全体が押し寄せてくる力強さから、少ない音と声で体を動かす軽さへ、比重が移ったと捉えると分かりやすいでしょう。
とはいえ、このアルバムの最後にある「Closure」では、メンバーが長い演奏を繰り広げます。
アダム自身が、みんなで自由に演奏してアルバムを終えようと提案したものでした。
電子的なポップを作るようになった時期にも、バンドで演奏する楽しさは残っていたのです。

2025年、ヒットの作り方を知ったあとで
2025年の『Love Is Like』を作るにあたり、アダムは、自分から自然に出てくる音楽を作りたかったと話しています。
数多くのヒットを経験し、その中には、決まった方法に頼ったものもあった。
今回は、その方法からできるだけ離れてみたかったといいます。
アダムが初期のやり方に戻ったと語るのは、自分たちがどこに分類されるかを気にせず曲を作ることです。
その姿勢で、長年使ってきた声を、新しい曲にどう生かすか。
同作の「All Night」では、ベースやギターの動きに、柔らかい高音が重なります。
「Harder to Breathe」のように言葉を鋭くぶつけて進む歌より、短いフレーズを繰り返し、心地よいリズムを保つ歌です。
初期のバンドらしさに近づきながら、ポップソングで磨いてきた、短いフレーズを印象づける歌い方も使っています。
MVで歌手の役を演じているのは、アダムの妻でモデルのベハティ・プリンスルーです。
実際の歌声はアダムのもので、彼女がその声に口を合わせる演出になっています。
聞き慣れた声が別の人の姿と組み合わさると、アダムの高音そのものの個性にも、改めて気づかされます。
同年のテレビ出演では、「This Love」「Sunday Morning」と、新作の「All Night」「California」が同じ機会に歌われました。
初期の鋭い歌と新しい曲の軽い歌を、同じ日のステージで歌い分けています。
変わったのは、高い声の使い道
アダムは、最初からポップスターの歌い方を完成させていた人ではありません。
ロックに憧れ、別の音楽から声の使い方を学び、歌に集中するためにギターを任せる。
その後は、外部の作り手が用意した大胆な曲にも、自分の声を当てはめてきました。
初期の曲では、鋭い言葉と高い声が、恋愛の苛立ちを生々しく伝えます。
「Moves Like Jagger」では、その声が大げさな自信を楽しく聞かせる。
「All Night」では、同じ高音がバンドのリズムになじみ、軽い反復で曲を進めます。
声を聞けば同じ人だと分かるのに、歌から伝わる気分は変わっている。
**恋愛の切実さを歌う鋭さと、踊れる曲を軽く歌う甘さ。その両方を使えることが、アダム・レヴィーンの長い活動を支えてきました。**
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